収穫祭1
マドレーヌ発売から数ヶ月、今日は収穫祭の日だ。豊穣を司る女神様に感謝する日だとかなんとか言われているけどとにかく、
祭りじゃあああああああ!
うん、テンションおかしいけど気にしないで。祭りの時はこうなっちゃうだけだから。
で、収穫祭は神殿とかは神事で忙しいらしいけど私ら庶民にとってはただの祭りだ。屋台とかがいっぱい出る。うちの店も今日は店内ではなく店の前で販売をする。王都の大通り沿いにあるから結構客入りはいいんだよね。去年まではパンだけを売っていてたけど今年は違う。お菓子を売るのだ!!発売以来店頭に置いた瞬間に売り切れるマドレーヌは勿論菓子パンやお惣菜パンを中心に売る。他にも新作のミニアップルパイも売ろうとしている。これは新作として収穫祭の時に初出しするつもりだ。ちゃんとお客さんには収穫祭で新作のお菓子を出すことは言ってあるので完売すること間違いなし!
そして、この日の為に蜂蜜大量ゲットを目標にダンジョンでリトルビーばっかり狩ってたら『リトルビーキラー』って呼ばれるようになった。もっとかっこいい名前はないのかね。そうそう、この間にレンリさん達がいなくても大丈夫だろうってお墨付きを貰ったから一人でダンジョンに行くことが増えたんだよね。レンリさん達にいつまでも私のお守りをさせる訳には行かないからね。
収穫祭が始まり開店するや否や長蛇の列が出来ていた。最初は並ばずに群がって来たけど説明したらちゃんと並んでくれた。決して私が並ばず文句を言う客を〆たからではない。きっとそうだ。
そんなこんなで、あっという間に売り切れた。まだ午前中なのに早いなぁ。周りの店はまだ売ってるのに。
「ルーチェ、せっかくの祭りなんだから後片付けは私達に任せて楽しんでらっしゃい」
片付けているとお母さんにこう言われたから祭りに繰り出すことにした。と、言っても友達は皆出店の手伝いかもう他の子とまわってるかのどっちかだからぼっちなんだけどね。………いいもん!一人で楽しめるし!見つけたら一緒に回ればいいだけだし!
とは言ったものの人多いし王都中が祭りだから全っ然会えないんだけどね。ちくせう。ぼっちで回るしかないのか。
「離しなさい!!」
祭りのメインストリートから少し外れた辺りを歩いていると細道から女の子の声がした。これはあれか?絡まれてる少女を助けるやつか?テンプレキタコレ!細道の方に行くと案の定女の子が三人の男に絡まれていた。
「いいじゃねえか。一緒に祭りに行こうぜ」
「それよりもっと楽しいことでもするか?」
「ギャハハハ」
うわぁ。まじでこんなことするやついたんだ。漫画とかではよくあるけど実際見るとなんか、無性に殴りたくなるな。
「お断りします!」
おっと、見てる場合じゃなかった。早く助けてあげないと。
「おじさん邪魔」
「あ?」
男と女の子の間に入って手を叩き落とす。
「悪いけどこの子は私と祭りに行くからおっさんだけで祭りに行きな」
「んだとゴルァ!」
「何?なんか文句ある?てかさ、嫌がってる女の子無理やり連れてこうってどゆこと?しかもまだ十歳の子に手ぇ出すとかなに?ロリコン?うっわキモ」
女の子も私と同じくらいの身長だし同い年ってことでいいよね。
「このガキャ」
「殴るってことはやり返されていいって事だよね?」
男が腕を振りかぶったので先にがら空きの腹に蹴りを入れる。
「そろそろ消えてくんない?じゃないと殺しちゃうぞ☆」
満面の笑みで告げる。これ言ってみたかったんだよね。元ネタ知らないけど。ちなみに、ここでちょこっと地面や壁を凍らせるのがポイント。基本この世界の魔法は詠唱必須で無詠唱は相当な熟練者じゃないと出来ない。そうだなぁ、魔導師のなかの1%の人くらいしか使えないんじゃないかな?いくらおバカさんでもこれで実力差はわかるよね。
「は!?」
「んだよこれ!!」
いっけない、うっかり男共の足まで凍らせちゃった☆まあ仕方ないよね。
「これに懲りたらもうやめなよ?ロリコン誘拐犯さん」
女の子の手を引いて表通りまで出ていく。女の子は何も言わずに着いてきた。
「ここまで来ればいいかな。大丈夫?怪我とかしてない?」
人通りの多い所に出てから振り返って女の子に聞く。すると丁寧にお辞儀をした。
「先程は助けていただきありがとうございます」
「いえいえ、困ってる女の子を助けるのは当然ですから」
「貴女も女性でしょう?」
「私は他の子はより強いので」
そう言って力こぶ(全然ないけど)を作って見せると可笑しそうに笑った。
「一人でまわってたの?」
気になったから聞いてみた。この子よく見ると着てる服は結構良い生地使ってるし長い髪もよく手入れされてるし何より美少女だし…もしかして貴族かな?でも貴族のご令嬢が一人で出歩くかなぁ?
「いいえ。最初は家の者とまわってましたけどこっそり抜け出してきましたの」
ふふっと笑いながら答える。絶対貴族だなこの子。
「そっか。じゃあ早く合流しないと心配してるだろうね」
「大丈夫ですわ。それに、せっかく抜け出したのに戻ってしまったらつまらないじゃないですか」
いたずらっ子のように笑いながら言う。
「また絡まれたらどうするの?」
「そうですわね………宜しければ一緒にまわりませんか?」
「へ?」
「貴女も一人のようですし、そうしましょう!」
「なんでそうなるの!?」
「ダメですか?」
目をうるうるさせながらじっと見てくる。くっ…あざといなこいつ。しかも似合ってるからまた………
「わかったよ!じゃあ一緒にまわろ」
「はい!あ、まだ名乗っていませんでしたね。私は…そうですわね、フィーと呼んでくださいな」
うん、それ偽名だよね。もしくは愛称。まあいっか。
「私はルーチェ。よろしくね」
こうして私はお転婆そうなご令嬢のフィーと祭りをまわることになった。