【092】運命の分岐路
「アウナス? どういう事ですかお姉様! この者はいったい? 警備の者たちは何をしているのです!」
アウナス様の突然の登場により、アルアが声を荒げた。
「アルア落ち着きなさい。それと失礼ですよ! この方は神、アウナス様です」
そう言って私が膝をついて頭を下げると、アルアは驚きに顔を歪ませる。
私の態度に満足したのか、アウナス様は鼻を鳴らして満足そうに胸を反らした。
「ぺたんこの言う通りだ。我こそが、委員会の代表にしてカードの創造主、アウナスである!」
自分だってぺたんこのくせに……そう思わなくもないが、私はブルみたいに神様に向かって軽口は叩けない。改めて思うけど、ブルの精神構造はどうなっているのだろう。
神様に向かってロリさまって……ぷっ、でも言い得て妙だ。
「ロリ神、何用ですか? お呼びではないのでとっとと帰りなさい」
ちょ、ティターニア! アウナス様に向かって何て事言うの!
私が立ち上がり、ティターニアを注意しようとしたら、ロリさま……じゃなくてアウナス様は手を挙げてそれを制した。
「何やらおも……重要な話をしていると聞いてな。助言をしてやろうと思って来たのだ」
今面白そうって言おうとしなかった? というか、どこでそんな話を聞き付けたのだろう。まあ、神様のやる事なんて私にはわからないけども。
「あなたの助言など必要ありません。お引き取りを」
「全く、あのクソ犬が作ったカードは、本当に態度が悪いな。お主は主役ではないのだ。黙って突っ立っていろ」
ティターニアの額にビキッと青筋が立った。
あ、まずい!
私は慌ててティターニアをなだめる。
「ティターニア! 落ち着いて! とりあえず話を聞きましょう」
私が止めに入ると、今にも手を掲げて何かしようとしたティターニアがグッと堪える。いや、ほんと神様に攻撃するとかやめてよね。
「あなたが、神アウナスだという証拠でもあるのですか?」
今度はアルアだ。
もうホントやめて! 神様に突っかからないで! 確かにこの見た目で神様だって言っても素直に納得出来ないのもわかるけど!
私も直ぐには納得出来なかったし。
「いいから! 納得しなくてもいいからアルアは黙って! ティターニアも大人しくする! 良いわね!」
私が強く言うと、二人は肩を竦めて大人しくなった。
「……それで、アウナス様のご助言とは?」
「うむ。単純な話、私にはこれから起こる未来が多少なりとも見えているのだ。その分岐点にぺたんこがいるようだったからな。親切心で教えに来てやった」
「分岐点ですか?」
「そうだ。ぺたんこには、二つの未来が用意されている。今すぐ家に帰って立て直しに協力するか、それともクソ犬と添い遂げるかの二つだ」
別に改めて言われなくても、その未来は想像出来る。だから、その内容には続きがある。そう思って私がアウナス様の言葉を待つと、アウナス様は嬉しそうに話の続きを語り始めた。
「家に帰る方だが、今すぐに戻らねば大変な事になる。とは言ってもクソ犬と添い遂げるお前には関係のない話ではあるがな」
「た、大変な事とは?」
「ぺたんこの実家が没落し、お前の両親とそこの妹は結果として処刑される事になるのだ」
「なっ!」
アウナス様の言葉にアルアは声を上げた。
何か言いたそうにしていたけど、私がそれを遮った。
「ダンジョンの管理を外されるだけで、どうしてそのような事になるのですか?」
「さてな。いらぬ恨みでも買っていたのだろう。権威を失ったモンテフェギア家に追い打ちをかけようとする輩がおるようだな。だが、安心しろ。クソ犬とそこの【LG】がいれば、ぺたんこが実害を被ることはない」
何を安心しろというのだろうか? 家を出たとはいえ、私は別に家族が嫌いなわけではない。ただ、堅苦しく権威にすがるその在り方が好きになれないだけなのだ。
ダンジョンの管理から外れて、慎ましい生活をすれば少しは考え方も変わるかと思ったけど、命を落とすとなると話は変わってくる。
「たった一つの選択が左右する、大きな分岐点だ。運命はお前に問うている。今すぐに家に帰って家族を救うか、それともクソ犬の想いに応えて己の幸福を満たすか?」
「それならば今すぐ戻ります。ピクシー、ブルに事情を説明しに行って来てくれる?」
「待て、そうじゃない。お前が問われているのは、家を選ぶかクソ犬との関係を選ぶかの二択だ。事情を説明した時点で、お前の運命はクソ犬の方へと傾く。家族は救われない」
「私が家を選んだら、ブルとの縁はなくなるってことでしょうか?」
「さてな。そこから先の未来は未だ定まっていない。少なくとも、お前の裏切りがクソ犬を深く傷付ける事は確かではあるが」
「……それなら、私は家族を選びます。ブルには後でたくさん謝る事になると思うけど」
「再会した時、クソ犬の隣にお前の席があるとは思わない方が良いぞ?」
「はい。でも、良いんです。その話を聞いてしまって彼を選んでしまったら。家族を見殺しにしてでも自分の幸せを考えるような女なら。それはきっと彼が言ってくれた、嫌いなところが何一つない私じゃ無くなってしまうから」
私の答えに、アウナス様は満足そうに頷いた。
……ブル、ごめなさい。私は家族を助ける為に戻ります。折角気持ちを伝えてくれたのに、私にたくさんのものくれたのに、裏切るような事をしてしまって。
この件が終わったら、ちゃんと謝りに行くから。
だから……本当にごめなさい。
読んでくださり、ありがとうございます。
これにてエディナ編は終了です。
終わらしても良いかなと思ったけど、次回からは何故か学園編に突入します。
日々適当に書いてるけど、一応形にはなったかな? 拳で無双してないですどー!
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