第三十二話 きびしい?つつじ教官
「さすがに今夜は着ないから」
芹緒の宣言につつじとさくらはうんうんと頷く。
その時メロディーが流れ、お風呂が入ったことを伝えてきた。
「それでは入ってきます」
芹緒はそう言ってリビングを出る。そして自室に入り衣装タンスを開けて下着を選ぼうとしたが、その手が止まり、一番右下の手前から機械的に取り出した。パステルグリーンの下着だった。
(女の子の下着でどれ着るか悩みたくない)
そんな芹緒の思いだった。
そして洗面所に入る。
「お手伝いいたしますね」
そこにいたつつじがそう言って芹緒のワンピースのチャックを下ろし、ワンピースをたくし上げる。芹緒の頭をワンピースから抜く。
そしてツインテールについていた髪飾りを外すとそのままツインテールもほどいてくれた。
その手がそのままブラにかかったので慌てて芹緒は振り向いてつつじと対峙する。その時芹緒は胸を両手で隠してしまっていたが無意識だったので気付いていない。
「あとは自分で出来ますっ、ありがとう!」
慌てた芹緒は美琴の仮面が外れていたが誰もそれを指摘しない。つつじは特に気にした様子もなく「そうですか」とだけ言うと服を脱ぎ始めた。
「え!?え!?」
「私も一緒に入りますので」
「聞いてないよっ!?」
「言ってませんでしたね、一緒に入ります」
「おかしいでしょ!」
つつじは芹緒の声を聞き流しながらどんどん服を脱いでいく。
「芹緒様、最後の試験です」
「試験?」
言いながらつつじはブラを外し胸を片手で器用に隠しながら下も脱いでいく。
「今日は私を洗ってもらいます。それで問題なければこれからはお一人で入ってもいいですよ」
全裸になったつつじがそう言って芹緒の前に立つ。
隠すべきところは隠しながら立つ姿は開けっぴろげだったさつきやさくらとは違う。だが隠すことで醸し出されるいやらしさも出てくるのだ。出てくるのだ。
優しかったつつじ先生が鬼教官となって芹緒の前に立ち塞がった。
「そう、泡で擦るのではなく、泡を転がすように……」
芹緒はつつじの後ろに座ってつつじの腕を洗っていた。髪や顔はすでにつつじが自分でやっていた。
つつじ曰く「髪は自分でやります。顔もです」とのこと。こだわりがあるらしい。
(無心無心無心)
脇を洗おうと手を伸ばすと自然とつつじのおっぱいをつつくように手が当たる。芹緒はふよんと揺れるその柔らかさを感じながらも心の中で一心に無心と唱えながら洗う。
顕になったうなじに泡を乗せ転がすように背中を洗っていく。
「やっぱり一人だと背中は上手く洗えませんから助かりますね」
つつじの染み入るような言葉に芹緒も頷く。一人暮らしだと背中はどうしても手が届かずしっかりとケア出来ない。デブならなおさらだ。
気持ちがわかる芹緒はことさら丁寧につつじの背中を洗っていく。
昨日まで自分になった美琴の背中を洗っていたが、やはり女性の肌は手触りが違う。手がなめらかに動く。染み一つない背中は、つつじがこれまでどれほど丁寧に自身のボディケアを行っていたかを感じさせる。
(すごいなぁ)
そう思ってからこの感想が女性に対しての敬意か、女の先輩への羨望なのか分からなくなる。
深く考えると怖い結論に行きつきそうな気がして芹緒は慌ててその考えを頭から消し去る。
「次は前をお願いします」
「前は自分でお願いします」
「ダメです」
つつじの声にノータイムで返したがそれもすぐに返されてしまった。
「明日からも一緒にはいりますか?」
そう言われて芹緒は諦める。明日からの一人風呂のために今日を頑張るしかない。
「背中側から洗ってください」
芹緒はつつじにあすなろ抱きのような格好で手を回す。そして首や鎖骨のある部分を泡あわ洗っていく。
「首や鎖骨といったデコルテは人から見える場所ですのでしっかりと洗ってください」
女性は襟ぐりが広い服を着ることが多いことは芹緒も知っている。だからしっかりと洗う。
