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オヤスミナサイ

 なお自室に逃げ込もうとする芹緒の手を美琴は離さなかった。

 どうやらさつきに蹴りは効いても、脂肪だらけの芹緒の体には効果はほとんどなかったようだ。


 実際のところ、芹緒が浴室内でさつきにされたことは、文章にすればさほど怪しいことではなかった。




 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 だというのに美琴の身体はそれだけのことで芹緒に快感をもたらした。


 芹緒はくすぐりに弱い。

 だから撫でられたときは笑ってしまうかと身構えていたが、芹緒の口から出た小さな声は恥ずかしいほどに()()()()()()()()


 慌ててさつきの手から逃れようとしたが、身じろぎをすることでかえってさつきの手の動きに強弱がつき、芹緒は口を押さえて身悶えるしかなかった。



『女の子の肌は敏感なんですよ』



 人指し指を立ててしたり顔で宣うさつきの顔目掛けて、芹緒は洗面器のお湯をかけたのだった。





「芹緒様、さつきがご迷惑をおかけしました。髪を乾かしたいのですが、お身体の具合は―――」


「なんともないのでお願いします」


 芹緒はつつじに声をかけられるとすぐに応じた。


 少し身体が落ち着かないのは確かだが、身体を落ち着かせる方法は悲しいかな、芹緒にはアダルト方面しか思い付かない。

 こんな女性だらけの場所ではそんな思い付きがバレることすら恥ずかしい。


 芹緒はつつじに手招かれてダイニングテーブルの椅子に座った。


 さつきは和室で美琴に乾かしてもらうようだ。


「お嬢様すみません」


「共同生活だし、さつきには色々聞きたいこともあるし、気にしないで下さい」


「女の子初心者って感じでとても可愛かったですよ。女の子になって一日目のことなんて私たちは生まれたての赤ちゃんの時ですから」


「たくさん可愛がってあげたいね」





「はあああ……」


 タオルで長い金髪を拭いている間、二人の会話の端緒が聞こえてきて、芹緒は大きく大きくため息をつく。


 さつきに心を開きかけたのは失敗だった。

 美琴といいさつきといい、言ってくることは魅惑的だが、今のところ芹緒を困惑させるばかりだ。


 味方はいないのか?


「あなたも敵ですか?」


 つつじの名前が出て来ないがつい聞いてしまう。

 つつじは後ろで苦笑しながら、


「私はつつじです。……敵ではありません。この件でさつきと一緒にされるのはちょっと困ります」


「すみません」


 芹緒は小さく頭を下げる。


「ただ私はどちらかというともっと大胆に行動されてはいかがかと思いますよ」


 つつじはそんな芹緒の様子に特に気にした風もなく、話し続ける。


「大胆……」


「今日は無理でしたが、例えば外出して身軽な身体を楽しんだりオシャレをしてみたり。芹緒様が諦めていたことをやってみたらいいかと」


「なるほど……。ただパッとは思い付きませんね」


 確かに軽やかな身体だが……。開脚前屈なんて芹緒の体ではとてもじゃないが出来たものではなかったが、この身体なら容易いのだろう。ただそれくらいで喜べるかというと疑問だ。


 そしてオシャレ?

 芹緒の体では服とはサイズ探しだ。あとは安いかどうか。

 好みとかオシャレの問題ではない。


「でしたら服を買いに行くのはいかがですか? お嬢様の好みの服は一通り持ってきておりますが、芹緒様の選ぶ、芹緒様が好きな服を買うのはとても楽しいことだと思いますよ」


