その四
「ねえ、だいだらぼっちって知ってる?」
「えっ」
「どれぐらい大きいのかしら?」
私は驚いた。少女から話しかけてくるとは。
周りをキョロキョロ見回したが誰もいない。
「どうしたのかな。お母さんとはぐれたのかな」
「ちがう。だいだらぼっち」
ーだいだらぼっち・・そう言えばこの辺りは元々葦で覆われた沼地で、その沼はだいだらぼっちと呼ばれる巨人がつけた足跡から出来たという昔話があるのを思い出した。しかしー
「きみはいくつ?近くに住んでいるの?」
「大丈夫よ。余計な心配しなくても。ちゃんと説明してあげるから。おじさんが一人でフラフラ歩いているから可哀そうに思って話しかけてあげたって」
こちらの心境を見透かされたようでドキッとしたが、まさかそれはないだろうと慌てて思い直した。
ーそれにしても妙に大人びた子だなー
「わかった。とりあえずジュースでも飲む?」
少女は首を横に振った。
「しかし、だいだらぼっちなんてよく知ってるね。誰に聞いたの?きみのお祖母ちゃんかな」
「いいから早く答えて」
「ふ~む、大きさね。言い伝えだから複合的な要素があるだろうが、とにかく富士山を担いで来たそうだから身長は相当なものだよね。成層圏まで達していたかもしれない。成層圏というのは・・」
「地表から高さ約十から五十キロメートルの間で気象が変化しなくなる層でしょう。まあ、わりかしいい線かもね」
ーおかしな子だ。知能指数は高いようだがー
「では次の質問。だいだらぼっちは現在何処にいるのでしょう?」
ー何だ、やはり子供じゃないか。少し考えすぎたかなー
「そうだね。何せあの日本一の富士山を運んできたのだから、くたびれて休んでいるのじゃないかな」
「ふーん。何処で?」
「例えば地下で眠っているとか。丹沢辺りの」