【099】忍者対決!
ツクヨミはやる気まんまん。スズネちゃんもやる気まんまん。レインはイケイケゴーゴーだし、センは興味なさそうに尻尾の手入れをしている。
二人の戦いを止める人はいないようである。
忍者がどんだけ凄いのかは知らないけど、普通に考えて【LG】と人間が生身で戦えるわけもない。
仕方ない、俺が止めるしかないか……。
そう思って、俺が二人を注意しようとしたら、二人の姿がかっ消えて戦いは既に開始していた。
え? ツクヨミはわかるけど、スズネちゃんも消えたんだけど……。
「キンキンキン、バシュッ、ドーン!」
俺の後ろで効果音が鳴った。
「なに言ってんの?」
「あなた二人の動きが見えてないでしょ? だから効果音で状況を教えてあげたのよ」
「いやいや、嘘付け! ドーンしたらさすがにわかるわ!」
「ヴァ、ヴァンパイアの私にはそのぐらい見えてるのよ! 夜になったら私だって凄いのよ!」
いや、夜のレインは知らないけど、今は見えてないよね? というか俺はいつまでレインをおぶってれば良いんだ?
なんか長くなりそうだし、もう降ろしちゃおうかなって考えていたら、スズネちゃんが膝をついて姿を現した。
「くっ、強い!」
そりゃそうでしょ。ウシドーンと戦って無傷だった子だよ? 次元の彼方へ飛ばされて、空間割って帰ってくる子だよ? 生身じゃ無理だって。
「こうなったら!」
スズネちゃんがなにやら複雑に印を結ぶと叫んだ。
「分身の術!」
スズネちゃんが声を発すると、その姿が三人に増える。
おお、どうなってんのそれ!
忍者の術ってまじ原理が不明なんだけど……でもカッコ良いんだよな。
そんな格好良い技使うと……。
ツクヨミがキキーッと砂埃を上げて姿を現わす。
そして、分身したスズネちゃんをキラキラした目で見ていた。
……ほらぁ、触発されちゃう。
「三人相手に戦えますか!」
三人のスズネちゃんが、一斉にツクヨミへ向かって攻撃を仕掛ける。
その攻撃に対して、ツクヨミは【胡蝶】を抜いた。
おいおいおいおい! 人間相手に斬れ味S+の武器を使うな!
「ちょ、ツクヨ―――」
俺が言うよりも早く、ツクヨミはボソリと、しかもわざわざ聞こえる音量で声を発した。
「卍解!」
ツクヨミの周囲に風が巻き起こり、【胡蝶】の形状が複数の刀へと変化する。
ダメ! かけ声も形状もダメ! アウト!
「くらえ、千本桜―――」
「アウトーーーー!!」
さすがに俺が叫ぶと、ツクヨミはムッとした顔を向けてスズネちゃんの攻撃を躱して距離をとった。
「ブル、なんで止める?」
「カッコ良いのはわかるけど、その技は色々危ないからやめなさい。せめて分身の術で対抗しなさい!」
「……わかった」
そう言うとツクヨミは、手でぐちゃぐちゃと適当に印を結ぶ。
「影分身の術!」
なにもわかってねー。
ボボボンッとツクヨミが十人に増えた。
呆れちゃうけど、ツクヨミが十人ってなんだか俺的にテンション上がる。
いやいや、そんな事考えてる場合じゃない。
スズネちゃんが危なそうなら、ツクヨミをカードに戻してでも止めなくちゃいけない。
しかし、俺の心配を他所に、勝敗は危なげなく付いてしまった。
三対十じゃさすがに分が悪かったのか、スズネちゃんの分身はあっさりやられてしまったのである。
「ま、参りました」
スズネちゃんが悔しそうに降参すると、ツクヨミは十人のまま俺に寄って来て言った。
「「「「「ブル、凄い?」」」」」
ぐあっ、なんだこれ。一斉に喋るから音がサラウンドで聞こえてきてヤバイ。
「「「「「ねえ、凄い?」」」」」
「だあっ、凄いよ! カッコ良かったから一人に戻ろうね」
俺が言うと九人のツクヨミは、ボボボンッと消えていった。
ふふんっと鼻を鳴らしたツクヨミはとても満足そうである。
「まさか、スズネが負けるなんて! その子本物だって言うの!?」
いや、驚いてるところ悪いけど、ツクヨミは本物じゃないよ。インチキ忍者だからね。
「それほどの忍者を従えているなんて……ブル・ドッグ! あなた一体何者よ!」
レインが俺の頭をポカポカ叩いて声を上げた。
いや、ツクヨミが凄いわけであって、俺が何者とか関係ないからね。あと、頭を叩くのやめてください。
お読みくださりありがとうございます。
あらすじにとんでもない大嘘が書かれていたので直しました。
前:拳で無双する俺の物語が今始まる。
改:拳で無双する俺の物語が今、始まらない。
いや、違うんです。書き出した頃は無双しまくる予定だったんです。でも、始まらなかったの!




