第八十八話 心の世界でおしゃべり
体調崩していました。
定期更新出来ずすみません。
「……」
「……」
葵は黙ってお湯の中の芹緒のお腹をさするだけで何も言わない。芹緒も急かさない。
やがて葵はそっと芹緒に囁きかける。
「ね、心の世界で、会話、しよ?」
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私の家は神社。
ずっと昔から続いてきたんだって。
芹澤神社なんて聞いたことない?
一般にはそれほど有名ではないけど、昔から『力』を持つご先祖様が芹澤家の神主になっていたから、時の権力者たちに重宝されたみたい。
今の神主はお父さん。その次はお姉ちゃんが継ぐ予定。
うちはお婿さんに来てもらう形。お父さんもそうだったみたいで力は持ってない。
お母さん? 力持ってるよ。
お姉ちゃんも力持ってる。けど私の方が強いかな。
家を継ぐのは力の強弱じゃなくて、生まれた順番。
お姉ちゃんは今の許嫁はあんまり好きじゃないみたい。桜子と一緒だね。
桜子の話とか聞いてたら分かると思うけど、今の上流社会にいい男本当にいない。
それでも力の有無関係ないから上流社会以外から選んでいいはずなんだけど、お父さんもお母さんもやっぱり血筋にはこだわりがあるみたい。
優香さ、今目の前にいるけど全然問題ないよ?
そりゃ太ってるしおじさんだって思うけど、そういうものじゃないかな?
顔はイケてると思う。これは私たち四人の総意だから喜んでね。
お姉ちゃんとの関係は良好だよ。
ただ私が優香の話すると羨ましそうにするね。
お姉ちゃんも男性を好きになったことないから。
自分の内側から湧き上がる衝動を感じたことないから。
それは優香も一緒だね?
誰かを好きになるのって外側からの圧力じゃなくて、自分の内側から湧き上がるものだと思うから、優香が私たちをまだ好きになれなくて当然。
優香はまだ理性がジャマしてるもんね。
理性外すの怖いよね。
自分の全てをさらけ出すの怖いよね。
結婚する夫婦ですら、身体はさらけ出しても心まではさらけ出さない。
本能で自分を求められるのって嬉しいけど、それはまだまだ先の話だよね。
私はこんな力持ってるから他人の感情読めちゃうけど、私は他人に感情を見せてない。卑怯だよね。
優香の力の方が人も自分もさらけ出すから、お互い様って感じで公平だね。
ほら、今みたいに私も優香も心で話していれば、嘘のつけない全てをさらけ出した素の私たちでいられる。
うん、優香はまだ全部さらけ出してないの分かってる。嘘はつけないけど隠すことは出来るんだね。びっくり。
すごいよね、こんな心の世界でもまだ理性で何かを隠してる。
そっか、美琴とメイドさんたちは知ってるけど、私たちがまだ知らないことがあるんだね。
でもそれは知ってもプラスにはならない、と。
ふわっと見えちゃうね。私の力かな?
私が力に目覚めたのは小さい頃。
まだ理性も働いていない頃。
お父さんやお母さん、お姉ちゃんの感情を見てはしゃべって驚かせてた。
ビックリするのが楽しくて家の中だけじゃなくて、外でもやろうと思ったんだけど、お父さんに怒られた。
『葵、人が隠している感情を勝手に読んでみんなに伝えるのは悪いことなんだ』って。
それからは控えるようにしたんだけど、喋るのも面倒になっちゃった。
伝えることは最小限に抑えるようになっちゃった。
それから小学校に上がって、お父さんの言っていたことがようやく分かった。
みんな教室では仲良くしててもある子がトイレとかでいなくなった途端、ひそひそ悪口が飛び交うの。
私はその子たちがどんな感情で話してるか見えてるから、イヤだなって思った。
桜子とは幼稚園からの付き合い。
というか上流社会っていってもほんの一握りだし、そんな広いわけでもないから、だいたいどこの誰ってわかるんだよね。
だから紫苑に捕まってた人たちもだいたい知ってる。
知ってどうこう、って訳じゃないよ。優香には隠し事したくないから言っただけ。
スキャンダルは確かに家やその人の経歴に傷がつくけど、それを弱みにするか開き直るかはそれぞれだから。大丈夫、仮面つけてる皆さんはきっといい仕事や人生が待ってるよ。
そうそう、桜子の話だった。
桜子はいつも窮屈そうに生きてるね。
長女だし家を継がなきゃいけないし。
それでも屈しない彼女の正義感にはいつも助けられてるよ。
幼稚園も小学校も上流社会の子女が集められてたけど、まだその頃の子どもって幼いからイジメとは認識してないイジメとかもあったりするんだけど、桜子はそんなイジメっ子たちに勇敢に立ち向かってたね。
でも、桜子の許嫁も紫苑や私の祖父と似たり寄ったりの小悪党だから、出来れば助けてあげたいな。
私の話?
……その前に今外の世界でどれくらい経ったか見てみない?
