第二十二話 さつきの暴走
「それじゃあ今日は最後までシちゃいます?」
髪まで洗い終えた二人が一緒に湯船へ浸かる。
さつきは自分の足の間にいる小柄な芹緒を背後から抱きすくめるようにしながらそう耳元でささやく。
「し、しませんってば!」
相変わらずさつきは自分の身体を遠慮なく芹緒の背中に押し付けてくる。柔らかくて大きな二つのかたまりを極力気にしないようにしながら芹緒はさつきの提案を蹴る。
「でも芹緒様……美琴お嬢様は芹緒様の体で楽しむ気まんまんですよ」
一瞬芹緒は浴室で美琴がやらかした件がバレたかとヒヤリとしたがそうではなさそうだ。
美琴が明日から行う肉体改造とその先の話をしている。
「美琴さんがそれで僕の体に満足すればいいんじゃないですかね。たぶんもっと格好いい男性になりたくなると思いますが、そこまでは面倒見る必要ないですよね?」
「そうですね……。お二人が元に戻れたら、その先は美琴お嬢様の問題ですからね」でも、とさつきは付け加える。「その入れ替わりが成功するためには芹緒様も満足していただかないと!」
話が戻ってきた。
芹緒の機先を制してさつきは続ける。
「女の子の身体は男性みたいにただアレをこすればいい、というものではありません」真面目な口調でさつきは言う。「しっかりと性感帯を開発しないと闇雲に触ってもイケません」
「それは知ってますけど……」
芹緒のそれはえっちな漫画や小説で得た知識だ。実際には女性と付き合ったこともなければそんな関係になったことすらない。
「それなら最後まで出来ないってことでしょう?」
先ほどのさつきの言葉を思い出して芹緒は言う。
さつきの言う通り開発に時間がかかるならこの場で最後まですることは出来ないのでは?
「大丈夫です。私に全てを任せてください。女の子の快感を芹緒様に教えてあげます」
そしてさつきは芹緒が何か言う前に行動を起こした。
芹緒の股間に右手を置き、芹緒の年齢の割に大きな胸に左手を添え、さつきはゆるゆるとさわるかさわらないかくらいのタッチで指を動かし始めた。
「んっ! ちょ……あぅん///」
芹緒の抗議の吐息に耳を傾けず、暴れる芹緒を巧みに押さえ込み、さつきは芹緒を愛撫し続けた。
「もうぜっったいにさつきさんとはお風呂入らない!!」
濡れた身体のままバスタオル一枚を巻いた姿でリビングのドアをバンッ!と開け放った芹緒は大きな声でそう宣言した。
「美琴様」
さくらはすぐさま美琴の視線から芹緒を隠すとそのまま連れ立ってリビングを離れ、
「さつき!!」
つつじは怒気をはらんだ声で未だ姿を見せていないさつきを叱りにリビングを出ていった。
一人残された美琴。
美琴が男性の快感を楽しんだように芹緒もさつきの手によって女の子の快感に達したのだろう。そう推測する。
美琴はさつきとそういう関係になったことはないが、女の子になってわずか三日目の芹緒と生粋の女であるさつきであれば、芹緒をそうした状態にするのは造作もないだろう。そもそも昨日すでにやらかしかけている。
(スッキリはしたけどなんかなぁ……)
美琴は一人残されたリビングで浴室での行動を思い出す。
芹緒の体で達したその瞬間こそすごかったが、その後急速に頭が冷えてしまった。
どうしてかはわからない。ただすごい虚脱感に包まれたのは確かだ。
自由奔放に振る舞っている美琴だが、しょせん女子中学生。耳年増で付け焼き刃な知識しかない美琴は何でも知っているわけではない。だから『賢者タイム』なるものを知らないのも無理なかった。
(自分の身体でシたときはすごかったなぁ……)
達したときのあられもなく肢体を投げ出している自分をつい頭の中で映像として思い出そうとしてしまい、慌ててその記憶を霧散させる。
今の異性である男性の体には毒すぎる。
(ひとりえっちはともかく、セックスは気持ちいいに違いないはず……)
思春期まっただ中の桃色思考回路はそう結論づけて、美琴はなかなか熱が逃げない脂肪だらけの体をエアコンの効いたリビングでクールダウンするのだった。
芹緒が自室に入る前に見た光景は、さつきが芹緒と同じびしょ濡れの身体のままつつじによって廊下に正座させられている姿だった。
芹緒は黙って首を横に振ると着替えを持ちさくらを伴って自室に入る。
「失礼しますね」
そう言ってさくらは芹緒が巻いていたバスタオルを外して身体を拭こうとする。が
「ひぅっ!……///」
思わず芹緒の口から零れた甘い吐息に、さくらはさつきが何をしでかしたのかを知った。
「……肌が敏感になっているかとは思いますが、このままでは風邪をひいてしまいます。少しご辛抱ください」
そして出来るだけ芹緒が辛くないよう素早く身体の水分を押さえ取っていく。
股間から明らかにただの水ではない液体が太ももを伝って零れていたが気にせず違うタオルで拭い去る。
そして身体をあらかた拭き終わると下着を穿かせパジャマを着せた。
「んっ、ありがとうさくらさん……」
さくらは芹緒をフローリングのクッションに座らせるとリビングからドライヤーとブラシを持って帰ってきた。
ドアを開け閉めするたびつつじの説教の声が大きくなったり小さくなったり。
さくらは芹緒の後ろに座ると芹緒の濡れた金髪をタオルで包み込んで水分を拭き取り、ドライヤーを器用に使って乾かしていく。
そうして毛先まで乾かしきるとこくりこくりと頭が揺れる芹緒に優しく声をかけた。
