【086】これに決めた
「うーむ、これが良いけど、ちょっと高いなぁ」
そう呟いてみたけどちょっとどころではない。めちゃくちゃ高い。これ一つで豪邸が三つは建つ値段である。
多少値引きされたぐらいじゃ、勿論手なんか出ないわけだ。
けど、そう言ってみたのは、考えがあってのことではない。ただの見栄である。
「名のある貴族の方や王族でもない限り、こちらを購入されることはないでしょう」
支店長がしれっとそんな事を言う。
じゃあ、なんで置いてるのさ! なんて俺の心の声が届いているのか、支店長は直ぐに回答をくれた。
うむ、たぶんまた顔に出ていたのだろう。
「通常は、宝石が一つの物をお選びくださいます」
そう言って支店長が指した場所には、同じようなネックレスが三つ並べられていた。
俺の見入っていた方と比べると、もっとシンプルなデザインで、宝石が中央に一つ嵌め込まれているだけのもである。
お値段は……【50000000】イェン。
うむ、随分お手頃な金額になっている。
……いや待て。
感覚がおかしい。五千万がお手頃という事は決してないだろう。ただ、五億の商品を見せられてからだと随分と安く感じてしまうのだ。
……なるほど。五億の商品はこっちを買わせる為に飾られているのか! 汚い! 大人汚い!
しかし、このシンプルなデザインと宝石の色合いはエディナにきっと似合う。
これに俺の【破壊】を込めて贈れば、特別な贈り物としては最適ではないだろうか?
うーむ。
決めた。これを買おう。
悩んだって仕方ない。
男には決断力が必要なのである。エディナのリングサイズを知らないから、選択の余地がないわけじゃ決してない。
というか、今買って直ぐにプレゼントしないと、決意が鈍ってしまって告白なんて出来なくなってしまう気がした。
俺は緑色の宝石が嵌め込まれたネックレスを指差して、ピッとカードを支店長へと差し出した。
「買い上げありがとうございます」
さーて、プレゼントも買ったし、帰ろっかなー。
若干浮き足立った俺は、ルンルン気分で食品売り場に居るはずのツクヨミとセンを探していた。
ところがポーセージコーナーにも、うーめんコーナーにも二人の姿は見当たらない。
何処へ行ったのだろう?
二人を探してキョロキョロしていると、パリパリサクサクという音が耳に入った。
なんの音だろう?
そう思って音のする方へ足を向けると、試食コーナーに二人の姿はあった。
見ればなんだか知らないけど、お姉さんが一生懸命揚げている何かを出来た直後からちょいっと手を出し、口へと運んでいる。
あのさあ、試食品はそんなにバクバク食べるもんじゃないんですけど。
呆れ顔をしながら二人に近付くと、俺に気が付いたツクヨミが手に持った揚げ物を俺に差し出して来た。
食べ物を俺に渡して来るなんて珍しいな。そう思ってそれを受け取る。
受け取ったそれは、どうやら芋を薄く切って揚げたものみたいだ。食べてみると、程よい塩気とパリッとした食感でなかなか美味い。
つーかこれ、ポテトチップスじゃん。
試食品コーナーの看板を見てみると『サクッとした新食感! ポテサク!』と書かれていた。
随分と間抜けな名前になってしまったが、間違いなくポテチなんだろうな。
「ブル、ポテサクうまい」
うん、ポテチは美味いよね。でも、試食品を食べ過ぎちゃダメだぞ。
お姉さんが泣きそうな顔をしていたので、俺は仕方なくポテサクを大量に購入することになった。保存出来るか心配だったが、その点はツクヨミが問題無いと言ったのでまあ、大丈夫だろう。
つーか、金貨三枚も渡したんだから、ポテサクも買えただろうに。そう思って二人に聞くと、二人はどうやらビッグポーセージとお稲荷さんもどきに金貨三枚を全て使ってしまったらしかった。
どんなだけ好きなんだよ!
読んでくださり、ありがとうございます。
オリーブオイルがあまりまくったので、適当にパンにかけて、ニンニクとバターもかけて焼いたらクッソ美味かった。
クッソデブになりそうだけど、美味いから別に問題無いね!




