序
藍色の髪の男、エリオットは愛おしげに眦で柔らかく微笑み、先程からずっと手元で弄んでいた扉の形のペンダントを、開けた。
光と共に舞い降りたのは、一人の魔法少女。
極めて短いスカートに足をピタリと覆う奇妙な衣装、華美なブラウス。彼女は鈍色の長髪を二つに分けて結び、大きな金色の弓を手にしている。仮面の向こうの蜂蜜色の瞳が驚きと戸惑いに揺れてオリバーを捉え、細い腕は間髪入れずきりりと矢をつがえた弦を引き絞った。
彼女がこんな奇妙な登場の仕方をしなかったら、あるいはそんな見た目をしていなかったら、今頃その頤にはオリバーの長剣ロングソードが突きつけられていただろう。
然しこの一瞬が命運を分け、矢じりはオリバーへ真っ直ぐ向けられた。剣を抜き去る途中のオリバーはじっと女の様子を伺いながら身構え、身体に力を入れる。緊張の一瞬。
そして、緊迫する空気を破ったのは親友のこれまで聞いたことも無いくらい柔らかな、恋する乙女のような声だった。
「アルマ、私の可愛い妹!」
がばっと勢いよくエリオットが女に抱き着き、その拍子に思ってもみなかったのか矢があらぬ方向に飛んだ。
「うわっ」
「きゃっ」
思わず身をかがめるオリバーには目もくれず、エリオットは女の髪に鼻先を埋める。
「オリバー!君のおかげだよ、アルマにまた会えるなんて……」
エリオットの様子に、女も大変戸惑った様子でじっとオリバーを見詰めた。今度は、矢をつがえる様子はない。
彼女はようやく口を開いた。
「あれは敵じゃないんですか?」
「え、違うよ。彼は私の親友だからね。アルマは、私に会いに来てくれたのではないの?」
「いえ、命の危険があるようだったので助けに来たんですが」
エリオットとアルマはきょとんとした表情で仮面越しに見つめ合った。オリバーは自身の頬をかすめた矢じりにすっかり青ざめてしまっている。
***
この奇妙な格好をした女こそが、全ての魔術師の祖にして原点、アルマ・リリエントエであった。