【087】真面目になる時だってある
緊張する。緊張する。緊張する。あー、緊張するー!
プレゼントを買った俺は翌日の朝、さっそくエディナへ手渡す事を決意した。
こういうのは勢いが大事で、時間が経過すればするほど渡し難くなってしまう。
だからもう、翌日に速攻で渡して想いを告げる事にしたのだ。
幸いにも告白は一度している。だから、言葉にし難いってこともないけど、何故だかめっちゃ緊張するのだ。
普段の冷静沈着な俺は何処へ行ってしまったのか?
命がかかっていても、ボケた事を考えているというのに、何故か告白……もう、プロポーズか。とにかくプロポーズは、凄く気持ちを不安定にさせる。
髪型は?
うむ、バッチリ決まってる。
服装は?
うむ、皺一つ無い新品だ。
プレゼントは?
うむ、ちゃんと懐にしまってある。昨日、【破壊】も込めて、梱包し直した。
取り敢えず落ち着こうと、目の前に置かれたティーカップを手に取って口を付ける。
ズズズ、あちぃ!
そして苦い。あー、お砂糖入れるの忘れた。
こんなんで大丈夫か? と思わなくもないが、間も無くエディナがここへやって来る。
俺は深呼吸をして周囲を見渡した。
オープンテラスのカフェには、まだ早い時間帯だからか、仕事前の闘士や商人らしき男しか見当たらない。
昼も過ぎると若者たちで賑わうこの店も、朝はこんな感じだ。
ここは、最近行きつけの店となった、ちょっとオシャレなカフェ。その名もスタンバッカス。
全くこの世界はふざけた名前の物が多い。
スタンバッカスってなんだよ。バッカスが気絶でもしたのか? 気絶して頭上に星が舞って……おお、スターバッカス! おしいな!
つか、絶対俺が知ってるやつは、星とは関係無いと思う。
くだらないことを考えていたら、コツコツと足音を響かせて俺に近付いて来る人影があった。
ドキッとして、俺は恐る恐るそちらに目を向けると……天使がいた。
あ、うん。エディナね、エディナ。
あんまりにも可愛いから、天使に見えてしまったぜ、失敬。
エディナは俺の前までやって来ると、椅子を引いて腰を下ろし店員さんにコーヒーを一つ注文した。
「……どうしたの、こんな朝早くに? 三日間はだらだらするって言ってなかった?」
ええ、言ってましたとも。でもって、二日間もだらだらした結果、プロポーズすることにしたんですはい。
取り敢えず俺はギクシャクしないように気を付けながら、当たり障りのない会話を暫くした。
だが、内心が上の空となっている俺の様子など、エディナには簡単にわかってしまう。つーか、俺はどうも思っていることが顔に出てしまうらしい。
「……ブルがなんで私を呼んだのか、わかっちゃった気がする」
情けない話だが、話題を振る前にエディナに言われてしまった。
……くっ、こうなってしまっては濁してばかりもいられまい。
俺は覚悟を決める。
スッと懐から梱包されたネックレスを取り出し、出来る限り真剣な顔をしてエディナの瞳を見つめる。
「エディナ、なあなあにしたくないから、正式に申し込む事にしたんだ。俺と結婚を前提に付き合って欲しい。夕方の六時に時計塔で待ってるから、答えを聞かせて欲しい」
俺にしては、ちゃんと言えたと思う。
俺の真剣な眼差しを受けて、エディナの頰がちょっと赤くなった気がした。
「……私もちゃんと答えを出さなきゃって思ってたの……一つ聞かせて」
俺が頷くとエディナは続けた。
「私のなにが良いの? 私、ブルには貰ってばかりで何も返せていないわ」
「……なにがって」
お尻とか? って俺の馬鹿! 今はまじでふざけて良い場面じゃない!
俺は真剣に考える。エディナの何が良いのか?
可愛いから? エルフだから?
たぶん、それは全部正しいのだろう。
他にも色々あるけれど、そういう事じゃなくて好きな理由はもっとシンプルだ。
「嫌いなところが何一つなかったから。この世界で意識を取り戻して、最初に出会って、最初に好きになったのがエディナだったんだ。他の子と出会ってたら、もしかしたらその子を好きになってたかもしれない。けど、そんなもしもじゃなくて、俺はエディナを好きになった。それだけなんだ」
俺の言葉にエディナが赤面すると、ガタッと席を立った。
俺に顔を見せないように背を向けると、エディナは小さな声で言った。
「六時に時計塔ね。それまでに、ちゃんと答えを出すわ」
そう言うとエディナは振り返らずに、俺の前から去って行った。
……ああ、めちゃくちゃ胃が痛い。
読んでくださりありがとうございます。
スタンバッカスはちと強引だった気もする。疾風ドトールとかにすればよかった。
……うん。それも酷かったわ。
ポテサクは個人的にヒットしたんだけどなぁ……




