【080】決闘開始
うっぷ。急に上がって下がったから気持ち悪い。
エディナも青い顔をして膝が震えているけど、俺より平気そうだ。たぶん、ティターニアの前だから強がってるだけだと思うけど。
それよりも。
俺は広場の中央で腕を組んで立っている赤髪の男へ視線を向けた。
周囲に集まった野次馬たちと違い、男は落ち着いた様子で静かに佇んでいる。
一見すれば顔立ちの整った好青年なのだろうが、この男はエディナを遅刻させようとあの手この手を使ってきた汚い男である。
だが、俺たちの能力―――主に【LG】たちの実力を侮ったな。不戦勝を狙っていたのだろうが、少し遅れたもののエディナはしっかりと間に合っている。
「もうブルー、置いてかないでよー」
後からやって来た、ツクヨミとセン。
ツクヨミは相変わらず眠そうにしてるけど、センは勢いよく俺に飛びついて来た。
くっ、この狐め! 叱ろうと思ってたのに、またそうやっておっぱいを押し付けてくる!
これじゃあ、怒りが湧いてこないじゃないか!
「色々と小細工してくれたわね!」
俺の意識がセンのおっぱいに集中していると、エディナと赤髪の男の決闘は既に始まっていた。
「遅れておいてその言い草はないんじゃないかな?」
「―――! あなたがっ!」
言い掛けてエディナは口を閉ざす。
そう。言ったところで意味はない。証拠は何もないのだから。ただ、俺たちは確信している。心を読んだセンに聞くまでもなく、あのタイミングで色々と起き過ぎた。
絡んで来た連中を締め上げれば、口を割るやつもいただろう。しかし、それをして遅刻をするぐらいなら、さっさと倒して二度と関わらない方が良い。
「勝負方法はルール無用のデスマッチよ。そういえば、あなたの名前を聞いていなかったわね」
「俺の名はグレンだ。ああ、あんたは名乗らなくて良い、エヴァルディア・ユー・カラトナ・モンテフェギア。よく知っているよ……それと」
グレンは懐からカードを取り出して言った。
「ルールは確認するまでもないし、勝負は時間が過ぎた時から開始している! 【召喚】、【ユー・タートル】!」
グレンが叫ぶと毛むくじゃらの亀が召喚された。
俺たちより頭二つ分ぐらい大きい体だが、ウシドーンを見た後だとあんまり驚かない。
立て続けにグレンはカードを取り出す。
「【地形・湖氷】!」
パリパリと音を立てて、地面が氷の床へと変化していき、空気が冷たくなる。
更にカードを取り出し、自分に有利な環境を整えようとする男だが、エディナも黙って見てはいなかった。
「【召喚】【オベロン】!」
エディナが叫ぶと、金色の美しい髪をなびかせて顔立ちの良い男が召喚された。背には六枚の羽、妖精王オベロンである。
オベロンが召喚されると、サポアビの影響で仲間の妖精たちは能力値がかなり上昇する。どのくらい上昇してるのかは、数値が見れないからわからないけど。
しかし、あのティターニアが更に強くなったと考えると、とんでもない効果のような気もしてくる。
グレンはもう一体巨大な狼を召喚すると、毛亀に指示を出した。
グレンの指示に従って毛亀がのそりと動き出すと、その動きが徐々に早くなる。
滑らかな動き……つーか滑ってる! 氷の上を!
いつしかめちゃくちゃな速度になって、毛亀はエディナへと突進していった。
それをティターニアが手をかざしただけで毛亀の軌道を変える。
在らぬ方向へと向かって行ってしまった毛亀だったが、綺麗に弧を描くとそのままUターン。
あ! なるほど!
ユーターンするタートル。だからユー・タートルなわけだね! ちくしょう!
今度はピクシーたちがユー亀の相手を始めた。
ピクシーたちに亀は任せて、エディナはグレンに向かってティターニアを向かわせる。
そして、ティターニアが一歩前に進み出た時だった。
「【罠】発動!」
男が声を上げると、ティターニアの真下に大きな文様が広がった。
それを見て、ティターニアは薄っすらと目を細めたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
電車ナウ、満員電車オウノウ!
これでツイッターもばっちしだぜ。




