1.魔王に召喚された
「今日こそ三振させてやるぞ御剣!」
そう言ってグラブを振りかぶるのは、野球部キャプテンの槇村 重雄だ。
俺は野球部ではないけど、助っ人で来ている。
ツーアウト満塁、ここでホームランにすれば、逆転サヨナラだ。
「やってみろよ重雄!こいっ!!」
「おりゃぁぁぁっ!!」
凄まじいスピードで放たれるボール。
高校生のくせに、調子の良い時の重雄の投げる球速は160キロに近い。
だが、視える!ニュータイプ的なあれではなく。
「捉えたぞ重雄っ!」
カキィィィインッ!!
「なにぃっ!!」
バットを後ろに放り投げ、走り出す。
すると、凄まじい光に体が包まれる。
「な、なんだぁ!?」
「御剣!?」
「御剣先輩!?」
「来るなっ!巻き込まれるぞ!!」
「「!?」」
ラノベを愛読していた俺は、この展開に備えていたのだ。
「じゃーな!」
なんてセリフを言って、異世界に……飛ばなかった。
「あれ?」
「御剣……なんのマジックだよ、今の」
「い、いや、おかしいな。流れ的に、異世界に飛ぶかと思ったんだけどさ」
そう言ったら、なんか憐れみの目で見られた、皆から。
「お前、疲れてるんだよ……すまねぇな、精神が摩耗するくらい疲れてるとは知らなかったんだ……決着は、また今度つけようぜ。おいお前ら、御剣が打つ前の状態からやり直しだ!」
「「「ウスッ!!」」」
その日、何故か皆がいつもより優しかった。
帰り道。
俺は自分の体が熱くなるのを感じていた。
なんだ、これ。
心臓の鼓動が聞こえる。
ドクン、ドクンと。
本当に体調が悪かったのか……?そう思って、少し公園に寄り、ベンチに腰掛ける。
夕焼けが綺麗で、この公園には俺以外誰もいないようだった。
そこで少し座っていると、また光が俺の体を包む。
「またかよ!?なんなんだよこ……」
言い終わる前に、俺は姿を消した。
眩しい光から目を恐る恐る開ける。
するとそこには、真っ黒いマントを羽織った、とてつもない美女が立っていた。
まるで、漫画の世界から飛び出てきたかのような出で立ちで、赤いスカートのスリットから覗き見える足がセクシーだった。
「よく来た勇者よ!妾は魔王ミレイユじゃ!」
へ?ま、魔王!?というか俺がやっぱ勇者なのか!?
「妾を守れ!勇者よ!」
「あの、なんで魔王が勇者召喚してるんですか?」
「決まっておろう。妾が弱いからじゃ!」
後ろからドーンと煙が出るようなイメージが湧くくらい、自信満々に弱いとのたまう自称魔王。
「む、信じておらぬな?良かろう、『鑑定』と唱えてみよ」
おお、異世界のスキルか!
「『鑑定』」
すると、空にゲームでお馴染みのステータス欄が出てきた。
ミレイユ♀(9841歳)
職業 魔王
Lv.1
HP 18/20
MP ∞/∞
こうげき力 1000
しゅび力 1000
ちから 1(+999)
まりょく 10(+999)
たいりょく 1(+999)
すばやさ 9(+999)
きようさ 12(+999)
みりょく 999(+999)
「ぶふぅっ!!」
思わず噴き出した。
なんだこれ、MPは凄い、∞(むげん)とかこれ、ずっと魔法使えるって事だよな。
みりょくもまぁ、この見た目だ、分かる。歳も凄いけど、異世界なら気にしない。なんで女じゃなくて♀なんだ?人間じゃないからか?まぁ、それも些細な問題だ。
こうげき力としゅび力はたいしたものだな。
だけど、他のステータスみたいにかっこがないのはなんでだろう。
後問題は他のステータスだ。極端に低い。
なんで現在HPがすでに減ってんだよ、立ってるだけで消耗してんのか!?
ああ、たいりょく1だもんな!
というか魔王って職業なのかよ。
このかっこの数値は、装備の補正って事か?
