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ヤサシイセカイ  作者: 神鳥葉月
第二章 理屈と想いと

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第八十三話 外した仮面

 ホテルをチェックアウトし、お昼を食べたあと、芹緒たちは普段より早く九条邸に着いた。

 芹緒の家から九条邸へ行くには県境を越える必要があるが、昨夜は九条邸からホテルまで、県境を超えなかったため早いのは当然だ。


「昨日目覚めた人と話してくるね」


 芹緒はそう言って美琴たちと別れ仮面の女性たちが住む部屋へ移動する。

 ちなみに美琴は有栖を気にかけるつもりは一切ないらしい。『自分の家で寛げないのは違うわ』とのこと。


 こんこん。

 控えめなノックをして少し待つと、鍵が開いた音がしてドアが内側に開く。

 廊下に立っていたのが芹緒だと認めると、仮面の女性は明らかにほっとした様子を見せて芹緒を中に招き入れる。

 部屋の中には仮面の女性が五人。

 そわそわしているのが昨日目覚めた彼女だろう。体躯も他の女性より小柄だがグラマラスで、髪もそのままでまだ仮面を付けただけなので、見る人によっては特徴ある彼女の正体に気付く者もいるだろう。


「あ、あの優香さまっ!」


 その彼女は芹緒が入ってきたことに気付くと、他の仮面の女性たちの制止の手を振り切り芹緒に抱きつく。


「会いたかったです優香さま! 眠っている間優香さまにしてしまった数々の無礼非礼を詫びたくて……!! 私のような女に、優香さまにっ、幾度も、ば、罵倒を浴びせた私を見捨てずに助けていただき、ありがとうございました……」


 声は嗚咽混じりとなり、その場にずるずるとくず折れて正座になるとそのまま頭を床にこすりつける。

 芹緒はしゃがみ込んで彼女の頭を上げさせると、今度は芹緒から彼女に抱きつく。


「「「!?」」」


 その、芹緒から抱きつくという、今までにない行動に他の四人の間に動揺が走る。


「僕こそ醜いモンスターのような体を見せてごめんね。あなたと相対してる時に、男の頃の体の、ハダカが見えてるなんて気付かなかったよ。あんなもの見たら仕方ないよ」


 芹緒があははと笑いながら言う。その笑いが彼女たちには痛々しく映る。


「それは違います」背後にいた最古参の仮面の女性が思わず口を開く。「あの頃は私たちも何も分からず、他人を信じることすら出来ませんでした。今は芹緒様の優しさを感じております。感謝しております。お慕いしております。もう見た目うんぬんは関係ありません」


「私もです!!」芹緒に抱きしめられた女性が仮面を外して放り投げて芹緒に抱きつく。「妾でも側室でもいいのでお側に置いてください! 私にも優香さまの寵愛を!!」


 新入りの行動は仮面の女性たち全員がほぼ同じようなことをしているので驚きはない。共感性羞恥はあるが。

 そしてこのあとの芹緒の言葉もだいだい予想がつく。


「気持ちは嬉しいけど、あなたたちはまだ未来があるんだから、そんなことに囚われてちゃダメだよ」


 やはり予想通りだった。

 芹緒様は女心が分からない。というか恋心か。

 心と心をつなぎ、全てをさらけ出してまで、自分たちのために尽くしてくれた男のことを好きにならないはずがない。


 ここまで芹緒によって心が解放された女性のほとんどは、仮面をつけている。だがこれは単に芹緒のそばを離れたくないだけだ。仮に仮面を付けず元の自分に戻ったとて、行方不明だった時期を考えれば紫苑鷹秋に恥辱の限りを尽くされていたことは知られている。

 それでも自分の帰りを待ってくれる家族がいればいいが(待ってくれる家族がいた女性は家に帰り人目につかない生活をしている)、自分たちのように家と家をつなぐ物として扱われていると、帰りを待つ家族なんていない。穢された時点で用済みだろう。

