第九十一話 対戦2
美琴のデッキは姫恋のデッキと似たクリーチャーを並べるデッキだが、姫恋が赤いカードだけでデッキを組んでいたのに対し、美琴は緑のカードも足して二色にしている。
攻撃力の高いクリーチャーや火力を揃える赤と、質のいいクリーチャーと土地基盤を整えたりマナを増やしたり出来る緑。相性のいい色の組み合わせだ。
対して葵は青一色。
青は妨害こそ得意だがいったん戦場に出てしまったクリーチャーや置物に対処するすべが限られている。
芹緒の除去の得意な黒とクリーチャーの質がそこそこ良い白の組み合わせのデッキとは相性が良いだろうが、除去が必須なカードが多い美琴のの相性はあまりよろしくなさそうだ。
「先行! 土地を置いてマナクリーチャーを置いてターンエンド」
美琴は早速マナを出すことが出来るクリーチャー、通称マナクリを置いてターンを終える。このまま次に自分のターンが回ってくれば、二ターン目にして土地を出すことで三マナ出せることになる。
葵は土地を置いてターン終了する。葵の扱う青では一マナで戦場のクリーチャーに対応出来るカードは限られる。
続く美琴のターン、美琴は緑のカードでライブラリから土地をサーチして戦場に出す。もちろん手札からも土地を出している。残ったマナで再度マナクリーチャーを呼び出しターン終了。
これで美琴の戦場には二ターン目にして土地が三枚とマナクリーチャーが二体、五マナ出せる状況になった。
「むう」
葵は小さく唸るが前のターンと同じく土地を置いて終了する。
このカードゲーム、青はとても強い色だが、扱いはとても難しい。序盤は先ほどの芹緒のようにサンドバッグにされてしまう。
かといってクリーチャーも質がそれほど良いわけでもない。
青が強い理由はその妨害性能にある。だがどれほど強くても基本は一対一交換。アクションが大幅に取れないのでは相手の動きについていけなくなる。
三ターン目、美琴は土地を置き六マナ出せる状況にした上で、三マナ使ってクリーチャー呪文を唱えてきた。
「考える」
青は二マナ残している状況から本領を発揮する。青の妨害呪文の多くが二マナだからだ。
美琴が唱えているクリーチャー呪文は攻撃するたびに『トークン』と呼ばれるカードを生成出来る。これはライブラリに入っているカードではなく、トークンカードを使って表示される。
攻撃するたび、なので残しておいたら厄介なことこの上ない。だが葵は残った三マナが気になっているようだ。
この呪文を打ち消しても、また同じカードを唱えてくるのではないかと。
「打ち消し」
結局葵は美琴の呪文を打ち消した。そして美琴は葵の想定通りに同じクリーチャー呪文を唱えてきた。葵にはもうマナがないため、クリーチャーは戦場に出た。
葵のターン、葵は土地を出すとそのままターンを美琴に渡す。
美琴はターンをもらうと土地を出し、七マナ出せる状況まで行くと今度は六マナの『飛行』『速攻』持ちクリーチャー呪文を唱えてきた。
さすが六マナも使うだけあってサイズも大きい。『飛行』は『飛行』を持ったクリーチャーにしかブロックされない能力だ。そして『速攻』は呼び出してすぐ攻撃できる。
「……通し」
戦場に出たクリーチャーと先ほど呼び出されたクリーチャーが葵に襲いかかる。この攻撃だけで葵のライフは三分の一ほど削られてしまった。
美琴のターン終了時、葵はインスタント呪文を使ってカードを引く。
そして葵のターン、葵は土地を置き、マナを生み出すアーティファクトをプレイしてターン終了する。
アーティファクトは無色でどの色でも使えるが、かかるマナは少し大きいという器用貧乏な感じのものだが、様々な種類があり、葵はマナを伸ばすカードをデッキに入れているらしい。
美琴のターン。
美琴は葵が出したアーティファクトを破壊する呪文を唱える。葵のマナが伸びては不利なことを感じ取ったようだ。だが葵はその呪文を打ち消す。そして葵の使えるマナは無くなってしまった。
美琴は葵へ攻撃。前のターントークンが生み出されているので、ダメージが少し増える。このままだと次の美琴の攻撃で葵は負けてしまうだろう。
美琴は土地を伸ばすだけでそのままマナを残したままターンを葵に渡す。
葵の実質最終ターン。
葵は土地を置き、六マナ出せるようになったが、そのままターン終了を宣言。
何か美琴のターンに出来る対処があるのだろう。
美琴は頭を捻って葵に何が出来るのか、どんなカードがあったのか思い出そうとする。
だが美琴たちは一箱まるまるカードを見ても、このカードセットの全容を知らない。
芹緒はカードが販売される前にリストを見てある程度は知っている。なので情報アドバンテージは上だ。
だが芹緒は美琴たちが交換して欲しいというカードは渡しているので、彼女たちが知っていて強そうなカードは芹緒の手元には残っていない。知識があっても使えない。それでも相手が何をしてくるか予想できるのは大きなアドバンテージだ。
結局美琴はマナを使わずそのまま攻撃を宣言する。カードをプレイして葵が何かして巻き込まれるのは避けたいと思ったようだ。
そしてその考えは基本的に正しい。このまま攻撃して何もなければ美琴の勝ちなのだから。
葵はクリーチャーが増えなかったことに少し肩を落としつつ、六マナの呪文を唱える。
カードの効果は『全てのクリーチャーを手札に戻す』。
葵はクリーチャーを出していないので全く被害はないが、美琴の被害は甚大だ。たくさん出ていたクリーチャーが全て手札に戻ってくる。
結局美琴は立て直しをするだけでターンを終わらせた。
葵のターン。
だが葵も安堵してはいられない。