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「時刻、変わってない」
葵に言われて力を解いた芹緒は、後ろから聞こえてきた葵の声に振り向く。
デジタル表示の時計は芹緒が力を使う前から全く変わっていない。
「お話するなら心の世界がいいかも?」
お湯をちゃぷちゃぷ波立たせながら葵が言う。
「心の世界でずっと話してたら精神的に老衰しそう」
芹緒は少し身じろぎしながら言う。
今までは治療のため数時間単位で力を使って、意識のない女性たちに語りかけていたが、力の練習以外で、と言うか会話のためだけに力を使ったのは初めてだ。
「この力があれば、コミュニケーション、簡単」
葵の口から出る言葉は先ほどの心の世界とは違って辿々しい。これが感情を読めるが故の自分を諌めるためだったとは知らなかった。
だが確かに桜子の家のお風呂場で葵が暴れたときは、感情のおもむくままに叫んでいた気がする。
「お互い心の世界ではハダカになっちゃうんだから、よっぽどの信頼関係のある人とじゃないと無理だよ」
芹緒からは進んで使おうとはしないが、せがまれて美琴や桜子、葵、姫恋くらいだろう。
「それじゃあ、また行こ? 私は優香のことも、たくさん、知りたい」
話をのんびりするのはキライじゃない。だが年単位で話をしないよう、芹緒はそれだけ注意するようにして再び力を行使した。
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私のことだったね。
でも私そんなに秘密ないよ?
ああ、初潮は小学五年の頃で……うそうそ。 こういう話じゃないよね。
お姉ちゃんは私みたいにちんちくりんじゃなくて、私の憧れの女性!って感じ。
桜子を大きくした感じ?もう少し融通も利いて愛嬌もある感じ。
桜子はちょっと頑固だからね。
昨夜は大変だった? おおう、何も言わなくてもすごい羞恥の感情があふれてるよ。
オナニーなんて別に恥ずかしいことじゃないよ。私もしてるし。
まあ他人に知られたら恥ずかしいけど、すること自体は普通だよ。
優香はずっと人に囲まれていたからね。しかも私たちの誘惑付きで。そりゃあ女でも性欲たまるよ。心が男ならなおさらね。
私が初めて気持ちいいって感じたのは小学三年の……ごめんってば。でもそんなにイヤ?
優香はもっとケダモノになっていいと思う。
理性があるのは大事だけど、ずっと抑えつけるのも大変でしょ?
だから一人がいいのかな?
でも二人で欲望を発散するのも素敵だと思う。
私たちの年齢?
どうせ数年後には問題なくなる。少し早いだけ。法律?
法律なんて所詮人が作ったものだよ? 昔は私たちくらいの年齢で子ども産んでも問題じゃなかったよ。
昔より今のほうが栄養たっぷりで問題なく産み育てられると思うよ。
決まりごとを守るのは大事だけど、それを破って誰も被害を被らないのなら問題なくない?
うーん。
優香は頭硬い。
それじゃあ例えばの話、誰かが法律を変えて『中学生との性交は合法』って決めたら問題ないの? 誰かが決めただけだよ? 唯々諾々と問題なく従うの?
頭抱えたね? そういうことだよ。
それじゃあ優香、政治家になって法律変えちゃえば?
いたたたた、心の世界でも痛いっ!?
……まあそういうこと。
法律守るのも大事だけど、結局優香がどうしたいのか、だよ。
私は、私たちは優香とそういうことしたいよ?
だけど優香がそういうことしたくないって思ってるなら、無理矢理になっちゃう。
これは法律以前の問題。
でも桜子としたのだって実はイヤよイヤよとは言いながらも下の口は……あいたっ!
『したくない、いや』じゃなくて『していいのかわからない、怖い』だったんでしょ?
していいんだよ。
優香はもっと私たちを信じてスキンシップをとったらいい。
……家?
ああ、私たちの家、ね。え、ううん、他に家なんてナイヨ。
気にしなくてイイヨ。
優香、優香もヒミツがあるんだから私のヒミツも尊重すべき。
……ふう。
本当に優香は生真面目というか、桜子より頑固かもねえ。
世の中の大人なんてもっと自分に甘くてズル賢いのばっかりだよ。
優香は清貧という感じがする。……清貧じゃないって? 僕も自分に甘いからこんな体型だ?
確かにそれは自分に甘いかもしれないけど、それにしては自罰的すぎるよ。
優香は自分で十分に罰を与えてる。そろそろ許してあげよ?
人を殺したわけじゃあるまいし、終身刑は重すぎる刑罰だよ。
……自分を殺した?
あー……自分の未来を閉ざしたってこと? わかりにくいよ、それ。
それは優香自身の責任でしたこと。それに対する罰なんて聞いたことないよ。
家族の期待を裏切った?
それを言ったら美琴なんて現在進行形で家裏切って優香を取り込むつもりだよ?
優香が元に戻ったら私たちと接点がなくなっちゃうからね。
美琴だけじゃない、桜子も姫恋も私も、頑張ってるよ。
大丈夫。
優香の家族の期待は裏切らないよ。
私たちと結婚して大どんでん返しをしよ?
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「だああああああっ!!?」
芹緒は力を解除すると同時に立ち上がって葵の抱擁から抜け出した。
心の世界での言葉は真実だ。
隠すことは出来ても嘘はつけない。
「……」
葵たちの気持ちをさらに深く知ってしまった。
『いっそ彼女たちに身を委ねて酒池肉林に溺れたらいい』
そう悪魔の囁きが聞こえる。
酒池肉林かはともかく、つい二週間ほど前まで絶望しかなかった芹緒にとって、あまりにも都合の良い話であることは間違いがない。
振り返ると葵は芹緒を見上げながらニヤリと笑みを浮かべている。
「早く元に、戻れたら、いいね」
葵の言葉になぜか素直に頷けなかった。
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