第四十一話 コスプレ撮影会
「無事に解決しました」
帰りの車中、今回の訪問の内容についてつつじとさくらの二人に問われると、芹緒は美琴モードになりにこやかに対応した。
あまりにもあからさまな対応につつじとさくらは何かあったのだろうなとは思いつつ、「私たち四人だけの秘密ですわ」とまで言われるとそれ以上の追求はしなかった。
芹緒は『美琴』として彼女たちと心を開き、『秘密』を作ったのだろう。
元々美琴にもプライベートはある。メイドたちだって知らないことが当然だがある。今回芹緒はそうしただけだろう。
『無事に解決した』というのなら信じるしかない。
この話題以外は終始なごやかなムードで帰路に着いた。
昼食後。
「ではお嬢様にはどれから着てもらいましょうか……」
「明日こそ本格的な撮影スタジオを借りて撮影するので、敢えてここは室内では違和感のある服装を……」
メイド二人が和気藹々と楽しそうに芹緒に着せる衣装を選んでいる中、芹緒はスマホを取り出すと電話をかける。
数コールのうちに電話がつながり、芹緒は一言「お願いします」とだけ呟いた。
メイド二人はその言葉をもう着せ替えてもよい合図なのかと勘違いしたが、実際は違った。
「あら?」玄関から鳴り響くチャイムにつつじが気付き、インターホンモニターを確認する。「お荷物ですね。お嬢様が?」
「はい」芹緒は慈愛の笑みを浮かべ「お二人にプレゼントです」そう宣告する。
「いつの間に」さくらが訝しむが他ならぬ芹緒が注文したものだ。つつじはそそくさと受け取りに行き、そして戻ってきた。
「お嬢様、段ボールたくさんですよ? それに私たちの名前まで」
「はい」芹緒の表情は変わらない。「どうぞお開けになって?」
「ありがとうございます」さくらは何かあると思いつつも注意深く箱を開ける。そして中から出てきたのは……
「お、お嬢様に準備されたものと同じい、衣装が……!?」「なぜ……!?」
「さつきに用意させました」芹緒は困惑している二人の肩を抱きながらささやく。「せっかくですもの、一緒にコスプレ、しましょ?」
「こ、これは芹緒殿が着たいとおっしゃっていたもので私はっ」
「高校生であるさくらはともかく、もう二十歳の私には恥ずかしいですよ!」
「つつじさん、さくらさん」芹緒は美琴の仮面を外し、力の篭った声で二人に伝える。「美琴さんは『私は九条家の客人でメイドたちに好きに命令しても良い』とおっしゃってましたよね? さくらさんは自分を顎で使っても良いとまでおっしゃってました。あの美琴さんやさくらさんの言葉はウソだったのですか?」
「ウソではありません、ありませんが……」「いや確かに言いました……ね」
確かにさくらは言った。『芹緒殿は九条家の客人なのだからあなたのメイドでもある』と。さらに続けてさくらは『自分は顎で使ってもいい』とまで言い放った。そしてつつじはそれを否定しなかった。
だがまさか芹緒の初めての命令がこんなこととは思いもしなかった。
「三人で一緒にコスプレしましょ?」
ようやく芹緒はいつもの困ったような笑顔を浮かべるとそう言ったのだった。
三人でそれぞれを手伝いながらバニーガールの衣装を着ていく。
「んっ……」
Tバックを穿き黒の網タイツを破らないように穿かせてもらい、縫製のしっかりしたボーン入りのバニースーツを着る。
やはり何もない股間部分が強調されている気がして芹緒はドキドキする。
背中は大きく開き腰を締め付ける感じがあるが、その分美琴の女性らしいボディラインをしっかり魅せている。
上半身は前部分だけしかない。このままだと身体を動かした拍子に胸がこぼれたり見えそうだが、さすがさつきオーダーメイド、胸は動いても最後の一線は見せないセクシーな仕上がりになっていた。
「どうして私たちのスリーサイズまであの子は把握してるんですか……っ」
普段クラシカルなメイド服や私服でも肌の露出があまり多くない服を着ているつつじが恥じらいながらバニースーツに身を包んでいる姿は、裸を見ている芹緒ですらドキドキが止まらない。
