【098】実は居るんです
入学についての説明を受けて、学園の決まりについての分厚い冊子……つーかこれはもう本だね。その本を渡された後は、お好きにどうぞって感じで解散になった。
お金を払った後は、対応が雑になった気がする。
うん、たぶん気のせいだろう。
ともあれ俺はここ、クローノソッシキ学園に無事入学することとなった。
通称クロシキ学園って呼ばれてるらしいけど、なんかおかしな名前である。
そして、明日から学園に通える事になったわけだけど……。
「なんで俺はまたレインをおぶってるんだよ」
「気安く呼ばないでくれる? 私を誰だと思ってるのよ!」
「高貴なヴァンパイアのお嬢様だろ」
「わかっているなら、ちゃんと敬称を付けなさいよね! レイン様、レインお嬢様、それかご主人様でいいわよ」
「ご主人様かー。そういうプレイも嫌いじゃないけど、うーん、考えておくよ」
「なんの話よ! そう呼べって言ってるだけよ!」
「いいけど、あんまりツンケンしてると友達できないよ?」
「な、なな!」
俺がそう言うと、レインが背中でプルプル震え始めた。
「私が一声かければ、そこらの有象無象が蟻のように集ってくるわよ!」
いや、有象無象は友達じゃないだろ。つか、ムキになってるってことは自分でわかってるんだと思うけどな。
それに、気心知れない相手と一緒にいても楽しくないだろうに。それなら一人でいた方がよっぽどましだ。
あ、そういえば寝坊したとはいえ、レインはどうして従者を連れていないのだろう? 高貴な身の上なら、一人で出歩くなんて危ないと思うけど。
「そういえばさ、レインは従者を連れてないよね? 一人で行動してて大丈夫なの?」
「だからあなたは……もういいわ。従者ならちゃんと付いて来てるわよ」
え? どこに?
俺は周囲をぐるりと見渡した。
「誰も居ないけど?」
「いるわよ。スズネ!」
レインが呼ぶと校舎の壁がパラリと捲れて、黒い忍装束を着た女の子が現れた。
綺麗な黒髪をポニーテールにした幼い顔付きの少女だ。
スズネと呼ばれた少女は、レインの元までやってくると、膝を付いて頭を垂れる。
「彼女が私の従者、コウガの忍、スズネよ」
「忍者かぁ。そう来たかぁ」
「どう? 凄いでしょう? この子はあなたの連れている、格好だけの従者とは違う本物の忍者よ」
「へー、凄いね!」
なんか街の人の反応で知ってたけど、居るんだね忍者! しかもツクヨミみたくインチキしないで、忍べるんだ。
俺は素直に感心した。
すると、俺の袖をちょいちょい引っ張る子が一人。もちろんツクヨミさんなんだけど。
この子は直ぐに触発されるんだから。
「どうしたの?」
「見てて」
ツクヨミはそう言うと壁へ向かって歩き出し、壁に背を付けるとバッと両手を上げた。
ツクヨミが両手を上げると、下から捲れるように壁と同じ色の衣が現れ、ツクヨミは溶けるように壁と同化する。
おお、凄い!
壁と見分けが付かない。
俺がむむむ、と唸って壁を凝視していると、またもやちょいちょいと袖を引かれた。
振り返るとそこには、またツクヨミが居た。
え? なんで?
「凄い?」
うん、めっちゃ凄い。どうやって移動したんだろう? まあ、どうせ空間を渡ったとかそんな感じなんだろうけど……やっぱインチキは良くないと思うな。
「な、な、なんで後ろから!」
俺よりも驚いたのはレインだった。あとスズネも目を見開いて驚いた表情をしている。
「忍者ならこのくらいできる」
うわぁ、ツクヨミがめっちゃ得意顔なんだけど。
「あなたは何処の里の者ですか!」
おおぅ、無口そうなスズネちゃんが大っきい声を上げた。なんか、忍者の琴線に触れたのかな?
「イガ。イガのツクヨミ」
おいおい、甲賀って聞いたからって、伊賀があるとは限らないだろう。まったく、適当なことを言って……。
「イガ? イガでツクヨミなどという名は聞いたことがありません」
あるんかーい!
「わたしは、抜け忍。イガにも狙われている」
「抜け忍! 里を裏切って、無事でいられる筈がありません!」
「そう、普通なら。だけど、私は強過ぎた」
ツクヨミがゴゴゴと効果音が鳴りそう雰囲気を出し始める。
そして、口元をニヤリと歪ませて言った。
「だから、敗北を知りたい」
ツクヨミの設定盛り盛りな挑発を受けて、スズネがピクリと反応した。
そして、スズネはレインへ深々と頭を下げると言った。
「レインお嬢様。どうかこの者と手合わせする許可を頂きたい!」
「いいわ! あなたの力を見せつけてあげなさい、スズネ!」
「ハッ! 有り難く!」
そうしてスズネは立ち上がると、ツクヨミへ向かって忍者刀を抜いて構えた。
「私、コウガスズネがあなたに敗北を贈りましょう」
えー、まじでやるの? 忍者対決? 急展開過ぎじゃね?
読んでくださりありがとうございます。
カードバトルをしないで、忍者バトルへ突入するこの作品。いったい何処へ向かっているのだろうか……。
まあ、知らんけどね。