補正が無かったら、スライムにすら勝てないんじゃないか、このステータスは……。
脳内の突っ込みが追いつかない!
「妾のステータスを見たな?鑑定レベルが1では詳細までは視れぬが……さぁ、次はお主のステータスを見せてみよ」
「えっと、俺に『鑑定』を使えば良いのか?」
「お主は『ステータスオープン』と唱えれば良い。自分だけで見たければ『ステータス』と唱えても、頭の中で念じても良いぞ」
なら自分でそう言えば良かったじゃないか……。
「てっとり早く信じてもらうには、お主が唱えた方が良かろう?」
ぐっ、読まれていた。
気を取り直して、『ステータスオープン』と唱えてみる。
御剣 照矢 男(18歳)
職業 勇者
Lv.1
HP 6000/6000 成長レベルS
MP 490/500 成長レベルB
こうげき力 7000
しゅび力 6800
ちから 7000 成長レベルS+
まりょく 2000 成長レベルA
たいりょく 6800 成長レベルS
すばやさ 5500 成長レベルS
きようさ 7000 成長レベルS
みりょく 30
「ぶはっ!!」
「ふむ、流石のステータスじゃな。これはなんと読むのじゃ?」
「あ、ああ。みつるぎ てりやだよ」
「てりや?呼びにくいのぅ……うむ、お主の事はテリーと呼ぶが、構わぬか?」
「まぁ、別に……」
というか、俺は補正なしでこのステータスなのか。
魔王の装備の補正、高いと思ってたのに……こうしてみると低いじゃないか。
それに、さっきの鑑定の時には視えなかった、成長レベルって項目がある。
これは、レベルアップの時に上がる数値に関係してそうだな。
こうげき力としゅび力に成長が無いのはもしかして、ちからとたいりょくに装備を足した数値だからとかか?
そうだと仮定するなら、さっき見た魔王の基礎こうげき力としゅび力、1って事なんだが……。
後、俺そんなにみりょくないですか、そうですか……。
「うむうむ、それだけ強ければ、妾を守る事など朝飯前じゃな!頼んだぞテリー!」
「いやちょっと待て。まだなんも詳しい話を聞いていないぞ。俺は何からお前を守ればいいんだ?というか、勇者って普通、魔王を倒すもんだろ?」
「なにそれ怖い……」
なんか本気で怯えてる。
あっれぇ、この世界だと違うの?
「勇者怖い、勇者怖い……!」
「なんでそれなら勇者召喚したんだよ……」
「だって、他の世界から召喚されてくる者達は、皆テリーみたいに強いのじゃぞ!?『ちーと』って言うんじゃろう!?そんなものにどうやって勝てと言うのじゃ!勇者に対抗するには、勇者しかあるまい!」
ああ、うん……そうだなぁ。
突然他の世界からやってきて、何の苦労もなく最初から強い。
俺も、例に漏れずそうみたいだし……。
「妾はただ寝ていたいだけなのに!この大陸にある物を持っていきたいなら、なんでも持って行って良いのに!どうして皆妾を殺そうとするのじゃ!?」
魔王は、泣いていた。
本当に、嫌なんだろう。
それが、分かった。
俺だって、魔王は討伐対象ってイメージがあったくらいだ。
どっかの国に召喚されて、その国の王様から、魔王を倒せって言われたら……ほいほいと倒しに行っていただろう。
何の疑問も抱かずに、魔王というだけで。
他の国に召喚された勇者達から、守ってほしい……そういう事か。
「ヒックッ……うぇぇ……」
目の前で美女が、本当の涙を流している。
人間を、恐れて。
正直、俺と同じように召喚された人達が、俺と同じように強いなら……勝てるかどうか分からない。
だけど……俺は言ってしまった。
後々、俺の生涯の過ちと言っても過言ではないと思う、この一言を。
「……分かった。俺がお前を守ってやる。だから、泣くな……!」
「テリー……!」
だって、しょうがないだろ?
女の涙には、勝てないって。
「面白かった」「続きを読みたい」等々思っていただけましたら
評価で応援をお願いします。
下にスクロールしていくと、広告の下にポイント評価を付ける部分があります。
よろしくお願いします。