 家もなく、ただの女として今さら世間に放り出されたところで行き先はない。出来ることもない。

 だから芹緒に縋るしかない。

 みっともない、醜い行為だと分かっている。

 だが今彼女たちは愛に飢えている。

 芹緒のそばで役に立つことこそが、芹緒に感謝されることが、今の彼女たちの生きがいなのだ。

 芹緒に今後お世話をしたいことは何度も伝えているが、元の姿の中年男性に戻るつもりの芹緒にとっては、とてもじゃないが側仕えが五人も必要な生活はしないし出来ない。

 だからずっと自分のしたいことをしたらいい、そう諭しているのが現状だ。


 仮面の女性たちは美琴たちの芹緒に『家』を新たに作らせ、そこで芹緒を囲う計画を知らない。

 もし知ったら喜んで計画に参加するだろう。

 芹緒『家』ともなればメイドは必須だ。それこそ芹緒の寵愛を受けられる可能性もある。


「私の未来はあなたと共にあります!」


「そこまでにしましょう、ゆ……、ね?」


 最古参の仮面の女性は思わず彼女の名前を呼びかけ、慌てて呼びかけの形に変える。


 ……ぶっちゃけ、ここにいる仮面の女性たちはお互い誰が誰だか全員分かっている。

 あの絶望的な状況の紫苑鷹秋のところで日々声かけ励ましあっていたのだ、気付かないほうがおかしい。

 新たに目覚める者はまだ仮面をつけただけ。声を変えたり髪を隠したりもしていない。

 ある意味彼女たちは運命共同体だ。あの地獄から生還しここで喜び合っている。

 付けている仮面は、対外的に自分たちの正体を隠すものだ。ここでは外したっていい。


 芹緒は彼女たちの素顔を知っている。だが個人のことは知らない。芹緒は一人一人心の世界でじっくりと全てをさらけ出して話をしている。だから仮面をつけていようがいまいが魂レベルで見分けがつく。

 人の顔や名前を覚えられないと嘆いていた芹緒にしては素晴らしい成長だ。……芹緒が覚えられるようになるにはここまで相手に興味を持たないとダメなのかもしれない。


「今日はお早かったのですね。嬉しいです」


 新入りが立ち直ったのを見て最古参の仮面の女性はそう言って芹緒をいつも座っている椅子へ案内する。

 他の三人もその動きに合わせてお互いすべきことするため黙って動き出す。

 他の仮面の女性が動き出した中、新入りだけが所在なさげに芹緒が座った横に立ち尽くす。


「昨日は家に帰らずにこっちのホテルに泊まったんだ」


 そう言って昨夜の情事を思い出したのか、芹緒の顔が少し羞恥に染まる。

 それを見逃す最古参の仮面の女性ではない。


「芹緒様、顔が赤いですが何かありましたか?」


「あー、ううん、特に話すようなことはないよ?」


 芹緒の言葉を聞いて内心ため息をつく。芹緒は嘘が下手すぎる。これは確実にあの美琴たち、というか少女たちと何かあったのだろう。

 さすがに入れ替わった相手、美琴が男性として女性の芹緒に何かしていたら、芹緒の反応はこんなものでは済まないだろう。実際は桜子と()()()()()になっていたが、そこまでは思い至らない。せいぜいまたラッキースケベというには強引すぎる少女たちからのアプローチがあったのだろうと考える。


「芹緒様」最古参の仮面の女性は、お茶やお菓子といった芹緒をお迎えする準備を済ませて全員が揃うといつものように芹緒にお願いする。「私たちも芹緒様とふれあいたいです」


「いやいや、えー……」


 芹緒は普段のように断るかと思いきや、普段とは違って考える。

 やはり芹緒の考えに何か変化があったようだ。先ほどの新入りを抱きしめたときから感じていた違和感が、自分たちにもいい方向に向いていると心の中で頷く。


「少しだけなら……いいよ」


「「「!!!!!」」」


 芹緒とて彼女たちが自分に好意を持ってくれているのは分かっている。毎日それを躱し続けてきたが、それは彼女たちにとっては悲しいことだろう。

 自分が元に戻ったら彼女たちとはスキンシップは取れない。男性となった自分と女性の彼女たちがスキンシップを取ったら大問題だと芹緒でも分かるし、そもそも元に戻ったら彼女たちと接点はなくなる、と芹緒は信じている。

 昨夜の件はともかく、そのあとのスキンシップは芹緒にとっても心が温かくなる嬉しい体験だった。

 それを彼女たちが求めているのなら。自分なんかが求められているのなら。自分が頷くだけで彼女たちが喜んでくれるなら。

 桜子たちは芹緒の男としての恥ずかしさを知りつつからかってくるが、彼女たちはそういうことはないだろう。

 安心してまかせられる。


「ありがとうございます、芹緒様。それではお召し物にシワが入ってはいけませんから脱いでいただいて。芹緒様が服を脱ぐのに私たちが脱がないのも失礼な話ですので、私たちも脱ぎまして」


「え」


「さあ、あちらのベッドへ行きましょう。大丈夫です。今日はお早いお着きでしたので時間はあります。私たちも芹緒様を存分に感じますので、芹緒様もどうぞ私たちの身体をお好きに使ってくださいませ」


「そんなことしないよ!? それじゃあ彼と同じだ!」「これは私たちの意志です。ご存知ですか? セクハラはされた相手がそう感じたらセクハラなんです」


「うう……」


 瞬く間に仮面の女性たちに服を脱がされ、下着姿になる芹緒。仮面の女性たちも服を脱ぎ、仮面を取り、元の姿に解放される。

 顔を赤くしてたくさんの肌色とわずかな白色の視界から目線を外していたが、意を決して顔を上げると、そこには解放された女性たちの自然な笑顔があった。

 それを見た芹緒も自然と笑顔になっていく。


 彼女たちの自然な笑顔が見れるのなら。


 そして芹緒は大きなベッドに連行されるのだった。

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― 新着の感想 ―
ハーレム10人くらいいきなり出来ちゃうとどんな男でも及び腰になりそうだw
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