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いつからだろうか、物心ついてからずっと
日の光を浴びる花の様に心地よい母の愛と
月の様に、ドンと輝く父が俺の道しるべとなる。
自分にとっては、当たり前で、親の期待に応え生きている
だがそんな俺の姿は、
君には、どう見えていたのだろうか…
人は、他人の環境を羨む
君は、俺の環境に憧れ、嫉妬する想いが膨らんでいたのだろうか
道端で動物の死骸を眺めているような君を、俺達のジィちゃんがなぜ、長男の俺ではなく、出来損ないの、君を弟子に選んだのか…わからないんだ…
そしてその事が、今の俺には、1番の嫉妬の原因だ…
昔、この世界は、魔物が言葉を話、魔法を使える戦士もいた
今では、便利な道具などに頼り
人は衰えたと、父は言っていた…
そして僕の父は、この大陸の王であり、英雄である
僕は、そんな一族の次男に生まれた
全ての期待は、3つ歳上の兄であるゴールド・アーサー・オートの肩に託されている
次男の僕には、何の価値もない…そんな僕の名は、ギン・オート。
僕は、この名前は好きではない、兄の名とつい比べてしまうのだ…
親からもらう最初のプレゼントにケチをつけるダメ息子だと思うが、「次男として生きろ‼」︎そう言われているように思えてしまう…
そして僕の体は、国王の元に生まれ、決められた生き方を拒み、自由を求る、僕の中の自由の象徴はジィちゃんであり、憧れなのだ
そして今日は、一年に一度スカル島から家族が集まる日である、
魔法を使える人は何故か一定の歳から歳を取らない…
国民はそんな彼らを、恐れ始めた
人は自分とは違う物を、受け入れず
過去には英雄でも今では、化け物と呼ぶ
そして僕はまだ、魔法を使った事が一度も無く…使える気もしない…
そして国民は、スカル島を鬼ヶ島と呼び
一年に一度鬼が城へ来ると国民は思い込んでいるが、
広間には、暖かく豪華なご馳走を囲み、各国の王が集まり、家族との限られた時間を過ごす日ともわかっていない…
そしてスカル島で生まれた武器や、便利な魔道具を、ジィちゃん達が届けてくれる。
本当は、国民を助けて居るジィちゃん達に、お世話になりのうのうと生きている事すら、国民の脳裏をかすめることもないのだ…
そんな、哀れな国民が、ジィちゃん達を化け物と呼ぶ時、僕は…国民を哀れに思えてしまう…
そんな国民を何故父や、兄が、命をかけて守ろうとして居るのかも理解に悩む…
「お〜ギンおっきくなったな‼︎お前も、もう12歳だな‼︎」そんなひねくれた僕に声をかけてくれるのはジィちゃんのブラック・ハートと、ばぁちゃんのローズ・オートくらいだ…
スーツ姿に、不釣り合いな、魔王の右腕のジィちゃんの右手は、昔から好きだった…洗い立てのシーツをお天道様に当て、シワひとつなくシーツを敷く、思わず飛び込み、暖かく洗礼された空間、「あぁずっと触れていたい」
そう思わせるようなジィちゃんの手が、僕の存在を肯定してくれているようにも思えてしまう。
「ジィちゃん久しぶり‼︎」
たくましい二の腕と鉄を焼く匂いがギンを包み込む
「もうギンも12歳か‼︎今年から独り立ちだな‼︎これはジィちゃんからのプレゼントだ‼︎」
そう言って、ジィちゃんは、机に二本の刀を置いた。
二本の刀の見た目は、対照的だった、金と銀で装飾された、見た目からも強いとわかる神々しい刀と、女性が身につけていてもおかしくないくらい、鮮やかな桃色の刀であった。
「ギン‼︎二本の刀を握ってみろ‼︎刀がお前を選ぶ‼︎」
兄が誰も抜けない聖剣エクスカリバーを抜いた時の事を僕は、思い出す。そして兄も同じ事を思い出している事を僕は、何となくわかっていた。
きっと男が、何かに選ばれる瞬間はこのなんとも言えない空気に包まれるのだろう…
皆が黙り、珍しく僕に皆の視線が向けられる
僕は、ジィちゃんに言われるまま、二本の刀を同時に掴み持ち上げようとした、だが片方の刀しか持ち上がらない、僕の手には、色鮮やかな桃色の刀が握られていた。
「クスッ」っと兄が笑う、
僕の中では、神々しい刀を手に取り自分の道を切り開く事を想像していた。
だからこそ僕は悔しさと恥ずかしい気持ちで、その場から逃げ出したい気持ちに駆られる…
「桃太郎‼︎その刀の名だ‼︎」
「ギン‼︎お前にふさわしい刀だ‼︎」
兄が駆け寄り神々しい刀を、軽々と手に取る
「ジィちゃんこの刀は俺にくれ‼︎ギンには持ち上げることもできないんだからさ‼︎」
僕の頭に、手を乗せジィちゃんが兄に語り始めた
「その刀はくれてやる‼︎その神々しい刀は、地位や名誉を大切に思う者しか持つ事ができない」
「だがこいつは、命の重さを知っている、この桃太郎と言う刀は、命の重さ知る者のみが持てる刀だ‼︎」
「ジィちゃんの師匠ガンジスと言う男が死んだ時に生み出した魔心石から作った刀だ‼︎」
僕は、なぜかわからないが、頭の先から足の先まで、ジィーンと血が流れ込む感覚を覚えた…
「ジィちゃん‼︎僕を今日から弟子にしてください‼︎」
「僕は、今日からギン・オートの名を捨て‼︎シルバー・ハートになります‼︎」
僕はふと、自分の生きる道が見えた気がした、この桃太郎を手にした瞬間何かが、変わり
何かが始まる音がした…