05 命拾い?
俺様男が二杯目のお椀を食べ終わるころに、美男子様と、髭面男殿にも雑炊をよそい渡す。
そして、当然自分の分も。
「一つ椀が多いようだが?」
低い抑揚の無い声が聞こえた。
無視ムシ。
作ってもらってお礼も言えないような人に、返事をする義務なんてないし。
私はその男の声を無視し、ドカっと畳に座り込み、お椀を手にし食べ始める。
うん。
まぁ味は薄めだけれど、野菜と鶏肉の出汁が出ていて、なんとか食べられる味だわ。
「貴様! 若様の言葉を無視するとは!」
私の前に髭面男が立ちふさがる。
「うるさいわねぇ? 食事中に立ち上がって」
「ここには、こんな無作法な人しかいないの?」
「何だと? この小娘が!」
脇に差していた剣を抜こうとした時、
「控えろ! 若様の御前であるぞ!」
美男子が大声で叫ぶ。
「どいつも、こいつもゴチャゴチャうるさいわねえ」
「食事の際は、作ってくれた人と、食材に感謝し黙って食べなさいよ!」
「いい大人が恥ずかしいと思わないの?」
私は二人をキッと睨む。
「座れ」
低く、地を這うような声が響いた。
「しかし! 若様!」
「二度目はない」
先程の強い殺気が部屋中を覆った。
「申し訳ございませんでした」
頭を畳につけて謝る二人に、
「埃が立つからやめていただけます?」
「お行儀が悪いですね」
しっかりと俺様男の目を見て言い放った。
「ハッハッハッ」
「お前らの負けだ」
「ハッ、ハッ、ハッ。こりゃあいい!」
大笑いをした。
「娘、馳走になった」
それだけを言い残し、俺様男は立ち上がり
部屋を颯爽と歩いて出て行ってしまった。
「若様!」
後を急いで追う二人を横目に見ながら、
私は残った雑炊を食べた。
うん。んまい!
何とか、命拾い? した私は、お腹いっぱい食べて少し眠くなってしまってウトウトしていた。
────あれ?
もしかしてそのまま寝てしまった?
ん? ここは?
布団が掛けられていた。
「起きたか」
低く、鋭い声が響いた。
は! しまった!
あのまま寝てしまったんだ!
「ごめんなさい。私ったら。あのまま寝てしまったようで……」
「まったくだ。 俺に○ロ吐いたと思えば、俺と一緒の飯を俺の前で喰らい、おまけに俺の部屋で寝るとはな!」
え? ここ、あなたの部屋だったの?
「すいません……」
申し訳なく思い小さな声で謝る。
「翔陽だ」
あ? 名前か……
「花音と言います」
「ふーん」
興味なさそうな顔をされた。
「まぁ飯は美味かった」
「明日からも励め」
ちゃんとお礼を言える人なのね。とビックリしたが、
え? 明日からも? って??
表情に出ていたのか
「お前、働かずにタダ飯が食えると思ってたのか?」
あ、すいません。そうですよね……
厚かましいですよね。
でも私は命の恩人のはずですが……
お礼とやらは?
覚えてらっしゃいますか?
とは、口が裂けても言えない雰囲気だった……
私の将来大丈夫かなあ? これ……
「若様。ご用意ができました」
先程の美男子と、年配の女性の人が一緒に部屋に入ってきた。
「タキだ。わからないことがあれば、このタキに何でも聞くといい」
「あとは、ほれ」
紙束のような綴りを、私に軽く投げた。
「これは?」
「必要な物があれば、これに書いて、そこにいる彩京に渡せ」
「今はあまり高価な物は買ってやれないかもだが、不自由しない程度になら」
「部屋を用意させた。タキ案内してやれ」
「承知しました」
「あ。ありがとうございます?」
「あと、言い忘れたが、お前は俺の臣下ではない。城の中では俺に遜る必要はないが、
客人と言えど、外の者がいるときは気をつけるように!」
鋭い視線で私を睨んだ。
「わかりました」
「タキ、連れて行け」
タキさんと呼ばれる年配の女性について歩く。
「若様は、あんな風ですが、常に民のことを思っておられる心は優しい方なんですよ」
目を細めながら言う。
「そうなんですか……」
「こちらでございますよ」
部屋の扉を開けて案内されると、8畳程の畳の部屋だった。
整理箪笥や、鏡台などもあり、綺麗に掃除されていた。
「ありがとうございます」
「何かあったら、いつでも私に言ってちょうだいね」
「それと小姓の小太郎を側に置くから、彼にも何でも言うといいわ」
「今日は疲れたでしょう。早めにお休みなさい」
「ありがとうございます」
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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