第四十五話 お泊まり会② レースゲームとみんなのヒミツ
結局レースゲームでは芹緒が圧勝した。
途中から桜子や葵もゲームに参加してきたが、一度以外首位を譲らなかった。
このゲームは芹緒もそこまで遊んだわけではないがしょせん元大人と現役女子中学生、ゲームに対する経験値が違った。
大人げないと思われても仕方がない。
芹緒とて接待くらいは知っている。だが試しに一回ワザと負けて四人の中で最下位になってみたとき、一位になった姫恋から『おちんちんが大きくなるのってどんな感じ!?』という頭がクラクラする質問をされた結果、負けられなくなってしまった。
最初に聞いてくるのがこんな質問ということは、このまま手加減して負け続けたら質問内容もどんどんエスカレートする可能性があるだろう。
姫恋は美琴の素と何ら変わりない、と芹緒は心の中で断言した。
本来決して女子中学生に聞かせていい内容ではない。
だが今回接待したとはいえ負けは負けだ。芹緒が呆れながらも姫恋にひそひそと教えた結果、聞いた姫恋もそばでしっかり聞き耳を立てていた桜子と葵も俄然やる気を出して勝ちに来た。
ぶつぶつと『セックスとは…』と言っていた葵の姿が思い返しても恐ろしい。
そして手加減せずに勝ち続けた結果、芹緒は不必要なほど三人の、特に姫恋の情報を知ってしまっていた。
中川姫恋。
元々父親は温泉を掘る業者だったが、ある日石油を掘り当ててしまい一夜にして大金持ちになってしまった。
「ビックリしたよね! お酒飲んで真っ赤になったパパが家に帰ってきたとたん、座り込んでカバンからお札をこう、ばーって何度も投げ出してさ『お金持ちだー!!』って言ってるの」
それからは上流階級の子女が通う学校に子どもたちを送り込んだり大きな家や本社ビルを建てて豪遊しているらしい。芹緒からするととても分かりやすいし共感出来る成金仕草だ。
だが姫恋本人からすると、小学校を卒業して仲の良い友だちと同じ中学校に通い始めたばかりだったというのに、急に親の都合で転校させられ、元が庶民で作法に詳しいわけでもなく、本人のノリと周囲のそれの温度差がすごかったため、クラスで浮いてしまって困っていた。
そんな姫恋の窮地を救ったのが美琴だった。美琴は姫恋に声をかけるとウマがあったのか二人はとても仲良くなり、そして美琴の伝手で桜子や葵といったクラスの中でも指折りの名家のお嬢様と仲良くなることが出来た。
「美琴はアタシにとって最っ高の友だちなんだ! 」
と姫恋は目をキラキラさせながら言う。
(美琴さんの素と似てるからね……相性いいのは当然かも)
勉強は全くダメだがその分スポーツは万能。身長もこの中では一番高く、短い茶髪と相まってクラスでは王子様ポジションを確立しており、体育の時間にはお嬢様たちから黄色い声援も飛ぶとか(桜子談)。
スリーサイズは……聞いたが芹緒は思い出したくない。
こちらが聞いてない質問、しかもえっちなことばかり言って芹緒を困らせてきた、要注意人物である。
今日の下着は白(ショートパンツをずらして見せてきた)。
他にも胸が膨らみ始めたときの気持ち、初めてブラをつけた日のこと、なのにまだ生えて来ないんだー、などと芹緒が聞きたくもないのに教えてくる。
耳を塞いでも桜子と葵が両腕にしがみついて聞かせてくる。意味が分からないが桜子も葵も年相応の無邪気な笑みを浮かべてじゃれついてくるのでつい許してしまう。
だがこのままだと芹緒が負けたら何を聞かれるか……。
そしてそのえっちなことを言ってくる姫恋を強力にサポートしたのが葵である。
芹澤葵。
感情を読み取る力があり芹緒が恥ずかしがってることが分かるとそれを姫恋に伝えてしまう。それによって調子に乗った姫恋がさらにこちらを困らせるようなえっちなことを言う……邪悪なコンボだ。
姫恋と違い勉強は出来るがスポーツはからきしだ。
身長は美琴とそう変わらず、まだまだ成長を感じさせる身体である。
