【065】ティターニア
ティターニアは宙に浮いたまま、ヒラヒラと舞うワンピースの裾を摘むと小さく膝を折って頭を下げた。
「お初にお目にかかります。我が創造主様」
澄んだ声音が反響するように耳の奥に残った。
「ティターニア、君の主人は誰だ?」
「今はまだ、創造主様のモノでございます」
「俺がエディナの為に君を創った事を理解しているか?」
「委細承知しております」
ティターニアの反応を確認して、俺はエディナへとカードを手渡す。
エディナが恐る恐るティターニアのカードを受け取ると、俺は声を上げる。
「【ティターニア】をエヴァルディア・ユー・カラトナ・モンテフェギアへ【譲渡】する!」
どうだ、俺だってちゃんとエディナのフルネームぐらい言えるんだぜ!
日記にメモって毎日、復唱して覚えたのだ!
おっと、そんな事でドヤってる場合じゃない。
カードには特に変化は起きていないようだが、ちゃんとエディナへ【譲渡】が完了しているのだろうか?
そう思い、俺はティターニアへと視線を向ける。
すると、ティターニアはニコリと美しい笑顔を俺に向けると、エディナの前へと進み出た。
そして、俺に対してしたようにエディナへと頭を下げた。
「エディナ様とお呼びしても宜しいでしょうか?」
ティターニアが澄んだ声で告げると、エディナはおどおどしながら頷いた。
「それではエディナ様、末永く宜しくお願い致します」
「こ、こちらこそ、ティターニア!」
エディナがそう言うと、柔らかい笑顔を浮かべていたティターニアの表情が、スッと能面のように無機質なものへと変わった。
「エディナ様、一つご忠告を申し上げます。わたくしたち【LG】には創造主様より賜った記憶と人格がございます。当然ながら、好きや嫌いといった好みもです」
氷の様な冷めた視線に、エディナはゴクリの生唾を飲み込んだ。
「ええ、ツクヨミちゃんやセンちゃんを見ているから知っているわ」
「であれば、ご注意くださいませ。我々は己の意思で主人を選ぶ事が出来るのです」
……なるほど。
ティターニアの言葉に得心がいった。
言葉を話し、人と同じように物事を考える【LG】。正直、俺もツクヨミやセンに対して、強く命令する事は出来ていない。強制出来る事と言えば、カードの出し入れぐらいなものだ。
もし、彼女たちが俺を裏切ろうとしたのなら、恐らくそれは可能なのだろう。
持ち主が居なければ、彼女たちはカードのままでこの世に存在する事は出来ない。だが、持ち主が居れば良いだけなのなら、彼女たちにとって都合の良い状況は幾らでも作り出せる。
しかし、俺の思考から創り出された彼女たちは、その影響を受けている為、基本的には主人を欲している筈だ。
なぜなら、俺がやっていたゲームはそういう設定だったからだ。
とはいえ、気に入らない主人であれば、裏切ることも見限ることも出来るのだ。
ティターニアはその事を伝えたいのだろう。
「エディナ様、わたくしの好みは強い方です。胸を張り前を見つめる真っ直ぐな方が、わたくしはどうしようもなく好きなのです」
そこまで言われて、エディナはティターニアが何を言いたいのか理解したのだろう。
エディナはコクリと頷くと、大きく深呼吸をして背筋を伸ばした。
顎を引き胸を張ってティターニアを真っ直ぐ見つめる。
「なるほど、素直な方も嫌いではありませんでした」
そう言ってティターニアは冷えた表情を解き、柔らかい笑みを浮かべた。
「ティターニア、お願い。私が魔王になる為に力を貸して」
「畏まりました。エディナ様がその瞳を忘れない限り、わたくしは力をお貸し致します」
「ありがとう。あなたの主人でいられるように頑張るわ」
エディナがグッと拳を握り締めて気合いを入れる。
それを見て、ティターニアはくすりと笑みをこぼした。
読んでいただきまして、ありがとうございます。
ようつべで釣り動画みてたら、釣りがしたくなってきた。
釣りと言ってもスレ立てて煽るやつじゃないよ。フィッシングね。
いや、それもフィッシングか……。
言葉って難しい。




