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ヤサシイセカイ  作者: 神鳥葉月
第一章 交わる二人の世界

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第四十二話 念願の一人風呂

 結局出前を頼んだ夕食休憩を挟んでコスプレ撮影会は夜まで行われた。


「つつじさん、さくらさん、ありがとうございました」


 芹緒はコスプレ衣装を脱いでバスタオルを身体に巻いた姿で頭を下げると、お風呂に入りに行った。

 芹緒念願の一人風呂だ。

 衣装を脱ぎ本来の仕事着であるメイド服を着て洗い物や片付けをしていたつつじとさくらは、芹緒がリビングを出て行くと手を動かしたまま話し出す。


「たくさんの衣装を着せられるお嬢様や芹緒様の気持ちが少し分かりました」つつじは反省の混じった声で言う。「自分でその立場になってようやく分かりましたが大変ですね……。お嬢様たちを綺麗に飾り付けるのは当たり前とはいえ、自分の意に添わない衣装も着るのは一苦労でした」


「私は楽しかったですよ」さくらは少し頬が紅潮している。「芹緒殿が言うように普段の自分では到底なれない自分になるのは心が踊りました。……それはそれとしてさつきにはしっかりお返しはしたいところですが」


「それはそうですね。……お嬢様が手術しているというのにどこでそんな時間を作ったのやら」


 つつじはそうこぼすが、さつきは難しいことはしていない。芹緒のオーダーメイドを頼んだ仕立て屋に電話をして、芹緒と同じ衣装をつつじとさくらのサイズに合わせて注文しただけだ。

 二人のサイズなんて洗濯していれば嫌でも目にする。それを意識的に覚えるか覚えないかの違いだ。

 さつきはいつかみんなでコスプレしたいなぁくらいにしか思っていなかった。今回その知識が生かされただけに過ぎない。

 美琴のような年齢の割に早熟した身体だと既製品では体型に合わずオーダーメイドになってしまうが、つつじとさくらのような年齢相応の身体だとほぼ既製品で賄える。

 昨夜の芹緒への衣装お披露目から翌日の今日、衣装が届いたのはこれが理由だ。

 問題はいつ芹緒はさつきに依頼したか?だが芹緒は昨夜自分用の衣装を見せられたときに二人にも着せようと思い付いた。

 そしてこっそりさつきに連絡を取り、さつきも二つ返事で了承したのだった。つまり芹緒とさつきの共犯である。

 芹緒とさつきが共犯であることは二人にも分かってはいるが、芹緒は今日二人と一緒にコスプレ衣装を着て撮影会をしたので禊ぎはすでに済んでいる。


「あまりこういったことに詳しくないのでさつきに対してどうすればいいのかわからないのが困りますね」


「さつきはこういった衣装は喜んで着そうです。おそらく自分の分も用意していることでしょう」


 リビングで二人はしばらく悩み続けるのだった。






「ティ○テ~テ○モテ~♪」


 懐かしのCMソングを口ずさみながら芹緒は長い金髪を丁寧にもみ洗いする。

 とはいえ今日お風呂は三回目だ。あまり洗いすぎてもかえって髪に良くないかもしれないし、コスプレ撮影会で軽く汗をかいたからちゃんと洗ったほうがいいのかもしれない。


 (ここらへんの判断はまだまだだなぁ)


 結局芹緒はいつも通りに髪を洗いシャワーで泡をしっかり洗い流すと、コンディショナーを手に取り髪に馴染ませる。そしてスナップボタン付きのヘアタオルを使って長髪を包み込むとパチンとボタンをはめてヘアタオルを留める。

