俺の前世がキウイだった件
「なぜだ!」
真実を知ってしまった俺は、冷たい床にガックリと膝を落とした。
せめて、現世が極悪人でも極善人でもない普通のサラリーマンなのだから、前世ぐらいは歴史的有名人であってほしかった――。
せめて……モノ言う株主に、なりたかった。シクシク。
それなのに――!
「なぜ俺の前世はキウイなんだ――!」
キウイは果物だ。全身に短い毛を生やした果物だ。
せめて……百歩譲って、鳥の「キウイ」だったらよかったのに……丸い身体と細長いくちばしが超可愛いから。
だが、疑問が残る。
果物のキウイが前世だというのなら、その前世の姿は……木なのか? 枝からぶら下がる果実なのか?
そもそもキウイは、木になるのか? 畑になるのか? ……そりゃあ野菜か。
――悩むほどのことだろうか。どっちでもいい気がする。ひょっとすると、元々は木で、枝から俺だけが独立したのかもしれない。
収穫されて……。
「いや、待て! 収穫されたのだとすれば――俺の祖先が、食べたのか――!」
キウイを――! 俺を――?
だが、昭和時代にキウイなんて果物はあったのだろうか。――いや、あったぞ。小学校二年生の頃に先生から、「知っている果物を書いてくる宿題」が出され、俺は「キウイ」と書いた。ハッキリと覚えている。
紛れもなく昭和時代からキウイはあった。つまり、俺の祖先がキウイである俺を食べたのなら、体の極々僅かな細胞は、――キウイで作られたことになる――。
短い毛やゴツゴツした部位は、キウイで作られたことになる――! イヤああぁ~!
前世がキウイだった可能性が……ゼロではなく、もはやほぼ確……。
冷や汗が流れ落ちる。子供みたいに前世や転生など口にしたくない。科学的根拠に乏しいじゃないか。
そもそも、前世とか転生とか自体に科学的根拠を見出したいぞ。
「でも、どうして前世がキウイなのよ」
「え、それは……」
口ごもる。言いたくはなかった。
「食べると……食べた後に、なんだか、ぽわーんとするんだ」
甘酸っぱい果実と黒いプチプチした種を食べると、何故だか、ぽわーんとするんだ。
「ぽわーん? はあ?」
いや、「はあ?」とか言うのはやめてくれよ。思いっ切り凹むじゃないか。
「昔は気が付かなかったのだが、食べたあと、しばらくするとぽわーんとして、何事にも集中できなくなることに気付いたんだ。最近。大人になってから」
原因は分からない。大人になるまで気付かなかったのは内緒にしたい。朝、牛乳を飲んだ日だけ学校で便意を催すことにも……、
――大人になるまで気付かなかった――。大人は気付きの宝庫だ。
「人間は決して人間を食べてはいけない。牛に牛骨粉を与えてはいけないのと同じだ。さらには、ニワトリにチキンラーメンを食べさせてはいけないのも同じだ」
しょっぱいから……。
「つまり、これは罪と罰なのだ。前世がキウイであった俺は、前世だったものを食べることで次元を超えた罰を受けるのだ。その警告が、ぽわーんとする異常現象なのだ」
科学的にも解明不可能な異常現象なのだ――。
「アレルギーじゃないの」
――アレルギー! 冷や汗がまた一滴床に落ちた。
テーブルの上にはよく冷えたキウイが皮を剥かれて並んでいる。エメラルドグリーンの果肉と黒い粒々の種。中央の白い部分……。
食べようかやめておこうか悩んでいたのだ。フォークで妻は次々と自分の口へと運ぶ。俺の口には……運んでくれない。アーンしても。
「だが、アレルギーだというのなら、他にも色々あるじゃないか。俺には無いが、蕎麦や小麦、卵や牛乳……。さらには花粉症で悩む人達は大勢いるだろ……、――はっ! まさか」
――気づいてしまった!
みんな、前世が蕎麦や小麦や卵や牛乳……さらには杉やヒノキだったに違いない――!
前世でそれらだったから……少し体に入るだけで過剰に反応してしまうのだ――!
前世の者を食べようとするなど、とんでもない過ちだと警告されているのだ――。
それが、前前前前世くらいなら、少しマシになっているのか――?
「いらないのなら全部食べるわよ」
「……」
妻はキウイの皿を自分の前へと引き寄せる。欲しいような欲しくないような……。
「うん。いらない。ぽわーんとすると車を運転するのも危ない」
「どうせ、今日も何処にも行かないでしょ」
「……」
床から立ち上がり椅子に座った。
ずっと四つん這いになっていたから、少し膝小僧が痛い。頬が赤い。
「バカな事ばかり考えていないで、犬の散歩でもしてきたら。今日はあなたの当番よ」
「なんだと」
バカな事とは聞き捨てならない。さらには「ばかり」って……。
「なによ」
反抗的な目に憤りを感じる。
十三階建てのマンションの屋上に……ブランコを作って……、夕陽を眺めながらブランコの二人乗りをしたい。妻と。
二人乗りのブランコは自転車の二人乗りよりも青春だ。
夕焼け空は、それだけで青春だ――。
あの頃の二人に……また戻りたい。
「そんな頃、一度も無かったでしょ」
「……うん」
お皿のキウイは綺麗に無くなっていて、なんだかホッとした。
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