考えていることを口にするのが面倒なのか、発する言葉は少なめだが昨夜のチャットを見る限り、アウトプット自体を嫌っているわけではないらしい。
現に芹緒を困らせる口ぶりは言葉少なながらも達者だ。
ゲームの勝負で負けた際、ほとんど姫恋が勝手に(えっちな内容で)答えてしまったため、芹緒から葵にした質問は少ない。
兄弟は?という芹緒の質問に
「姉がいる……」
と教えてくれた。
伊集院桜子。
ウソを見抜く力がありワザワザ姫恋のえっちな発言の裏を取って教えてくれる。サポーターその二だ。
「姫恋様のおっしゃっていた胸の悩みは真実ですよ」
などなど芹緒にとっては本当に無用の親切だ。
桜子の得意なことは?という芹緒の質問には
「人並みですが舞踊や歌唱でしょうか……」
との答えが返ってきた。
だが姫恋や葵が言うにはそれは謙遜で実際は全国レベルのコンクールで何度も賞を取っているらしい。
「桜子は歌がすっごく上手くて、『聖桜のサイレン』って呼ばれてるんだ!」
「……おしい、セイレーン」
「大きな声ということでしょうか?」
「サイレンは意味合い変わってきちゃうよ」
聖桜とは彼女たちの通う『聖桜女学院』のことだ。男子禁制の秘密の園である。
そうこうしているうちに、桜子がスマホの時計を見てみんなに伝えた。
「そろそろお昼にしませんか?」
芹緒はそう言われて初めてお腹が空いているのを感じた。それだけゲームに夢中になっていたらしい。
お腹が空いているのも忘れるくらいゲームに熱中するのはとても懐かしいが、反面やはり大人気なかったなと反省する。
と、
「くー」
と姫恋のお腹から可愛い音が鳴る。
「あはは、お腹空いちゃったよ!」
「私もです」
「……あいむはんぐりー」
芹緒たちの声を聞いて桜子は立ち上がり襖を開ける。
するとその向こうには和風建築の伊集院家には似つかわしくない西洋風の空間が広がっていた。
「行きましょう」
開け放たれた向こうから鼻腔をくすぐる匂いが漂ってくる。
芹緒たちは桜子に言われるまでもなく立ち上がりその後に続いた。
そこは伊集院家の離れにある迎賓館だった。
パーティーを行う際に利用されるこの建物は、今は芹緒たちだけのビュッフェ会場だった。
様々な料理を載せた大皿が、ずらりと並ぶたくさんのテーブルに本来の用途よりは狭いエリアに配置されている。
ステージ上では小さな楽団が軽やかなワルツを奏でている。
「桜子?」
ニヤニヤと笑いながら姫恋が桜子を見るが、桜子は顔を紅潮させながらぷいとその視線から顔を背ける。
「間に合いませんでしたのっ!」
昨夜のチャットで桜子がいなくなっていた間に、桜子はパジャマパーティーを本格的なパーティーと勘違いして準備を進めてしまったらしい。
料理人の方々もお茶目だな、と芹緒はくすりと笑ってしまい、それをむーと子どもらしく口を尖らせた桜子に見咎められてしまう。
テーブルに並べられた料理は量こそ少なめであるものの、全員が同じものを食べてもなくならないくらいの量が用意されていた。
「残った料理は使用人の皆さんに食べていただけるよう伝えてありますわ」
桜子は少し申し訳なさそうに言う。
桜子は、というかここにいるお嬢様たちは皆使用人たちを見下さず対等な人として扱っている。
それだけお互いの使用人たちとの関係が深いのだろう。
だから残り物を食べてもらうことに抵抗を覚えているのだろう。
「その気持ちがあれば大丈夫ですよ」芹緒はそう言って桜子を慰める。「少し失敗したくらいでくよくよしてはダメですよ」
「優香様……ありがとうございます」
桜子はほっとした顔で芹緒を見つめる。優しい空気が流れるが
「早く食べよー!」「……はりー」
欠食児童が騒ぎ始めたため、なし崩し的に皆思い思いに好きなものを取りにいくのだった。
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