 鏡を見ると髪をタオルでまとめた裸の少女が映っている。この姿はアニメやマンガでよく見る光景だ。

 芹緒は軽く首を左右に傾け、簡単にほどけそうにないことを知ると、ボディソープを手に出し泡立てネットでふわふわの泡を作っていく。

 そして出来上がった泡を転がしながら美琴の身体を洗っていく。

 身を持って知ったことだが、女の子の肌はとてもきめ細やかで薄くて敏感だ。

 だから少し強く力を入れただけで赤くなってしまう。

 男の頃に使っていたような目の粗い垢すりタオルなんて使った日には肌がヒリヒリと赤くなって大ダメージを負うだろう。

 だからこのように泡を転がして洗う。

 胸も自分でさわる分には不意にさわられるよりかは刺激も少ない。

 芹緒は乳房の真ん中からくるくると回すように胸を洗い、谷間や胸の下、脇といった汗がたまりやすい部分を丁寧に洗う。

 そしてお腹や足も同じように洗っていく。

 足はどこまで触っても滑らかで気持ちよい。

 すね毛どころか毛穴すらない肌はこんなにも手触りがよいものなのか。足を洗うたびに芹緒はその感触を楽しんでしまう。

 そうやって身体を前屈して足の先まで触っていると両胸が太ももに当たる。男の頃には有り得なかった感覚にドキドキしてしまう。

 一人では届かない背中は壁にかけてある淡いピンクのシルクのロングタオルの出番だ。

 泡を乗せて背中に回すと、軽く背中を覆うようにタオルを滑らせていく。

 全然力は入れていないが背中は心地よい。

 そして手の届く範囲を洗うと、芹緒は股間に手を入れる。そして割れ目に沿って軽く外側を無心で撫で洗う。いつさわってもあるべきところに肉がついていないことと割れ目が前から後ろまであることに違和感を覚える。


 (美琴さんはどう思ってるんだろうか)


 そんなことを考えたが、そもそも贅肉だらけの体だ。違和感どころの騒ぎではないだろう。

 芹緒はバカな考えを振り払うと、ヘアタオルを外しコンディショナーと身体の泡をシャワーで洗い流し始める。指先で髪をすべらせるとコンディショナーが流れ落ちて指通りがなめらかになっていくのがわかる。

 シャワーから出るお湯が肌を叩く感触が気持ち良くて思わずため息が出る。

 そう言えば桜子はシャワーがあるのにわざわざからんからお湯を出していた。

 そういうものなのかと芹緒も桜子を真似してからんからお湯を出して桜子にかけていたが、もしかしたら桜子はシャワーが肌を叩くのも痛いと感じるほど肌が弱いのかもしれない。

 桜子を真似して良かった。

 そうしているうちに髪も身体もすっかり洗い終わった芹緒は新しいヘアタオルを取り出し改めて金髪をタオルの中に包み込む。

 そして芹緒は浴槽をまたぐとゆっくりしゃがみ込んでその小さな身体をようやくお湯に浸からせる。


「はー……♪」


 見た目にそぐわない安堵のため息が可愛らしい口から漏れる。

 いつも誰かと入っていて身体が密着する気持ちよさ、特に芹緒はここに住むメンバーの中で一番身体が小さいため、いつも誰かの膝の間に座っていて彼女たちの柔らかい胸が直接頭や背中に当たるのも悪くはないと感じている。柔らかい太ももに挟まれるのも安心感を覚える。がそれと同時に申し訳なさを感じるのもまた事実。

 だからこうやって今の芹緒にとって広い湯船を一人で満喫出来るのは心が解放されていると感じる。

 ちゃぷちゃぷと腕を出してはお湯をかけてその手触りを楽しむ。

 お湯の中で太ももやふくらはぎに手をすべらせ、そのどこまでも続くなめらかさに感動する。


 (それにしても今日は色々あったなぁ)


 身体をさわる手を止めた芹緒は激動の一日を振り返る。

 昨夜の桜子への電話でなんとかなった、と安心してからの朝早くから届いた桜子のお屋敷への招待。

『二人きりでお話したい』と言われた時の緊張感。

 不思議な伊集院家の構造。

 そこに現れた二人の美琴の友だち。

 彼女たちを交えた桜子との会話、そして謝罪。

 葵と二人きりになって聞いた彼女の力。

『スキンシップを取りましょう!』などと突飛なことを言い出す桜子。

 そして中学生とお風呂に入ってしまった罪。

 桜子の『許嫁との結婚』という言葉につい美琴のことを口走ってしまったこと。直後湯あたりしてしまって倒れたこと。

 彼女たちの信頼を信じて美琴の力のことは秘密にした上で自分の正体を話して中年男が一緒にお風呂に入ったことについて謝罪、彼女たちは『アナタも友だち』と言って謝罪自体不要と言ってくれたこと、そして彼女たちも芹緒の秘密を知る『友だち』になったこと。

 そして家に戻ってからはつつじとさくらを巻き込んだコスプレ大会をこんな時間までやってしまった。

 一人暮らしだった芹緒には信じられないほど濃厚な一日だった。


「明日はどうなるかな……」


 そう呟き芹緒は知らず両手を両胸に置いて肩までお湯につけていく。

 そうして芹緒は一人だけのお風呂を心ゆくまで満喫したのだった。

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