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ヤサシイセカイ  作者: 神鳥葉月
第二章 理屈と想いと

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第八十五話 へいおんなにちじょう

「ただいま」


「おかえりなさい」


 仮面の女性たちと話していた葵を迎える。

 彼女たちと何を話していたのかは不明だが、嬉しそうなどよめきが聞こえてきたから、悪い話し合いではなかったのだろう。芹緒の視線に気付いた仮面の女性が頭を下げる。芹緒も頭を下げる。

 女性同士の話のことを聞くのは……。そう思いどんな話をしたのか聞かなかったが、いつの間にか葵と美琴たちが隅に固まって話している。おそらく葵が彼女たちとどんな話をしたのか聞いているのだろう。

 小さい声で話しているので芹緒は距離を取ってつつじやさつき、さくらの側に行く。


「どうしました?」


「いや、女性同士のおしゃべりに入るのは、ね?」


「気にせず会話に入ってもいいとは思いますが……。それをしないのが芹緒様ですものね」


「廊下でおしゃべりするお嬢様方よりよっぽど礼儀正しいかも?」


「やめてよ」


「先帰ってて」


「わかりました」


 美琴の言葉につつじは芹緒を促して歩き出す。

 元々芹緒が遅くなったためここまで迎えにきたのだ。ここで立ちっぱなしで時間を過ごすのも何か違う。

 だがこのあと特に用事があるわけでもない。


「あ」


「どうしました芹緒様?」


「美琴さんがまだおしゃべりするなら、スマホ返してもらおうかなって」


「じゃあ私が「では私が行ってきましょう」ちょっとお」


「さくらさんお願い」


 さつきの言葉を遮り、さくらがそう言ってすたすたと歩いていく。


「ちょっと混ざってこようと思っただけなんですけどねえ」


 危なかった、さつきが行ったらミイラ取りがミイラになるところだったようだ。

 さくらは黒いスマホ片手にすぐに帰ってきた。それを芹緒の手に渡す。


「さくらさんありがとう。さつきさんも」


「いえ」


「いえいえ〜」


「皆さんもう少しお話するようです。先に戻ることは伝えましたから行きましょう」


「うん」




 **********************




「彼女たちも、優香を囲う、手伝いしてくれるって」


 廊下のど真ん中で少女たちはとんでもない計画を小声で輪になって話し合っていた。

 芹緒家を作って芹緒中心のハーレムを作る計画。

 少女たちの間で問題になっていたのは、芹緒に忠誠を尽くしてくれるメイドのような存在が見つからないことだった。

 芹緒の良さをすぐに分かる人間は少ない。女性に限ればもっと少なくなるだろう。

 人間どうしても外観から入ってしまうのは仕方がない。それが第一印象というものだからだ。

 これがネットなどの匿名であればまた違うだろうが、メイドとして直接接してもらうのだから匿名では困る。


『芹緒家』という上流階級の家格がある『家』を立てました。そこに住むのは芹緒一人です。ではいくら発言力が強い少女たちの家で作った『家』とはいえ、醜聞がよくない。

 確かに『芹緒家』は少女たちが芹緒をみんなで享受するための方便だが、あまりにも見え透いていると芹緒にも自分たちの実家にも迷惑をかけてしまう。

 人を雇うのも上流社会では立派なステータスだ。誰もいませんでは『芹緒家』としての家格が問われる。


 仮面の女性たちは元上流社会の女性たちだ。

 紫苑鷹秋のところで少女たちは全員ではないが顔を見ている。

 あの時の彼女たちは屈辱的な格好を強制され心は死んだ状態だった。

 芹緒から仮面をかぶるようになった彼女たちの話を聞いたとき、自分たちとは関係のない、新天地でまっさらな人間としてやり直すのだろうと思っていた。

 だからあの日直接出会って挑発的な行動を取られたとき、少女たちはライバルが現れた! と憤慨したのだ。


 だが葵は先ほど芹緒がこちらに戻ってきたとき、葵の持つ力によって、仮面の女性たちから複雑な乙女心を感じとった。

 そこで敵対するより取り込めないかと、『芹緒家ハーレム計画』を話してきたらしい。

 効果は抜群だった。

 彼女たちは彼女たちで葵たちの機嫌を損ねて引き離されるのを恐れていたようだ。先日のパフォーマンスもついやってしまったとのこと。


「まあ分かるわね。少しでも相手より優位に立っちゃったら誇示しちゃうのは仕方ないわ」


 美琴がうんうんと頷く。

 そして葵が言う。


「どこかで、ちゃんと話そう。いいよね?」


 その言葉は少し離れた場所に立ちすくむ仮面の女性たちに向けて放たれたものだった。

 こくこく頷く先頭に立つ仮面の女性。


「貴女たちの部屋で、詳細つめよ?」




 ********************




 美琴の部屋に戻り、芹緒はソファに座ってスマホを開くとさっそくゲームを起動させる。


