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04 雑炊鍋を作りましょう

 誰も居なくなった厨房で私は座り込む。


 どうする? 逃げる?

 でも、このまま逃げても何処に行く? 

 お金もないし、何処に行けばいいかもわからない。

 それに、まだこの国のことも全くわからない。

 とりあえず、今は大人しく言うこと聞いたふりして、従っておく?


 はぁ……

 何で異世界に来てまで料理を……


 料理は嫌いではない。病弱な母と二人暮らしだったため、家事は私が担当していた。

 バイト先も食堂だったし、賄いはいつも私が作っていた。


 だからと言って、この状況……


 しかも()()俺様に料理を作る?

 私、今度こそ殺されるわよね……


 あああ。クヨクヨ考えても仕方ない! 


 やるわよ! やってやるわよ! 

 やればいいんでしょ!


 ドスドスと歩き冷蔵庫の前にきて、勢いよく扉を開ける。


「へぇえ。結構食材入ってるじゃん」


「次は、鍋かフライパンっと」


「ところで何人前作るんだろ?」


 …………


 廊下に居た小姓に視線を向ける。


「何かお困りでしょうか?」


 困るも何も、何か説明とかしろや! ()()()()()

 怒りの気持ちを抑え小姓にたずねた。


「ねぇ? ところで私は、何人分の料理を作ればいいの?」


「ああ、それなら、若様と宰相様と将軍様の分だけでございますよ」


「城仕えの者の食事は、別にある使用人用の調理場で作りますから」


「へぇ」


 ん? 三人分? 私のが入ってないじゃん!

 ありえないし! こっそり私のも作ってやろっと!


「ねぇ? 主食はお米? それともパン?」

「米でございますね」


 お! やったー! お米が食べられる!


「あ、でも、お米を食されておられるのは、お三方だけでございますよ」


 は?


「下働きの者は麦が主食ですね」


 はぁ? なんでそんな差別よ!


「残念ながら、わが領は戦乱続きで米の収穫が乏しく、米は貴重なのです」

「若様や、宰相様や、将軍様も普段は麦の混ざった米を食されます」

「ただ、本日のように、戦から帰られた日や、戦に出発する日などは、勝利を祈願して米を食されます」



 えええ? この国ってそんなに貧乏だったの?


 じゃぁ、ここにある食材も、貴重ってこと?


 はぁ…… 

 異世界に来てまで、貧乏に悩まされるのか……


 ()()()()()って普通、煌びやかななお城とか、キラキラしたドレスや、宝石に、定番の美男子王子様とかが登場するんじゃなかったの?


 周りを見渡す。


 薄暗い長い廊下が続き、端には埃のあとが。

 人はと言えば、この弱そうな少年が一人。


 終わったな。私の第二の人生……



 まぁクヨクヨ考えても仕方ない。

 来ちゃったものは仕方ないし。

 とりあえず、ここで働いてお金貯めて、早く出て行こう!



「ねぇ? ご飯の炊き方わかる?」


 流石に電気炊飯器はないだろう。

 釜で直火でご飯なんか炊いたことないぞ?


「ああ、それだったら私がしますよ」

「本当? お願いしていい?」

「はい」

 良かった。第一関門突破!


「ねえ、大きなお鍋は何処にあるの?」

「ああ、こちらに大抵のものがありますよ」


 流し台の下の扉を開けて見せてくれた。

「お好きにお使いくださいね」

「ありがとう」 


「ねえ? 調味料って何処にあるの?」

「?」

「え? 調味料よ?」

「?」


 暫くの沈黙が続く


「え? まさかとは思うけど、調味料ってないの?」

「そ、その、ちょうみりょう? と言うものは?」


 ええええええ!


「もしかして? 調味料知らない?」


「申し訳ございません。初めて聞く言葉でして」

 

 嘘でしょ? ありえない……


「お塩とか、お砂糖とか、お醤油とか、ないの?」


「ああ、塩はありますが、大変貴重でして、滅多に使うことはありません」

「砂糖など、目にすることも殆どございません!」

 

 嘘でしょ? ここそんなに貧乏だったの?


「おしょうゆ? と言うのは?」

 

 まじか! 終わった……


 うん。無いものは仕方ない。


 てか、私とんでもないところに来ちゃったんじゃないこれ?

 貧乏だから? とかの問題じゃないような気が……

 これ、この食糧問題から解決しないといけない話になるんじゃないのかしら?


 とりあえず、今は作るか。


 鍋を火にかけ、水をしっかり入れて大根や、人参の皮を入れ、ネギと鶏肉の皮を入れて煮る。

 鶏皮と野菜を一旦、鍋から取り出す。

 

 そこに、大根や人参などの野菜を入れ、再び煮込む。

 小麦粉に水を混ぜ、団子を作る。

 

 団子を作る際、人参の切れ端を小さく切った物と鶏肉を混ぜ団子にした。

 鶏肉は叩いて潰しミンチにして、これも団子にする。


 あとは、炊けたご飯を少しいれて、塩で味を整えて、ネギを散らしたら出来上がり。


 ウチでもよくしてた貧乏家族には定番の、かさ増し雑炊の完成だ。


「さぁ、できたわ! 若様のところに持って行きましょう!」


「もう出来たんですか?」


「ええ。そうよ。この鍋ごと持っていくのよ!」


「え? このままですか?」


「そうよ? たっぷりあるし、好きなだけお椀によそってお出しするといいわ」


「では、私が鍋をお持ちします。ついてきてください」


 私は、お椀とスプーンにコップ、大きめなスプーンのような杓文字を持ってついて行った。


「若様、夕食ができました」


 少年が扉の前で言うと、扉が開いた。


 あった! 良かった。これで温かいまま食べられる!


「ほーう」

 ニヤリと俺様男が言う。


「これは、鍋でございますか?」

 先程の()()()が、微笑みながら目を細める。


「無礼な!」 

 髭面男が叫び立ち上がる。

「永建!」

「しかし! 若様」


「静かにしろと、言っている」

「聞こえぬか?」

 低く、鋭い声がした瞬間、部屋の中が緊張で静まり返った。


「申し訳ございません」


「温かいまま、食べてもらいたくて、鍋のまま用意しました」

「こちらに置いても?」火鉢を指差す。


「かまわん」低く抑揚のない声がした。


 私は小姓に目配せし、鍋を火鉢の上に置いてもらった。

 お椀に、特製雑炊をよそい、スプーンと一緒に、俺様男に差し出す。


「ほう。雑炊か」

 スプーンを手にした瞬間、髭面男が

「なりませぬ! 若様。お毒見がまだ!」

「かまわん!」


 俺様男は、雑炊を豪快に掬い口に入れた。


 少し口の端を上げたが、そのまま無言で食べる。


 ほんの短い沈黙のあと、俺様男が、

「いれろ!」

 空になったお椀を差し出した。


 美味しいとか、美味しくないとか何かないのか! 

 ムッとしたが、仕方なくおかわりをよそい、

 俺様男に渡す。


 もぎとるように私の手からお椀を取った男は、

 またしても無言で食べはじめた。


 何なのよ、この俺様ぶり!


 ムカつく!



















「最後までお読みいただき、ありがとうございます」

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