すでに美琴の戦場にはマナクリーチャーとトークンを生み出すクリーチャーが並んでいる。次のターン『速攻』持ちのクリーチャーが出てきて対応がなければ、一ターン生きながらえただけに過ぎない。
葵は土地を置き、三マナ使ってタフネスが大きいクリーチャーを呼び出した。このクリーチャーの攻撃力では美琴のトークンくらいしか倒せないが、トークンを生み出すクリーチャーは倒せずともブロック出来る。
そしてターン終了。
美琴のターン。
さすがに葵のマナがここまで伸びると危険な気がしてくる。先ほどの『速攻』クリーチャーは打ち消されるだろう。なにしろ葵は土地以外ほとんどカードを使っていない。
だが美琴はこう考える。
打ち消されても気にしない。
そして美琴は土地を置いてマナクリーチャーも攻撃出来る体制にすると、改めて『速攻』クリーチャーを呼び出す。
美琴のデッキには妨害カードは入っていない。ただただ前のめりなデッキだ。姫恋の細やかなデッキに比べると使っているカードも入れているカードも豪快そのものだ。
「召喚!」
「参りました」
「えっ!?」
美琴が手札に戻された速攻付きクリーチャーを唱えると、葵から敗北宣言が飛び出した。
「妨害、ない」
そう言って葵は手札を見せる。手札は見事に土地だらけだった。
「あー……このカードゲームそういうことよくあるから……」
芹緒が何か諦めたような顔で葵の背中をぽんぽんと叩く。
「美琴、打ち消しのブラフ、効かない」
「打ち消されてもいいもの。まだまだ怖いクリーチャーもいたし本体火力もあったし」
そう言って美琴が手札をさらす。それを見た葵は
「……青だけじゃ辛い」
と肩を落とした。
「色を組み合わせるのがいいよ」
芹緒はそう言って先ほどの姫恋同様、葵たちにもそれぞれのデッキに入りそうな有用なカードを提示する。
「白……さっき優香が使ってた全除去、興味ある」
「あれはレアだからね、なかなかないかも」
「みんなから集める」
そして芹緒対美琴、芹緒対葵と遊んでいる間に桜子と姫恋もお風呂から上がってきたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
二人が髪を乾かして全員揃うと大トレード大会が開催された。
デッキを組んで一通り対戦して、誰かが使っているカードの強さに気付いたり、使っていなかったカードの意外な強さに気付いたりして、トレード大会は大盛況だ。
「白使わない美琴と姫恋、全除去交換して」
「私も欲しいですわ!」
ボコボコにされた葵と桜子が芹緒の使っていた全除去カードをめぐってどんどんトレードのレートが上がっていく。あまりにレートが上がると葵と桜子のカード資産が歪になりそうだ。
「僕も出すよ」
芹緒はそう言ってデッキから持っている全て、全除去二枚をトレードのテーブルに乗せる。
「良いんですの?」
「みんなが楽しんでくれてるからね。それにデッキはまだまだ思いつくから」
「ならありがたく使う」
五人で五箱開けて五枚しか出ていなかった全除去は、じゃんけんの末桜子が三枚、葵が二枚ということになった。
「葵さんの手札に戻すカードも強いからね。例えば一ターンに一回しか呪文を唱えられなくするエンチャントとか……」
エンチャントは戦場に出るがクリーチャーとは違い戦闘には参加できない。アーティファクトのように効果を発揮するタイプのカードタイプだ。
芹緒が提示したカードは相手のターンにもカードを唱えられる葵と桜子にとっては制限が緩くなる。
「うわそんなカードもあるんだあ」
「姫恋には辛そう。戦闘ギミック使えなくなるもんね」
「美琴もカードを並べられなくなるからキツいと思うよ」
クリーチャー戦闘タイプの姫恋と美琴。軸を交わして戦うタイプの桜子と葵。
これならカード資産も良い感じで移動するだろう。
「芹緒様」そんな良い感じでうんうんと内心納得していた芹緒にさつきが手に何かを持って話しかけてきた。「ここにもう一つ、未開封の箱があります。これのパックを全員に均等に配っては?」
「「「「!!!!」」」」
少女たちの目がキランと光る。
「うんそうしてくれると嬉しい」
芹緒の言葉に彼女たちはさつきの元に駆け寄り、パックを受け取っては開封していく。
お嬢様たちのはずだが年相応の男子のようだ。
最初貰った箱、そのパックを剥いていた時はカードの強さや価値はわからなかった。だが何試合かして強さや欲しいカードもわかってきた。そんなところに追加でパックを開けるのは楽しいだろう。
「全除去、来た!!!」
珍しく葵が興奮したような大声でカードを上に掲げる。しかもそのカードは光輝くフォイル仕様だった。
「おめでとうございます葵」
「おめでとー……全除去が増えちゃったよ」
「あ、これ強い。『打ち消されない』クリーチャーだ」
「美琴おめでと!!!」
「打ち消せない……?」
「全除去に巻き込めばいいのですわ」
「対戦相手の呪文や効果の対象にならない、か。『飛行』もあるしなんか特殊能力もあるしめちゃ強くないこれ!?」
「そのカードだけで戦えば相手の除去は効かないね。全除去をこの一体に撃ってくれるなら儲け物?」
「……」
「……」
少女たちはパックを剥いては一喜一憂、悲喜こもごもだ。
箱のパック数は三十だったため、芹緒にもパックが回ってきた。六パックを楽しみながら開けていく。
「僕もいいカード当たったよ、ほら」
そして少女たちの会話の輪に混ざっていく。
芹緒にとってとても楽しい趣味の時間を過ごすのだった。
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