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ヤサシイセカイ  作者: 神鳥葉月
第一章 交わる二人の世界

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第二十一話 浴室のしとう

「んーっ!!」


 狭い浴室内に少女の力のこもった声が響く。

 芹緒の肉体を洗う、バスタオルを巻いた美琴姿の芹緒。毛の生えた脂肪だらけの背中を目一杯こすり上げているが芹緒姿の美琴はまだまだ余裕綽々な声をかけてくる。


「がんばれがんばれー♪」


 芹緒の身体中に玉のような汗が浮かぶ。泡立てたボディタオルで肩口から腰まで、力がない分丁寧に時間をかけてこする、こする。


「それにっ、してもっ、明日だなんてっ、急、すぎるっ」


 こする手を休めず芹緒はそう美琴に愚痴る。

 美琴の行動は早かった。今日の買い物で二組に別れたあと、つつじを説得して九条家お抱えの病院を押さえてしまったらしい。

 もちろん美琴や芹緒の入れ替わりは秘密で。

 ただの醜いおっさんが九条家の力を借りて最初にすることが脂肪吸引だったりアレの手術とは……。

 個人を詮索するような病院ではないのだろうが恥ずかしいことは恥ずかしい。


「本当は黙って肉体改造してカッコ良くなった姿を芹緒さんに見せたかったんだけどね」


 そう笑いながら言う美琴。

 それは紛れもない本心だ。


 だが美琴は誰にも明かしていない野望がある。

 それは『自分自身とセックスする』ことだ。


 さすがに異性なら誰とでもえっちしたい訳ではない。

 いくら男性になりたかったとはいえ、そういったプロのお姉さま相手との性行為なんかは女子中学生の想像外だ。

 昨日見た自分自身の身体への精神からくる純粋なトキメキと、男性の肉体としての素直な性的反応。

 そして未だ自慰行為すら出来ていないモヤモヤ。

 これらが美琴を突き動かす原動力となっていた。


(今日する。絶対する)


 それにこの体は美琴だけのものではない。芹緒と二人で納得出来る相手でないとダメだろう。

 ならばお互い同士だ。これしかない。

 美琴はそう結論づけていた。


 実現するためには、『おちんちんを性行為が出来る位大きくする』ことと『芹緒を説得すること』が必要だ。

 が、それは簡単にクリア出来るだろうと考えていた。

 おちんちんはこれから手術で大きくするし、芹緒は押しに弱いだろうから。

 芹緒だって女体での性行為に興味はあるだろうし、それを知らない男性と行うのはハードルが高いだろう。

 だから大丈夫。

 そう楽観視していた。


 芹緒が自分自身の肉体をどれほど嫌悪しているか知ってはいても、それがどれほど根深いものなのかを美琴は知らない。


 そしてもう一つの問題も美琴は見落としている。


「脂肪吸引は命に関わる場合があるらしいから、本当に無理をしないでね」


 美琴を気遣う芹緒の声。

 正直な話をすれば、芹緒が力を入れて背中をこすり上げるときに出す吐息や声、背中を這う小さな手、これらに美琴の体は素直に反応していた。

 自分の声や身体だと頭では理解しているのにこのザマだ。

 男性は本当に本能に忠実だし、よく理性で抑えているなと感じる。


(これで小さいのかぁ……)


 タオルの上からそっと触れるその幹は芹緒の体の指でも掴みきれない。


(短いのかな)


 片手を広げて測ってみても同じくらいだ。


(まあお医者さんに任せたらいいよね)






