【008】一撃必殺!
「なんて酷いことをするの! この悪魔! ばい菌!」
エディナに怒られてしまった。しかもばい菌扱いまでされて。
確かにあのつぶらな瞳を前にして、俺も躊躇しなかったといえば嘘になる。だが、俺は自分の力をどうしても試さなくてはいけなかったのだ。
俺たちのやり取りを呆れ顔をして眺めている狼男を倒すために!
俺は左手で顔を覆い、右手をエディナに向けてシュバッとかざすと、含みを持たせて言った。
「……必要な犠牲だった」
「どこがよ!」
うむ。やはりカッコつけただけでは納得しないか。なら仕方ない。俺の真の実力を見せてやるとしよう。
俺はふぁさあっとマントを翻すと、狼男へと歩み寄った。
「ちょっとばい菌! 死ぬわよ!」
俺のことを貶めたいのか、心配したいのか良くわからない台詞が聞こえてくる。俺はわずかにエディナへと視線を向けると、フッと笑って狼男へ視線を戻した。
なに、意味なんてない。ただやりたかっただけだ。
「おいっ狼男! こちらの準備が整うまで待っているとは、悪役の鑑だな!」
「どちらかというと、ばい菌の方が悪役っぽいけどね」
「お前の漢気に免じて、引くのなら見逃してやるぞ!」
「召喚モンスターは指示がなきゃ動けないんだから、漢気とか関係ないと思うけど」
ああもう! せっかくいい台詞言ってるのに、後ろから聞こえてくるツッコミが鬱陶しい。台無しだよほんと!
俺がエディナへ抗議の視線を送っていると、茂みの一つがガサリと動いた。
みると、小汚いマントを羽織った冒険者風の男が立っていた。
「お前こそだ小僧。先程お前が【白無垢】を持っているのが見えた。それを素直に渡すなら、見逃してやらんこともないぞ」
えー。割と距離あると思うんだけど、あいつめっちゃ目良くね?
というか、俺がモンモンを殴り飛ばしたところは見ていなかったのか?
「あんたなんかに渡すカードなんてないわよ!」
俺の後方からエディナが叫んだ。いや、俺のカードについて勝手に方針を決めるのやめて貰って良いですかね。まあ、俺も渡すつもりは無いんだけども。
「ふっ、ならば仕方ない。無理矢理奪うとしよう。行け! タイガーウルフ!」
男がそう声を発すると、狼男が動き出した。
つーか、タイガーウルフってなんだよ! 虎なの? 狼なの? 見た目は完全にウルフなんですけど! 虎の要素皆無なんだけど!
そうこう考えている内にも、瞬く間に眼前へ迫った狼男の爪が俺に振られる。
俺は息を吐いて心を落ち着ける。恐怖心をでは無い。湧き上がる興奮をである。
よし落ち着いた。行くぞ!
俺は目を見開き狼男に向かって拳を放った。
「どぅりゃあああ! 【破壊】!」
俺の叫びと共に拳が輝く。
なんだこれ! やばい! カッコ良過ぎる!
光を纏った俺の拳に狼男の爪が触れると、触れた先からボロボロと崩れるように霧散して行く。
そして、俺の拳が狼男の胸に突き刺さると、狼男は軽石のように吹き飛びながら、その体を空中に溶かしていった。
振り抜かれた拳の先にはなにも残っておらず、拳を放ったポーズの俺がいるだけだ。
ふっ、強過ぎるぜ俺の拳!
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