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乙女たちの会話

ブックマーク、評価ありがとうございます。

とても励みになります。

徒然なるままに書いているので読みにくいとは思いますが、これからもよろしくお願いいたします。

「私たちはこれから二ヶ月お嬢様や芹緒様たちと過ごすんですから、あまり皆さんの間に波風を立ててはダメですよ」


「そういうつもりはありません。芹緒様がいない間に美琴様の気持ちを確認しておきたかったのです」



 芹緒が自室に籠もり、美琴とさくらがジョギングに出た今、この部屋にいるのは二人のメイド―――笹川つつじと竹宮さつきの二人だ。


 二人は隣室の芹緒に聞こえないよう小声で会話しながら、和室やダイニング、トイレや風呂の掃除を手早く行っていた。


 悲しいかな、やはり中年男性の一人暮らし。清掃はしてあるとはいえ、彼女たちにとっては気になるものは気になる。

 ハウスキーパーでもある二人にとってここで美琴を含めて寝泊まりするにはもう少しキレイにしたかった。


 どちらがということもなく二人は清掃を手分けして行い始める。


 食事をした和室の本棚には漫画やライトノベル。大きなテレビも備え付けてある。テレビの下にはNintendo Switchが置かれている。

 こちらには美琴用の布団を敷く予定だ。


 一方ダイニングは大きなダイニングテーブルが設置されていたが椅子の数は4つで1つ足りていない。明日早速椅子を購入しなければ。つつじの頭のメモにチェックが入る。

 こちらにも本棚があり、漫画雑誌やアニメ雑誌が詰め込まれていた。


 つつじは掃除しつつ本棚の漫画をチェックする。


(中年でアニメオタクか……)


