【007】右手は突き出すだけ
俺を助けてくれたエルフちゃんの顔に焦りの色が浮かんだ。
俺の顔にも焦りの色が……浮かんでないっ! 何故だ! 逆にこの状況で心が落ち着いてることに焦りを感じるわ!
なんだか、ロリさまとであった場所で意識を戻してから、危機感というか焦りというものを感じなくなっている気がする。
そんな大事なものを置き忘れてくるなんて、俺ってばなんてお茶目さんなのだろう。
ってほらこれだ。
どうにも阿呆な方向に思考が向いてしまう。っていうかまあいっか。これも個性だよ個性。
別に感情そのものがなくなったわけじゃないし、気にするほどのことでもない。
だが、しかし。
心にゆとりがあることは良いことだが、この絶望的な状況でそれだけではどうにもならない。
なら考えるしかない!
よしっ! 考えた!
というか、考えるまでもなくやれる事は決まっていた。
ロリさまは、カードゲームが流行っている世界に転生させると言っていた。そして、そのカードゲームとは正に、目の前で繰り広げられている攻防のことなのだろう。
【火球】、【障壁】どちらも、転生前に俺の脳内を巡って来た魔法カードだ。そして、【召喚】あれが召喚カードと呼ばれるものなのだろう。
カードゲームのルールは未だにわからない。しかし、カードを駆使すれば、色々なことが出来る事は既にわかった。
ならばあとは確認するだけだ。俺に備わったチート能力―――【破壊】を。
全種類のカード効果を一度だけ、一枚だけ破壊し、無効とするカード。それが【破壊】の効果だ。
それを俺はカードを用いずに無制限で使用出来る筈だ。ロリさまはそう言っていた。
だから、俺は確認しなくちゃいけない。
「エルフちゃん! あの狼男は召喚カードで作られたモンスターだよな?」
「エルフちゃんって誰よ! 私にはエヴァルディア・ユー・カラトナ・モンテフェギアって名前があるんだけど!」
「エヴァル……あー、エヴァ! とにかく教えてくれ!」
「勝手に略すな! エヴァルディア・ユー・カラトナ・モンテフェギアよ! 愛称はエディナよ!」
「わかったエディ! それでアイツはーーー」
「エ・ディ・ナ! わざとやってるでしょ! あと見ての通りよ! アレは召喚モンスターに決まってるでしょ!」
「そ、そうか。あと、出来れば何でも良いからもう一回召喚を行なって欲しい」
「はあ? あれに対抗できそうなのなんて持ってないわよ!」
「違うんだ。弱くても何でも良いから出して欲しいんだ。俺に考えがある」
俺のことを疑わしげに見て、エディナは小さく溜め息を吐くと一枚のカードを取り出した。
「【召喚】レッサークマ!」
エディナによって召喚されたのは、人が乗れそうなほどの大きさのクマ……というか見た目はレッサーパンダであった。
つぶらな瞳が愛らしい。
……レッサークマって。この世界のネーミングセンスに脱帽です。
「私の相棒のモンモンよ。可愛いでしょ!」
モンモンって……。確かに可愛いがペット自慢をされても困るのだが。
エディナは自信有り気な表情で、ペタンコな胸を反らした。
この子も大概危機感がないような気もする。人のこと言えないけどね!
それはともかくとして、俺はすぐさまやらなくてはいけない。
モンモンが召喚された直後、俺は動き出していた。
モンモンに向かって!
「ちょ、あんた何する気よ!」
エディナが叫ぶが、気にしている暇はない。モンモンのつぶらな瞳が俺を見て言っている。『どうしたの?』。はああああ、なんて可愛いんだ。今すぐ抱き締めてモフモフしたい。
だがすまん! 俺は心を鬼にしてモンモンに向かって拳を振り上げた。
魔法カードをどうやって使うのかはわからない。ましてやそれが、ロリさまより与えられた特殊な力となれば尚更だ。
しかし、体が教えてくれる。その力は念じれば良いと。ただ、右手を真っ直ぐと突き出せば良いのだと。
「くらえ! 【破壊】!」
無慈悲に繰り出された俺の右ストレートがモンモンに直撃した直後。モンモンは仰け反りながら、光の粒となって消えていった。
「キャー! モンモーン! もーん……もーん…………もーん」
エディナの声が木霊した。
ふ、ふはは! 間違いない。これは最強のチート能力だ。
モンモンに無慈悲な鉄拳を繰り出し、笑い声を漏らしてニヤつく俺の顔は、きっとただの悪党顔だっただろう。
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