【095】イーヴィルさん家のレインちゃん
うぬぅ、辛い。
レインと名乗ったヴァンパイアらしい女の子を背負って、学園までの坂道を登っていた俺だったが、既に限界を迎えていた。
この世界にやって来てから、結構アウトドアな生活をしていたから、足腰もそれなりに鍛えられて来たと思っていたけど甘かった。
そもそも、この体が軟弱なのであった。
センがこっそりとバフをかけてくれてなければ、表情に出るぐらい息切れしていただろう。
悪い狐はたまに気が利くからタチが悪い。
そういえば、エディナと出会った時に、見栄を張って大荷物を運んだことがあった。良いところを見せたくて張り切ったんだけど、直ぐに呆れ顔をさせちゃったっけ。
そんなに昔の事じゃないけど、なんだか感慨深い思い出として浮かんでくる。
エディナは今頃何をしてるのだろう……くすん。
あああああ、だめだだめだ!
エディナの事を考えると胸にグサッとくる!
それよりもスケベな事に意識を集中するんだ!
背中に当たる小ぶりな二つの感触。
手に当たるお尻の感触もグッドだ。
まあ、エディナの究極のお尻と比べてしまうと、物足りない気もするが、そもそも俺はエディナのお尻に触ってないから比べられない。
ああ、エディナのお尻が恋しい……。
だあああ! くっそ、なんでエディナと繋げて考えるんだ俺は!
「ちょっと、なに一人で身悶えてるのよ! 気持ち悪いわね!」
うん、なんかちょっと落ち着いた。
今の俺にはそのぐらい強く言ってくれた方が良いのかも。
「ところで、なんで俺はイーヴィルさんを背負ってるのかな?」
「あなたが私との舌戦に敗北したからでしょう」
そんな戦いしてねえよ! 女の子と密着する機会を与えられて、まんまとのせられただけですぅ!
「わざと俺にぶつかろうとして来た事情とかを聞きたいんだけど?」
「そんなの、寝坊の言い訳に使いたかったからに決まってるじゃない」
「いや、もう昼過ぎだけど? どんだけ大寝坊してるんだよ」
「仕方ないでしょう! ヴァンパイアはもともと夜行性なんだから! 朝は弱いのよ!」
おお、意外にも説得力のある理由だった。
「日光にも弱い事になってるから、登校中にフラついてた私にあんたがぶつかって介抱されていた。そして、おぶられながら登校する事によって、その信憑性が増すのよ!」
こいつ、ただの面倒臭い子かと思ったが、ちゃんと考えてやがる!
言い訳のスペシャリストだ!
「遅刻し過ぎると、強制的に寮住まいにさせられちゃうんだから、あなたも口裏合わせなさいよね!」
「えー、別に良いけど……」
「なによ、文句あるわけ?」
「文句はないけど、面倒臭いなって。言い訳するなら勝手にやってくれよ」
俺がそう言うと、レインは何かに納得したのか、ふーんと声を鳴らした。
「あなた、私の家名を聞いて随分と落ち着いているわね。従者も二人連れてるって事は、それなりの家なのかしら?」
「別に、イーヴィル家と比べたら、うちなんてただの庶民と変わらないよ」
別に間違ってないと思う。ぶっちゃっけ、イーヴィル家もドッグ家も俺にとっては世間的にどのくらいの格付けなのかわからない。
だからそれっぽくお茶を濁しているというのに……。
「……そうかしら? 学生にしては高そうな服を着ているし、育ちは良さそうに見えるけど。あなた、名前は?」
「え? ブル、ブル・ドッグだけど?」
「ふーん意外と可愛い名前ね。でも、ドッグ家なんて聞いた事もないわ」
ええ、逆に有名でも困っちゃうんで、知らなくて良いです。俺自身も知らないしね。
つか、可愛いって、エディナにもそんな事を言われた記憶がある。
グハッ、また発作が!
「取り敢えず、私の言い訳に付き合っていれば、あなたのサボリにも言い訳が立つんだから、丁度良かったわね」
……ああ、俺の事を学生って言っていたからそうかなって思ってたけど、レインはどうやら勘違いをしているらしい。
俺はまだ学園の生徒じゃないんですが……。
レインの馴れ馴れしい態度は、同じ遅刻者としての仲間意識から来ていたようだった。
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はぁはぁ、もう出てこない……。