 個人の趣味に関して特に思うところはない。

 ただ、美琴の教育に悪い漫画は芹緒の部屋に入れてもらおう、そう思っていたが


「んー……」


「つつじ、どうしたの?」


 動きの止まったつつじに気付いたさつきがつつじに歩み寄る。


「これ」


 そう言って手に取った漫画をさつきに手渡す。


「あー、この漫画面白いんですよ! 芹緒様も好きなんですね!」


 そうさつきは喜ぶが


「待ってさつき。これ表紙も中身も半裸の女の子が描かれているんだけど」


 顔を綻ばせるさつきとは裏腹に顔をしかめるつつじ。

 つつじが手にした漫画は少年週刊雑誌に連載されていた作品だ。


「つつじの頭が固いんです。これくらいの描写は何も問題ありませんよ。美琴様もこの漫画知ってますし」


「は?」


「あっ」


 しまった、という表情で口を押さえるさつき。


「さつき。あなた自分の本を美琴様に見せましたね!?」


 美琴も漫画を読まないわけではないが、渡す本や漫画についてはこの二人に委ねられている。

 さつきがオタク気質なのは知ってはいるが、まさかお嬢様にこんなハレンチな漫画を見せるとは。


「ほら、判断するのはお嬢様だと思うの。美琴様は好き嫌いハッキリ言うから、嫌いと言った本はもう見せてないのよ?」


 あはは、と苦笑しながら言い訳をするさつき。


「……ちなみにどんな本を嫌いと?」


「男の子同士の恋愛」



「……それはそれで私には分かりかねます」


 大きくため息をつくつつじ。

 昨今異性愛以外も認められつつあることは頭では理解しているが、さつきが言っているのとは多分違う気がする。


「こっち方面は私と芹緒様に任せてくれれば大丈夫」


 さつきがつつじより大きな胸を叩く。



「全然安心出来ない……でもお嬢様のストレスが解放されるのは良いことなので、お任せします。旦那様も美琴様が力を発揮されたことで一安心なのでしょうし」


「何も指示ありませんでしたからね、この生活に」




「美琴様と芹緒様が二ヶ月でお互いの体での生活に飽きてくれるといいのですが」


 美琴は楽しむ気満々だが、芹緒はどうにも分からない。

 ただ、二ヶ月の入れ替わり生活ののち、入れ替わっていた体に未練が残るのはまずい、というのはつつじとさつきの間で一致していた。

 特に芹緒が、というわけではないのだが、『中年男性が未成年女子の身体に興味を持つ』という状況は文章にするとあまりにも怪しすぎる。



「ただ」


 さつきは頬に片手を当てて言う。


「私は芹緒様が素直に笑ってくれるのを楽しみにしています」


「ああ……そうか」


 さつきの言葉に、つつじは芹緒が入った美琴にずっと感じていたもやもやの正体が分かった。



 芹緒は笑わない。



 美琴も明るく笑う子ではないが、いつも優しげな笑みを浮かべている。

 が、芹緒が入ってからは笑顔を見ていない。



「そうですね。芹緒様が見せる美琴様の笑顔、楽しみにしましょう」


 そうして二人はまた部屋の清掃を続け始めた。







「ただいま」


「戻りました」


 インターホンが鳴り、つつじが鍵を開けるとそこには汗だくの美琴とすました顔のさくらが立っていた。


「お帰りなさい。どうでしたか?」


「ジョギングは無理だったあ。早歩きしてきた」


 はあはあと荒い息をあげる芹緒の姿。



 内面を分かっているから大丈夫とはいえ、知らない人間が見れば確かに芹緒が悲観するように今のこの汗まみれ姿で荒い息を吐く様は見苦しい。


「シャワーかお風呂入りたい!」


 美琴の心からの声に


「お風呂の準備は出来ていますよ。どうぞ」


 とさつきが声をかける。


「ありがとう。……芹緒さんは?」


「あれから出てきてません。……お休みになられていると困りますね」


「芹緒様もさすがにお風呂に入らないのは、ね」


 つつじの言葉にさつきも同意する。


「ところで、さ」


 美琴(13)が告げる。


「男の人って私たちとお風呂の入り方一緒なのかな?」


 ピシ。


 四人の間の空気が固まった。



「同じでしょう」


 つつじ(20)が決めつけるように言う。ただその顔は少し強張っている。


「髪も短いですし、体を普通に洗えば良いのです」


「背中に手届かないんだけど、誰か一緒に入ってくれる?」



「い、一緒に入る必要はありません。外からささっとお流しします!」


 とさくら(16)。


「おまたどうしたらいいんだろう?」



「私でよければご一緒しますよ?」


 にっこりと笑うさつき(21)。


「イヤな予感がするから止めなさいさつき」


「私乙女だよー」


「乙女ならなおさらです!」



「じゃあ芹緒さんと一緒に入ろうかな。私の体もちゃんと洗わないとだし」


 美琴の爆弾発言につつじとさくらが色めき立つ。さつきは「それもそうね」と頷いている。


「さ、さすがにお嬢様と芹緒様が一緒のお風呂に入るのは問題あるかと……!」


「間違いがあってはいけません!ダメです!!」


「だからさ? 私はもう芹緒さんの体なんだし、芹緒さんは私の身体なんだよ? 私が自分の裸見ていやらしい気持ちになるわけないじゃない」


「そもそも男女で一緒にお風呂、というのがダメです」


「私は男性の体興味あるからいいのに……」


「芹緒殿が言っていたではありませんか! お嬢様の純潔を守るために私はここにいるんですよ!」







「ん……」


 扉の向こうからかしましい声が聞こえてくる。

 いつの間にか眠っていた芹緒は、身体を起こすと暗い部屋の中を寝ぼけまなこながら慣れた動作で歩き、すいすいと扉の前までたどり着き開ける。


「なんの騒ぎ?」


「「「「!!!!!」」」」


 扉の向こうにいた四人の視線が芹緒に集まる。


「あんまりうるさくしないでね」


 芹緒は慎ましく暮らしているのだ。騒音で怒鳴り込まれても困る。



「あっ……」


 美琴が股間を押さえたのと


「芹緒様、服を着て下さい!」


 つつじの声は同時だった。



「ん……あっ!?」


 言われて慌てて扉を閉め暗い部屋に戻る。

 芹緒はパンツ一枚の姿だった。

 まとわりつくワンピースを脱ぎ捨て、胸を締め付けるブラを外し、眠ってしまっていた。

 男性のままなら、それでも非難されるだろうが、最低限は隠せていた。

 電気を点け、テーブルの上のブラを見る。

 一人で付けられる気がしない。

 床に落ちたワンピースを持ち上げてぱたぱたとほこりを落とす。

 これ着てればいいかな。

 そう考えワンピースに頭を通した。




「ダメですね」


「アウトですね」


「論外です」


 三人のメイドにダメ出しされ、美琴は涙目になっていた。


「あれは卑怯だよお。暗がりから金髪の美少女が胸を隠すことなく開けっぴろげにトロンとした顔して乱れ髪で出てくるんだもの。あれは卑怯。えっち」


「とりあえず、芹緒様に男性のお風呂の入り方を聞いて入って下さい。二人きりになるのは禁止です」


 つつじがそう告げる。





 芹緒の知らぬ間に芹緒の純潔は守られたのだった。

次回、芹緒のお風呂回!

誰かと一緒に入ります!

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