「お疲れ様でしたお嬢様」


 リビングでの話し合いのあと、芹緒の呼び方は『美琴お嬢様』に戻っていた。

 さつきはお風呂場から出た芹緒の濡れた手足を拭き上げると、向かいの芹緒の部屋を指差した。


「私もこの部屋見たいです」


 朝つつじが芹緒のおねしょの対応で出入りしていたところを目撃したさつきがそう訴える。

 先ほど荷物をこの部屋に運び込んだはずだが、部屋の主に許可をもらうまでは極力見ないようにしていたのだろう。


「どうぞ」


 芹緒としても片付いた部屋なら人を招くのに躊躇はなかった。そう言ってドアを開ける。


「ありがとうございます! わぁ、本がいっぱいですね~」


 部屋を見回したさつきの第一声がこれだった。

 正確には本というよりもマンガやラノベだらけなのだが。

 それ以外にあるのはラベリングされた収納ボックスが多数と衣装タンスだ。

 さすがに収納された個人の持ち物に興味を持たないよう訓練はされているらしい、表向きは。


「こっちのマンガはなかなか玄人好みですねぇ。この作家さん好きなんですか? シリーズがたくさん揃ってます」


 さつきがそう言って取り出して読み始めたのはナンセンスギャグてんこ盛りの宇宙家族もの作品だ。


「大好き。読みたいなら持っていっていいよ」


 芹緒はそう言って棚から漫画を適当に選んで抜き取るとベッドに腰掛け、さつきはフローリングにぺたんと腰を下ろす。

 そうして二人は美琴が上がるまでのしばしの時間、芹緒の部屋で漫画を読みふけった。






「では美琴様、お風呂に入りましょうか」


「うん……」


 美琴が洗面所から出て行ったのを察したさつきがそう言って芹緒を言葉でうながす。


「美琴様、着替えはこの衣装タンスに入ってるので必要なものはご自分で持ってきてくださいね」


「うん……」


 今日買った衣類は先ほどさつきとさくらがこのタンスにしまい込んでいたのは知っている。

 意を決して引き出しを引くと、そこには色とりどりの下着がくるまれて仕舞われていた。

 漫画やアニメでこういうのは見たことある。

 が実際に目にしたのは初めてだ。

 しかもここから自分がこれから着るものを選べという。

 今までは渡されたものを着ていただけなので、自分から着たり選んだわけではなかったが、これからはその言い訳は通用しない。

 何を選ぶにしろ、芹緒が選び、芹緒が着るのだ。


「……」


 下着に関しては美琴の姿に似合いそうなものを選んだつもりだが、自分が着るという視点は抜け落ちていた。

 あのときはさつきの暴走で芹緒の中で何かが切れていた。

 とりあえず無難であろう白の上下の下着とパステルブルーのパジャマを選んだ。ピンクは選びにくい。


「はあ……」


 正直湯船で一人ゆっくりしたい。

 だがまだ女の子の身体のお手入れを昨日一日だけでは覚えられていない。


 早く覚えなきゃ。


 そう心に決めて芹緒は部屋を出た。衣類を選ぶ芹緒を見守っていたさつきも続く。

 さつきより一足早く洗面所に足を踏み入れた芹緒は漂う臭いに鼻をひくつかせる。そしてすぐに気付く。

 続いてさつきが洗面所に入ってこようとするのを、自分が慌てていることに気付かれないよう平静を装って全力で止める。


「一人でどこまで出来るか試させて!」


 芹緒の急な発言にさつきは驚いたが特に気付いた様子もなく頷く。


「分からないことがあったらすぐ呼んで下さいね?」


 そう言ってさつきはそのまま洗面所の前の廊下に座り込んだ。その手には先ほどの漫画がある。






「バカ!バカ!バカ!」


 バスタオルをはだけて裸になった芹緒はすぐさま浴室の換気扇を回すと、大人しい芹緒には珍しく、小声で毒づいていた。

 そしてすぐさま浴室へ。そこには。

 嗅ぎ慣れた異臭。この身体の持ち主と入れ替わってなければ決して彼女に嗅がせてはならない栗の花の匂いが濃く漂っていた。もちろんさつきにもだ!


「トイレでしなよ……!!」


 美琴はここで独り楽しんだらしい。芹緒は泣きそうな顔で必死に後始末をする。


(美琴さんがしたのをバレてもダメだし、そもそもバレたら恥ずかしすぎる!!)


