03 料理番って何ですか?
「ひえーー落ちるぅー」
「助けてぇーー」
「おがぁぢゃぁーーん」
「うるさいなぁ。ぎゃあぎゃあ騒ぐなって言ったろ!」
「だってぇー」
「ひぇーーー」
そう、私は今、誘拐? されている途中だった。
そして、生まれて初めて馬に乗っている。
まぁ正確には乗せられていると言ったほうが……
────時は少しだけ遡る。
「行くぞ!」
「若様、申し上げ難いのですが、若様お一人と思い、馬は三頭しかご用意しておらず……」
「チッ、くそッ。 仕方ない」
「女、来い!」
「え?」
私は気づいたら、その俺様男に担がれ、馬上にいた。
そして何の説明もないまま、超スピードで馬が駆け出したのだった。
そして今、私は、先程食べたおにぎりが……
ウッ……
食べるんじゃなかった……
これ以上揺れたら……ヤバイ。
「開門!」
ん? あまりの怖さとスピードと、
気持ち悪さでずっと目を瞑っていたけれど、
その大きな声にそっと目を開けた。
「お城?」
日本のお城とはちょっと違う? 雰囲気のお城があった。
大きな門がギィーっと音を立てて開いた。
馬はそのまま駆けて入る。
男は飛び降り歩き出す。
私は周りをキョロキョロと見渡すと、美男子様が私を馬から降ろしてくれた。
急ぎ前を歩く俺様男を追う。
「ちょっと待ってよ!」
「あん?」
あまりの強引さに頭にきて、その俺様男の服を掴んだ瞬間、
あ! ヤバイ! もう我慢の限界!
ウッ……ゲ×××
「きーさーまあああ!」
ゴメン。だって、馬に揺られて、
もはや限界だったし……
でもスッキリした。
ハッ! ヤバイ!
凄まじい殺気と、先程の炎のような熱気が辺り一面に広がった。
「若様!」
急ぎ私に、駆け寄って来た美男子様の後ろに咄嗟に隠れた。
「彩京、どけろ!」
「若様! なりません! この方は若様をお助けしてくれた御方!」
ああ、私の短かった人生さようなら……
目を瞑った瞬間、
先程までの殺気がおさまった。
カキン。
小さな金属の音が聞こえた。
「おい、見たか? 今の?」
「若様が一度抜かれた剣を鞘におさめたぞ」
「あの、女子供にも一切容赦しない若様が」
「こりゃあ、嵐の予感だ。急いで雨戸を閉める用意をせねば!」
蜂の子を散らしたように、周囲にいた人達が去って行った。
「くそが」
「この女を、料理場に連れて行け!」
一切私を見ることなく、
低く鋭い声で、美男子様に言い放った。
「ささ、参りましょうか? お嬢さん?」
私の手を取り、案内してくれる。
「あ、まだ名前を名乗ってなかったですね。申し訳ございません」
「私は、この国の宰相をつとめております彩京と申します」
国? じゃあ、あの人は国王様?
「先程のお方は、この国の城主様の翔陽様にございます」
「まぁ……あの通り少々激しい気性ではございますが……」
あれ、少々? って言うレベル?
「一緒に居た髭の男は、我が国の将軍、永建と申します」
「はぁ、ご丁寧にどうも……」
「して? お嬢さんは?」
どうしよう。異世界から突然飛ばされて来たって、この人に言って信じてもらえるだろうか?
そんなことを言ったら、即刻殺されるかも?
うん。ありえる。あの人なら。
しかも私さっきゲ○ったし……
確実にダメなパターンだわ、これ。
でも、何て言おう?
「えっと…… ずっと山で暮らしててぇ……街に出ようと思って歩いていたら、道に迷ってしまって……」
無理だ……
どう見てもこの設定無理がある……
「そうですか。それは災難でしたねぇお嬢さん」
え? 今の説明でオッケーなの?
「ところでお名前を聞いてもよろしいですか? お嬢さん?」
「あ! すいません。はむ…… 花音です!」
「かのん様ですね。素敵なお名前ですね」
優しく微笑む美男子に少しうっとりして頬が熱くなり、急いで咳払いをして誤魔化した。
「こちらが料理場でございます」
厨房のようなところに案内された。
あら? 意外! 結構綺麗に整理されている!
「実はですねぇ……大変申し上げにくいのですが」
え? 何ですか?
まだ何か問題でもあるんですか?
怖いんですけど……
「以前の【料理番】がですねぇ、お辞めになりまして」
「誰も今ここにはいらっしゃらないのです」
満面の笑みで美男子様が言った。
は? 今なんつった?
助けたお礼にって?
もしかして、居なくなった料理人の代わりを私にしろってこと?
ゆっくりと美男子様に視線を向けると
ニッコリと微笑む。
はめられた!
「ついて早々で大変申し訳ないとは思うのですが……」
「若様はあのような気性のお方でして……」
「早急に食べるものを持って来いとご所望でして……」
「かのん様 お願いできますか?」
満面の笑みで私を見る。
はあ? そんなの無理に決まってるだろ!
初めてきた異世界で、しかも、ここが何処かも全くわかってない状態で、しかもあの俺様くんに料理を作る?
ありえないだろ。
「食材は、あの冷蔵庫に入っておりますから、お好きにお使いくださいね」
「では、よろしくお願いしますね」
ニッコリ笑う。
よろしくお願いしますじゃねーーし!
ちょい待て! そこの長髪!
「あ、わからないことがあれば、そこの小姓に聞いたら大丈夫ですからね」
と、廊下に居た男性の方を向き言う。
いや、そういう問題じゃないし!
「では、後ほどお会いしましょうね。花音様」
待って! と、言う前にその美男子様は消えていった。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
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