「終わりましたよ」
「ありがとう。気持ち良かったよ」
ドライヤーをかけてる間に気持ちが落ち着いたのか、先ほどとは違う、うとうととした心地よさを顔に浮かべながら芹緒はさくらに礼を述べた。
そしてそのままベッドに寝転ぼうとする芹緒をさくらが止める。
「あ、髪をまとめますので少しお待ちを」
さくらは手際良く芹緒の髪を軽い三つ編みにまとめると、衣装タンスからナイトキャップを取り出し芹緒の頭に被せた。
「そのまま寝ては髪が痛みますから。それではお寛ぎください」
そう言ってさくらは芹緒の部屋を出た。
外ではまだうなだれたさつきが濡れた身体のままつつじの説教を受けている。
「つつじ、さつきが風邪をひいてしまいます。お説教は服を着せたあとで」
さくらの介入に顔を上げたさつきだったが、お説教は続くと知りがっくりと顔を落とす。
「つつじ。明日からの行動方針について話し合わなければ」
リビングに九条家の関係者である四人が集まる。
芹緒は、彼女たちの今までの扱いからは信じきれないかもしれないが九条家の客人だ。出来るだけゆっくりさせてあげたい。
もちろんコミュニケーションを取るときは別だが。
三人がリビングの椅子に座る中、ただ一人さつきだけはフローリングの床に正座させられていた。
さくらには少しトラウマが蘇る光景ではある。
「本当にお一人で大丈夫ですか?」
それを振り切りさくらが口を開く。美琴は問題ないとばかりに大きく頷いて言う。
「この体は大人なんだし、女性を連れ立っていくのはなんか違わない? おちんちん手術について来る年下の女性って何?って感じだし」
「いえ、お一人では行かせられません」そう断言したのはつつじだった。その目には強い意志が宿っている。「さつきを連れていってください。しばらく芹緒様とは距離を置かねばなりません」
「あう」さつきが呻くが反論はない。
「それに」つつじは続ける。「如何に見た目が大人の男性といえど、中身はお嬢様です。お嬢様だけで様々な手続きを行えるとは思えません。さつきは浅慮で軽薄ですが仕事は意外と出来ます。連れていけば少しはお役に立つでしょう」
「あうあう」
「わかった、そうするね」美琴はそう言ってさつきを見やる。「さつきももういいでしょ? こっち来て話しよ」
「お嬢様ぁ……!」
ようやく許されたさつきはいそいそと椅子に座る。
「それでどれくらい留守にするのですか?」さくらがそう問う。
「脂肪吸引手術はその日のうちに帰宅が可能です。陰茎関連の施術も基本的には当日帰宅が可能です。ですが……」つつじの言葉を美琴が引き継ぐ。「全身するつもりだから当日帰宅は無理かなー」
「全身……それは危険はないのですか?」気になったさくらがさらに問う。
「九条家お抱えの医師の中でも凄腕の方に施術してもらうし、お父様もこの件はご存知だから大丈夫だと思うよ」
美琴の言葉にさつきとさくらが言葉を失う。やりとりを行ったつつじとその報告を聞いていた美琴だけが平然としている。
「わ、わかりました。ではしばらくはお帰りにならない前提でいます」さくらが釈然としない様子ながらもそう答える。
「『二ヶ月一緒に暮らすこと』って制約もそこまで厳しくはないでしょ。そうじゃないと旅行も出来なくなっちゃう」
すでに学校を休んでいる美琴が言うと説得力がないが、休学しているのは芹緒がいきなり女子校に行って美琴になりきれないのを危惧してのことであり、四六時中一緒にいるためにしているわけではない。
そうであればすでに今日のお出かけで二組に別れた時点で破綻しているはずだ。
二ヶ月という期限も曖昧だ。二人がお互いの体に飽きるのが二ヶ月なのか、二ヶ月でお互いの体に飽きさせるのか。あるいは二ヶ月経てば勝手に元に戻るのか。
それすら分かっていないのだからあまり気にしていても仕方がないかもしれない。
「最長で一週間ってところじゃないかな」そう美琴は締めくくる。
「わかりましたね」つつじはそう言って全員の顔を見渡す。「さつき。あなたは明日から美琴様と行動を共にして美琴様を手助けなさい」
「はい」背筋を伸ばして返事をするさつきには先ほどまでのしょぼくれた面影はない。美琴付きのメイドとしての表情をしていた。
「さくらは引き続き芹緒様の護衛を。男性になったお嬢様よりお嬢様の姿になった芹緒様の方が心配です。いいですね」
「心得ております」三人のメイドで最年少のさくらはそう言って頷く。「今の生活を憂慮なく送れるように尽力いたします」
「私も芹緒様がのびのびと過ごすことが出来るよう動く所存です」つつじはそう言って芹緒姿の主を見る。「本当にご無理だけはなさらないように」
「ありがとう」美琴はそう言って全員の顔を見渡す。体が変わってもそこにいるメイドたちは幼い頃からずっと一緒について来てくれた頼もしい存在なのだ。
「お願いがあるの」美琴の言葉に全員が居住まいを正す。
「おちんちんの手術後ってしばらくひとりえっちも出来ないみたいなの。だから今日のうちにいっぱいしておきたいからしばらく一人にしてもらってもいいかな?」
ゴン!
穏やかな雰囲気が漂っていたリビングに大きな音が響く。
さつき以外の二人の乙女がテーブルに頭をうちつけた音であった。
皆さんの評価やブックマーク、感想が心の支えです。
読んで気になる、面白いと思っていただけた方はぜひ評価やブックマーク、感想をよろしくお願いいたします。




