【009】ツンとデレとは
「……うそ。なにをしたの?」
俺のカッコ良いポーズを後ろで眺めながら、エディナが言った。
良いんだぜ。惚れてしまっても。俺もぺたんこエルフは嫌いじゃない。寧ろ大好物まである。
「ばい菌! なにをしたのよ!」
ええい! ばい菌はやめろ! 傷付くじゃないか! 俺にはちゃんと……あれ? 俺の名前はなんて言うんだ? しまった。そういえば俺は自分の名前を知らなかったんだった。生前の名前も何故だか靄がかかったように思い出せない。
むむ。それじゃあ仕方ない。後でカッコ良い名前を考えるまで、ばい菌のままでいいだろう。
「こ、小僧。……いや、バイキンと言ったか。今のはなんだ?」
やめろ! お前はその名前を定着させるな!
「観念なさい! あなたの切り札は敗れたわ! そして二体一で勝てるかしら?」
待てエディナ、その前に俺の名前を……。
「くっ、やむをえん。貴様のことは覚えておくぞ、バイキン!」
男は一枚のカードを取り出して叫んだ。
「【煙幕】!」
「「あっ! ちょ、待て!」」
周囲を煙が覆い視界を遮ると、男は音もなく姿を消した。
なんてこった! アイツ俺の名前を勘違いして覚えていきやがった。
このままじゃ……このまじゃあ……よく考えたら、何も起きんな。
……ま、いっか。二度と会わないだろうし。
必死に否定しようとしていたが、あんなモブキャラ実にどうでもいい。
俺はへんなモブキャラのことは、すっぱり忘れ去ることにした。
そんなことよりも、だ。
俺はエディナに舐めるような視線を送った。
金色の長い髪。透き通る緑色の瞳。整った顔立ちとピンと尖った耳。森をイメージした緑色の薄手のシャツと、艶かしい太ももを覗かせているホットパンツ。
ハイソックスのような長いブーツが、長くしなやかな足に絶対領域を作り出している。
うむ。百点満点だ。
正に理想のエルフだ。寧ろ好きだ。愛してるまである。
「ていうか気持ち悪いから、あんまり見ないでくれる」
クゥーール! ツンデレまで搭載してるとかどうなってんの? 俺を萌え殺す気? 気持ち悪いとかそんななじるような台詞を言われたらさ……。
……普通に傷付くわ! 全然嬉しくないし、逆に落ち込むわ。なんなの? ツンデレのツンとかいらなくね? どうして罵られて喜べる奴がいんの?
俺が若干落ち込んでいると、エディナがその綺麗な髪をかきあげて言った。
「で、でもまあ、取り敢えず助かったわ。あんたがいなかったら、やばかったと思う」
エディナが俺から目をそらして、ちょこっと頰を染める。
その姿に俺の心臓は跳ね上がる。
うお。やばい、まじ可愛い。
これがデレの破壊力か。先程まで沈んだ気持ちだったのに、速攻でテンション上がった。
そこでハッと気がつく。
ギャップ萌え。
つまりはこれがツンデレの真骨頂ということだ。すまん。ツンがいらないと言ったな。アレは嘘だ!
デレがあってはじめてツンデレは完成する。
異世界に転生して、俺は初めてツンデレの素晴らしさというものを知ったのだった。
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