「私に女性ものの服なんて分かりませんよ」


 男物の服ですら見ていて組み合わせなど分からない。種類の多い女物だとなおさらだ。


「コスプレでいいんじゃないでしょうか?」


 こちらの会話が聞こえていたらしい。さつきが口を挟む。


「美少女に着て欲しい服、だったら思いつきません?」


「ああ、確かに―――」


 そこまで言ってから芹緒は美琴の顔を見た。


「どうしました? ……ああ、何でもどうぞ。私も私では思い付かない服を私が着てどうなるのか楽しみです」


「メイド服やバニーガールでも?」


 芹緒が思い切って意地悪な質問をぶつけるが美琴はどこ吹く風だ。


「芹緒さんが着てくれるなら私もワクワクしますね」


「くっ……」


 美琴の身体とはいえ、着るのは芹緒。

 これは変わらない。


「そこまで極端でなくても、色んな服が楽しめますよ」


 つつじがドライヤーをかけ始め、さつきや美琴の声が聞こえなくなる。


「芹緒様が楽しめればそれでいいのですよ」





 髪もすっかり乾き、芹緒はダイニングの片隅で用意された下着と寝間着を着け始めた。


 可愛らしいパステルピンクのショーツ。

 自分が穿いていたデカパンに比べると片手に収まるくらい、あまりにも小さい。

 それを広げて足を通す。

 上まで上げると股間にぴったりと張り付くような感覚が芹緒を襲う。

 男だと小さいアレでも存在感を示していて、ここまでのフィット感は得られない。

 もっと上に上げようとするがもう上がらない。

 男物のパンツに比べて本当に小さい。頼りなさすぎる。


 ブラジャーは用意されていなかった。

 どうしてブラジャーないんですか?と質問するのもはばかられる。

 そういうものなんだろうと考えるのを止める。


 同じくパステルピンクのパジャマを着ようとして、胸の内側が二重になっていることに気が付いた。

 色々考えられてるんだな、と内心で思いながらパジャマを着込んだ。


 頭にはナイトキャップ。

 長い髪を傷めないためには必要らしい。

 今自分の姿を鏡で見たらさぞかし可愛らしかろう。




「私も服買いに行こうかな」


 少し困った様子で美琴が言った。


「さすがに洗濯してあるとはいえ、人の下着を着るのは気になっちゃって……。いえ、芹緒さんが悪いんじゃないんですよ?」


 確かに新品の下着の用意がなく、普段芹緒が穿いている下着を渡してはいるが、思春期の少女にとってそれは精神的に辛いだろう。



「……これは新品だよね?」



 とりあえず確認として質問する。

 九条家はお金持ちだし、この入れ替わりという緊急事態があってから、服を用意していた。

 パジャマやアウターはともかく下着は新品に違いない。


「さてどっちでしょう?」


 楽しそうな声で美琴が言う。

 ……美琴に聞いたのは間違いだった。

 というか芹緒が着替えていたとき、美琴はつつじに目隠しされていたので、芹緒がどんな下着を着ているか見ていないはずだから答えようもない。


「芹緒さんも気になりますか? 私の着た下着はイヤですか?」


 まるでイタズラっ子のように目を輝かせる。


「その質問はズルすぎる。ごめん気にしない」


 美琴が着ていたとしてどうだというのだ。

 着ているのも美琴の身体。

 何も問題はない。

 ないったらない。


「大丈夫ですよ芹緒様」


 つつじが言う。


「新品です。お嬢様、それは下品ですよ」



 芹緒は安堵感と何故か寂寥感を覚える。が慌てて心の中で頭を振ってそんな下心を追い出す。




「ふう……」


 一つ一つが本当に疲れる。

 昨日の芹緒では想像もしなかった展開。







 さて。


「寝る場所は本当に大丈夫ですか?」


 この生活の最大の懸案事項。寝る場所がないこと。


 芹緒は自室で一人。

 他の女性と一緒に寝るなんて落ち着けなくて無理。

 美琴はもっとダメだ。


 だから美琴は和室で一人。


 そうなると、つつじ、さつき、さくらの三人の女性の寝る場所がない。


「押しかけてきたのは私たちですから、芹緒様はご心配なさらないで下さい」


 そう言ってダイニングテーブルを動かして持ってきた布団を敷き始めた。

 確かにここしかないのだが。


「身体冷やさないようにして下さいね?」


「ありがとうございます。わたしとさつきはこれで充分です」


「さくらさんは?」


 さくらを見やると、さくらはこくりと頷いた。


「お嬢様の身体と純潔を守るため、そこで番をいたします」


 そう言って芹緒の自室の前を指差した。


「私はまとまった睡眠を取らなくても大丈夫なので、皆さんが起きた朝に少し眠らせてもらいます。ご心配なく」


「心配しかない」


 芹緒が思ったことをそのまま口にする。


「そう言って下さるのはありがたいのですが、芹緒殿にはお嬢様の身体を健やかに休ませるという重大な任務があります。お互い頑張りましょう」


「つつじさん」


 芹緒がつつじに助けを求める。


「正解です。私がつつじです。ですが芹緒様。これは旦那様の御命令でもあります。しばらく様子を見てまた相談しませんか?」


 納得出来る答えが返ってきてしまったので、芹緒は口を閉じざるを得ない。





「それでは皆さんおやすみなさい」


 そう言って芹緒は自室に入って電気を点けた。


 ベッドに寝転んで右手をかざす。

 細い指。

 それが芹緒の思い通りに動く。

 手狭なベッドが大きく感じる。


「……」


 とある好奇心が湧き出てきた。が、この部屋には鏡がない。

 残念ながらモザイクの向こう側を見ることは叶わなかった。


「ほら、僕はこういう男だぞ……。早く裁けよ」


 電気を消し、そう呟きながら芹緒の意識は眠りの世界に引き込まれていった。

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