恥じらいこそエロい。そう日本のエロい人は言っていた。その恥じらいをこの目で拝めるとは思わなかった。芹緒は胸の中で手をあわせる。
さくらは自分で言ったことを思い出したあとは唯々諾々と衣装を着ている。だが真面目な顔をしながらウサ耳をつけている姿は普段の凛々しい姿とは違ってとても可愛らしい。可愛いのが好きならコスプレも好きになって自給自足してほしい。元男性である芹緒はそう思う。
「それじゃあポーズは……」
芹緒は自分の中にある様々なポーズをし、二人にもさせる。こういった服装での『萌え』はこの中では一番芹緒が理解している。芹緒を愛でる目的だったはずのコスプレ撮影会は芹緒を満足させるためのものへと変化していった。
「二人で足をこちらに流しながら胸を正面で合わせて、お互いの手を取って恥ずかしそうにこっちを見上げるような感じで……はい、チーズ!」
美琴もさることながら、つつじもさくらも芹緒から見れば美少女である。さつきだってそうだ。
そんな二人が自分の指示でポーズを変え表情を変え、時には大胆なポーズすら文句を言わずに取る。
もちろん芹緒も二人の指示で同じように様々なポーズを取らされるが、ギブアンドテイクだ。恥ずかしいもあるがそれを上回るくらい楽しい。この場にいる三人は共犯者。お互い様だ。
「次はスクール水着が着たいです」
だから芹緒は顔を赤くしながらも自分の希望を述べることが出来る。
バニースーツを脱ぎ三人とも全裸になると目の前の箱に入っている紺色の旧型スクール水着を取り出す。
「『5−1 つつじ』ってなんなんですか……」
つつじが取り出した水着を広げてその胸の部分に縫い付けられた白い布に書かれた文字を見て大きなため息をつく。
「私が『2−3 さくら』なのはまあいいとして、芹緒殿のが『4−2 ゆうか』なのは納得いきません……さつきめ」
二人はぶちぶち文句を言いながらも着慣れているワンピース型の水着を着ていく。
芹緒は足を通そうと水着の股間部分を見る。そこには紺一色の水着にそぐわない白い布が縫い付けられている。見れば胸のところも同じだ。
芹緒は足を通すと伸びないように下の方を握って上に引き上げる。きゅっと何もない股間に水着が当たり、何もないを伝えてくる。そうして胴体まで水着を上げると肩紐をかけ、胸をしまう。
「芹緒様はスク水着るのお上手ですね」
つつじから苦し紛れのイヤミが飛んでくるが芹緒は気にならない。
「芹緒殿、背中の紐が捩れています。はいオッケーです」
そして部屋の中でスク水を着る女三人(一人は成人済み、一人は中身中年男性)の撮影会が始まる。
芹緒は自分の部屋のベッドを使ってまるでグラビアのように写真を撮影していく。
最初こそそんな芹緒に胡乱な視線を投げかけていた二人だったが、芹緒がスマホで撮影した写真を見て思ったより綺麗なイメージで撮れていることを知ると芹緒のプロデュースに意を唱えなくなった。
お風呂場での撮影。水がしたたり落ちる股間のズーム写真。
あまりにもニッチな写真だが二人は何も言わない。
バスタオルを羽織る姿。少しだけ見えるおしり。お風呂のふちに座り髪をかき上げる。スク水帽子をかぶっての撮影。
ステキな写真がたくさん撮れて芹緒はほくほくだ。もちろん芹緒も同じことをしたし二人のスマホには芹緒のグラビア写真がたくさん収められている。
「芹緒様が楽しそうで良かったです」つつじがスク水を脱ぎながら言う。「芹緒様の写真もたくさん撮れましたし恥ずかしいのは三人で分け合うと思えばどうということもないですね」
「そうですね」全裸になったさくらはバスタオルを巻きながら「いつも私たちが芹緒殿を振り回していたのです。たまにはこういうのもいいですね」
時刻はまだまだ夕食前。
コスプレ撮影会は続いていったのだった。
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