 風呂場の壁に残っていた飛沫を見つけて洗い流し、排水口に流れていったのを確認すると、良い香りがする高級そうなボディソープをたっぷりと手に取ると泡立てては壁につけていく。

 やがて壁一面泡塗れにするとようやく芹緒は自身の身体を手で洗い始める。無意識で胸も揉んで撫でるように洗ったが気にする余裕がない。とにかく全身を泡立てた泡で包み込んだ。

 時間が経った壁の泡をシャワーで洗い流すとようやく芹緒は一息つくことが出来た。

 そして身体の泡も洗い流す。

 臭いは消え去ったのか鼻が慣れてしまったのかわからないが、少なくとも入ったときよりかはマシだろう。


「さつきさーん!」


 芹緒は浴室の戸を開け身を乗り出すとさつきに声をかけた。


「はいはい」


 思ったより近くから声が聞こえたので見てみると、さつきは洗面所のすぐ近くにしゃがみ込んで漫画を読んでいた。


「あっ!」


 さつきは芹緒の姿を見るなり芹緒を浴室に押し込んだ。


「ダメですよ! 裸で外出てきちゃ! せめてバスタオルは巻いてください!」


 洗面所に入ってきたさつきにそう言われてしまった。


「あー……ごめんなさい」


 視線を下にやれば濡れた身体がふくらみが、嫌でも目に入る。全く気にも止めていなかった。

 芹緒は黙って湯船に身体を沈めた。


「どこまで出来ましたか?」


 そう言ってさつきは当たり前のように身体を隠すことなく浴室に入ってきた。

 芹緒はすぐさま視線を壁に向けるが肌色や黒い部分は一瞬で視界に焼き付いている。


「身体を洗うところまでかな」


「ボディソープを丁寧に泡立ててあわあわで優しく身体をなで洗いです」


 かけ湯をしながら答え合わせをするさつき。


「私がするので見ててくださいね」


「えぇ……」


 芹緒の諦めが混じった声を気にせず、さつきはボディソープを数プッシュすると少しだけ水を含ませ両手でくるくるこすり合わせてもっちりとした泡を作り出す。

 その手際よさに芹緒は思わず目を見張る。

 昨日はずっとさつきに背中から抱きつかれたまま色々されていたので、背中に当たるさつきの大きな胸にどぎまぎして意識が持っていかれていた。


「そしてこうやって身体の上のほうから順番に……」


 首やうなじ、肩や脇をもこもことした泡で優しい手つきで洗うさつき。

 だがさつきが手を動かすたびに揺れたり形を変えるつんとした釣り鐘型の胸にどうしても視線が行ってしまう。

 一方さつきは何の気にもしていない。

 おっぱいはあるものだし、形が変わろうが揺れようがいつものことだ。

 当然芹緒の視線にも気付いているが、中身が中年男性だと分かっていてもスケベさを押し出したような粗野で下品な視線ではなく、少女の外見と同じ恥ずかしそうに遠慮がちに見てしまう視線にさつきは愛おしさを感じていた。


「本当は髪から始めて顔をして身体の上からと、汚れを上から下に落としていくんです」


 このあと髪と顔は一緒にしましょうね。そう言って芹緒に微笑みかける。


「デリケートゾーンはあまり洗いすぎないように外側だけ優しく……」


 芹緒の目の前で股を少し開いて手を股間に滑らせ洗っていく。

 それを見てしまった芹緒は、ただでさえ赤くしていた顔をさらに赤く染めてしまう。


(ああもう可愛いですねぇ)


 どうしてもさつきは芹緒の初々しい反応を楽しんでしまう。

 二ヶ月の間に慣れてしまうだろうから、この反応を楽しむのは今のうちだ。


 身体を洗い終えたさつきは芹緒を手招きする。

 芹緒は素直に湯船から上がるとさつきの前に立つ。


(生粋の女の子なら胸や股間を隠すんでしょうけど、芹緒様からすればそれは女の子仕草だから恥ずかしいんでしょうね)


 芹緒は股間だけ隠して胸は丸見えだ。

 首を少し横に向けてさつきの裸体を見ないようにしている顔を赤らめた芹緒様が、可愛い。


「お嬢様。こういうときは胸も隠してください。こう、片方の腕で反対側の胸を抱くようにすれば、自然と両方の乳首隠れますから」


 さつきの言葉に芹緒がもぞもぞと片手を動かして従う。

 芹緒様は素直だ。可愛い。


「どうかな?」


「ええ、よく出来ました! 立派に裸を恥ずかしがる少女ですよ!」


「うう……」


 さつきの言葉に耳まで赤くする芹緒。


「ああもう我慢出来ませんっ!」


 そう言うやいなや、さつきは目の前の可愛らしい少女に抱きついた。「ちょっ!?」とか「さつきさんダメですって!」とか何やら言ってるが気にしない。

 愛しいものは愛しいのだ。

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