「芹緒様どうぞ」


 つつじがココアを入れてくれる。芹緒の好きな飲み物だ。美琴の身体も好きらしい。


「ありがとうつつじさん」


「いえいえ」


 そしてつつじたちは芹緒が操るスマホの画面が見えない場所にそっと立つ。

 さくらは美琴たちのほうに合流しに行った。

 芹緒のアパートは狭いため、膝を突き合わせて生活していたが、本来主人とメイドの距離はこれくらいが適切だ。

 長年身体に染みついた距離感に安心感を覚える一方、もっと近くで抱きしめたりしたいなと不敬なことも考えてしまう。


 美琴の場合、軽いスキンシップなら付き合ってくれたがそれ以上は許さない雰囲気があった。先ほど聞いたスキンシップの顛末を聞けばそれも上流社会の子女としての振る舞いだったのだろう。


 芹緒の場合、まだ女の子になって二週間ほど。抱きつくと本当に可愛い反応を示してくれる。恥ずかしいのは本当だろうが、やはり中年男性ではスキンシップはほとんどなかったのだろう、芹緒が無意識にせがんでいるのが伝わってきてそのギャップに内心悶えてしまう。


 芹緒がスマホゲームを遊びたい、と自分の欲求が素直に言えるようになったのも良いことだ。

 最初の一週間、慣れない女性の身体と大人数での生活は独り身生活だった芹緒を大分疲弊させてしまっただろう。

 だが芹緒はそんな中でも美琴の身体のケアを維持してくれた。

 つつじたちのスキンシップに文句やため息は出しつつも、彼女たちからすれば大人しく可愛がられてくれた。

 そんな芹緒の短い一人で過ごす時間の邪魔などとてもできない。


 芹緒がMMOにログインすると同時にアリスから個人チャットが飛んできた。


『こんにちは。ちょうどメンテが終わったところよ』


『こんにちはアリスさん。ラッキー♪』


『新ボスのレア、ユウカの職にピッタリよ。もうすぐ出現時間だから一緒に行かない?』


『それならおじゃまするね』


『がんばりましょ』


『おー』




 ※※※※※※※※※※※※※※




『おめー!!!』


『ええええええ』


 二人で組んだボス狩りパーティー。

 芹緒はほぼ無課金勢なので完全にアリスにおんぶにだっこ状態だ。

 さすがにアリスの高火力とはいえ、二人だけではボス撃破貢献ポイントで総合パーティー一位を取れなかったがこのゲーム、一位ではなくても『上位勢』の中から抽選でレアが分配される。上位ほどレアの当たる確率が高くなる仕組みだ。

 ただパーティーに入っているだけでは恩恵に(あずか)ることは出来ないが、芹緒も少しはダメージを与えたようで、今回ボスのレアドロップが見事芹緒に当たった。


『おめー』『おめめ』『おめでとー』


 今回のボス狩りに参加した他パーティーからも周辺チャットで芹緒に祝福の言葉が飛び交う。


『ユウカすごい!!おめでと!!!』『いきなりレアとはやるう』『おめでとおおおおお』


 ギルドチャットでもこのボス狩りに参加していたメンバーからチャットが次々に届く。


『何事?』『ユウカ新ボスレア、しかも今回の目玉レア』『すごーい!!!おめでとうだよ!!!』


 ギルドチャットはお祭り騒ぎだ。各種スタンプも乱れ飛ぶ。


『みんなありがとう!!!』


 芹緒は思いの丈を込めてギルドメンバーにお礼を言う。芹緒一人では到底入手することが出来ないレアだ。

 ユウカとアリスが参加しているこのギルド、廃課金勢、いわゆる廃人が多く所属している。が芹緒のようなほぼ無課金勢でもボス狩りに連れて行ってくれたり、デイリークエストに付き合ってくれる心の大らかなメンバーが多い。


『アリスさん本当にありがとうね』


『タイミングバッチリだったわね!! 時間のないユウカにレアが出て本当に良かったわ』


『いつもすまないねぇ』


『何言ってるのおとっつぁん、それは言わない約束でしょ』


 テンションの上がってしまった芹緒のボケにアリスも乗り、二人で笑いスタンプを出して笑い合う。


『デイリーダンジョン終わってないわよね? このまま行きましょ』


『ちょっと待ってね』


 芹緒はいったんスマホから目を離す。周囲の雰囲気からまだ美琴たちが戻って来ていないことは分かっている。

 つつじに聞いてみる。


「まだ遊んでいてもいい?」


「大丈夫ですよ! お気になさらず!」


 さつきが胸を叩いて応える。


「ありがとう」


 そして芹緒はゲームの世界に戻る。


『大丈夫、よろしく』


『私もこれからだから』


 そして芹緒はゲームの世界に没頭する。

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>>へいおんなにちじょう ひらがななのが何か意味深だ… >> 「まだ遊んでいてもいい?」 幼児退行して来てる気がするww 甘やかされすぎてしまったか…w
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