「胸は優しくお願いしますね」
つつじが何事もないように言う。
(女同士女同士)
芹緒はそう念じながらつつじの胸に手を回し泡で丸く転がしながら洗っていく。
「んっ」
芹緒の手が胸の先端に触れてしまい、つつじが思わず声を上げる。普段の声とは違う声。芹緒は気にしてないように振る舞う。
胸の谷間を洗い、胸の下を洗う。ここは汗が溜まりやすい場所だ。
魅惑の胸ゾーンを抜け、芹緒はお腹を洗う。
そうすると次は……。
「股間は洗わなくていいので、どういう洗い方をするのか説明して下さい」
そう言われて芹緒はほっとする。
芹緒は自分の股間に誰かの手が入ったことはあっても自分が自分以外の誰かの股間に手を入れたことはない。
そこに手を伸ばしたら女同士だろうが今の芹緒には猛毒すぎる。
「あまり念入りに洗わず、軽く流す程度で。ただし生理の場合は軽く泡で汚れを落とします」
「そうです」
そう言ってつつじが立ち上がる。芹緒の目の前につつじの大きなお尻が現れる。
「お尻もお願いします」
眼前ど迫力のお尻に圧倒されながらも芹緒は今まで通り泡で転がすように洗っていく。お尻と太ももの付け根は特に念入りに。
「ではそのまま足をお願いします」
芹緒は太ももからつつじの足を洗っていく。
(太ももって太いなあ)
ここまで来ると芹緒も少し気が抜ける。恥ずかしい場所はもう終わり、あとは足だけだ。
芹緒の考え通り、足を上から洗っていき、足の指まで洗ってつつじの身体洗いは終わった。
ゆっくりとシャワーを当ててつつじの身体の泡を洗い流していく。その際に空いた手で残ったボディソープのぬめりを拭い去るのも忘れない。
「終わりです」
「芹緒様ありがとうございました」
椅子に座り直したつつじが芹緒のほうへ身体を向ける。今まで見えなかった(見てなかった)つつじの胸が目に入り芹緒は思わず顔を背けそうになるがなんとかこらえる。
「合格です」
つつじ先生はそう言って芹緒の頭を撫でる。
「短い間によく出来るようになりましたね。さすが芹緒様です」
「あはは……」
頭を撫でられるのは恥ずかしいが悪い気はしない。子どもっぽい褒め方だが褒められると素直に嬉しい。
「では私が芹緒様を洗いますね」
「お願いします」
芹緒はリラックスした気持ちでつつじに身体を任せる。
つつじは慣れた手つきで芹緒を身体を洗い上げていく。胸はもちろん股間にも手を入れられたが芹緒は何も言わなかった。気持ちよくて全く気にならなかった。
そして二人で湯船に入る。
つつじの足の間に芹緒が入る形だ。つつじの胸が芹緒の頭に当たってちょうど良いクッションになる。贅沢すぎるクッションである。
以前の芹緒だったら一人で入れば狭かった浴槽も女の子になれば女性と一緒に入ってもまだ余裕がある。
「芹緒様、これは提案なのですが」お湯から出ている芹緒の身体にお湯をかけ撫でながらつつじが言う。「背中を誰かに洗ってもらうのは気持ちいいですよね。芹緒様は今回一人で入る権利を手にしましたが、よろしければ今三人ですしローテーションで二人一組の日と一人の日を作りませんか?」
「そうですね」芹緒は考えながら言う。「背中洗えないと困りますよね」
「お嬢様でしたら毎日誰かと一緒に入浴ですので、折衷案です」
何度もいうがこの身体は美琴のもの。いずれ返すもの。本来は毎日メイドたちの手が入って当然なのだ。
芹緒のわがまま(当然の権利)で一人入浴の権利を手にはしたが、それで美琴の身体の手入れに怠りがあってはいけない。
それに芹緒は嬉しかった。
トイレもお風呂も女性として一人で出来るようになった。それを認められたのが嬉しかった。芹緒に任せられるという信頼が嬉しかった。
だから芹緒はつつじの案に乗った。
そして二人はのんびりと湯船の中で他愛のない会話をするのだった。
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