02 俺様若様現る
「おい! そこの女」
「へ?」
誰でございましょう?
キョロキョロする。
「お前だ! そこのアホそうな女!」
「は?」
「今なんつった?」
「そこのお前だと言っている!」
「おい、そこの女、お前俺を助けろ!」
「はぁああ?」
「ちょっと? あなたねぇ?」
「何処の誰だか知りませんが、まず人に物を頼むなら名前ぐらい名乗ったらどうなの?」
「しかも人に物頼むのに、何? その言い方?」
「助けろ? 助けて下さいの間違えじゃないの?」
「ふーーん。まあいい。とりあえず女、俺を助けろ!」
「そしたら、それなりの礼はする」
「何それ?」
カチーン!
ツーン。
こんな俺様な人、何で助けないといけないのよ。
無視ムシ。放置が一番。
ふざけんな!
「ウッ、ゴホッ、ゴホッ……」
「ちょ、あんた、こんなところで死なないでよ? 寝覚め悪いし……」
「ゴホッ、ゴホッ……」
「ちょっと、大丈夫?」
仕方ないので、男性の側に近づいてみた。
よく見ると長い睫毛に黒目がキリッとした精悍な顔立ちだ。結構イケメンね。
まあタイプじゃないけどね。
私のタイプは、優しい系男子よ。
全く逆だわ。
ちょっと残念に思ったのはナイショにしておこう。
「凄い血!」
「あぁ、今、無理やり矢を抜いたからな」
「そっから出てきたんだろ」
「出てきたんだろじゃないわよ!」
「どうすんのよこれ!」
「ぎゃぁぎゃぁ騒ぐな! 頭に響く!」
むぅぅ!
人が心配してやってんのに!
やっぱりこの人嫌い!
頬を膨らまして、視線を逸らす。
「ゴホッ、ゴブッ」血が流れ落ちる。
「ちょっとぉ」
何かなかったかなぁ……
持っていた学生カバンの中を探す。
ゴソゴソ。
あ! これ使えるかも?
アルコール消毒液だ。
それに、ステロイド軟膏薬
肌が弱く常に持ち歩いていた。
普段から病気の母の代わりに家のことを小さいころから任されていた私は、用意周到なぐらい、薬や裁縫道具などを常に持ち歩いていた。
「ちょっと、あなた傷口見せなさいよ」
「ちょっと痛いけど我慢しなさいよ!」
アルコール消毒液を傷口にふりかける。
「イタ!」
男性が私を鋭い目で睨みつけた。
「痛いって言ったでしょ?」
「いいから、おとなしくして!」
傷口に、軟膏を塗る。
そして、持っていたハンカチとハンドタオルを重ね、マスキングテープで固定した。
「酷い熱ねぇ」
確か鎮静剤があるわ。
バッグのポーチから鎮静剤を出し、男性に渡す。
怪訝な顔を浮かべた男性に
「よく効く薬だからさっさと飲みなさいよ!」
無理やり飲ませる。
「これで、少しは楽になるはずよ」
バッグの中を片付けてる途中、男性を見ると寝てしまったようだ。
長い睫毛ね。
ちょっと羨ましく思った自分が悲しくなった……
あ! スマホ!
恐る恐る手に取り、ボタンを押す。
やっぱり……
圏外の表示だった。
ここ何処なんだろう。
てか、お腹すいた。
そう言えば、朝コンビニでお昼ご飯買ったままだ!
バッグの中をゴソゴソする。
あった!
おにぎり、とパンと 飲むゼリー。
「仕方ない、飲むゼリーとパンはこいつに残してやるか……」
「くそぉ、私の少ないバイト代で買った、貴重な昼ご飯を……」
「本当に、助けたらお礼してくれるんでしょうねえ?」
ジーっと、目の前で寝ている男を見た。
とりあえず私はおにぎりを頬張った。
それから、小屋の中を見てまわろうと立ち上がった瞬間。
目の前の男が目を開けた。
手には剣を持っていた。
「お前か……」
「ちょ、ちょっと! 命の恩人に! 何するのよ!」
「敵が来たのかと思って」
「まぁいいわ。ところで少しは楽になった?」
「あぁ、頭がスッキリした」
傷口を彼が見る。
「これはお前が?」
「ちょっと、あなた、お前って呼ぶの止めてくれない?」
「命の恩人に対して失礼じゃない?」
「命の恩人ってのはちょっと大袈裟だな」
その男はニタリと笑った。
「ねぇ、これからどうするつもり?」
「ずっとここに隠れているの?」
男は黙ったままで何も答えない。
「ねぇ。どうするのよ?」
「外はまだ危険だし!」
矢継ぎ早に質問する私に対し
「ぎゃぁぎゃぁ騒ぐなって言ったろ?」
「馬鹿か? お前?」
低く鋭い声で私を睨む。
はあ? 誰が助けたと思ってんのよ!
もう絶対、パンあげないから!
「心配するな。そろそろ……」
男が話す途中で入口の戸を激しく叩く音がした。
「若様! ご無事ですか?」
「若様! 遅くなりました!」
男の人の声が聞こえたと思った瞬間、入口の戸が開けられた。
甲冑姿に、傷だらけの顔をした長髪の美男子に、これまた傷だらけの髭面の男。
映画の撮影にしてはあまりにもリアルだ。
これってやっぱり……
「若様! 遅くなりました。お迎えに上がりました!」
「待ちくたびれたぞ……」
「若様、この傷は?」
「ああ、心配ない」
「あの外道め! この俺に血を流させた」
「覚えとけよ!」
「必ず後悔させてやる!」
「彩京! 永建! 城へもどるぞ!」
傷を負った男からは先程までの、おどけた雰囲気は一切消え、鋭い眼光と地を這うような低く響く声。そして、まるで炎の中にいるような、触れたら火傷しそうなぐらいに温度が一気に上がる。
私は緋に染まる飛翔を、その日初めて目にした。
美しく、激しく、妖艶に舞う炎を背負った青年。
「綺麗……」
思わず口にしていた……
「若様、こちらへ! 馬を用意しております!」
「行くぞ!」
え? ちょっと待って? 私、置き去り?
嘘でしょ? 私、命の恩人よね?
「若様、こちらのご婦人は?」
「ああ、そうだなぁ……」
先程までの燃え盛るような、激しい雰囲気は消え、少しおどけた感じで言う。
「ちょっと! 命の恩人を忘れてたの?」
「娘! 若様に向かってその言い様!」
髭面の男が眉に皺をよせ、私に詰め寄り、手は剣にかけている。
ちょ、待って私は命の恩人ですよ?
「永建殿、非力な女性に失礼ですよ」
優しそうな長髪の男性が私の手を取り、
「立てますか? お嬢さん?」
「ありがとうございます」
「お前行くところがあるのか?」
…………
無言の私を見て、少し呆れた様子で
「仕方ない【料理番】としてお前を雇ってやる。ついてこい!」
「若様!」
先程の髭面男が、大声で叫んだ。
「まぁ、礼はすると約束したしな」
ちょっと待って? 命の恩人に対してのお礼って【料理番】?
そもそも【料理番】てなに?
思いっきり突っ込みたかったが、
髭面が私を強烈に睨んだ為、思いとどまった。
「時間がない。急ぐぞ」
半ば無理やり私は、その小屋から引っ張り出され、俺様青年と、強面髭面男、と美男子様に
誘拐? されつつあった。
「最後までお読みいただき、ありがとうございます」
続きが少しでも気になると思っていただけましたら、下にある✩✩✩✩✩から作品への応援と、ブックマークをして頂けると、作者は泣いて喜びます。是非よろしくお願いします。