【064】妖精の女王
男が去って行ったあと、俺はエディナを連れて街から少し離れた森までやって来た。
時間をかけて歩いたお陰か、エディナも少しずつ冷静さを取り戻していった。
「ブル、ごめんなさい。私、混乱していたみたい」
「気にしなくて良いよ。俺の方こそごめんね。勝手にルールを決めちゃった」
「ううん、カードが揃ってない私じゃ、ルール無用のデスマッチしか、受けられなかったわ。ちゃんと十日後を指定していれば、何とか準備できたかもしれないのに……」
「仕方ないよ。多分あいつは、エディナの状況を知った上で決闘を申し込んで来たんだ。浮足立っているところにつけ込んで、エディナの持つカードを奪いに来たんだと思うよ」
そう、決闘に敗北した者はデッキの中から一枚カードを奪われる。ランダムではなく、勝利した者が相手のカードを指定して奪う事が出来るのだ。
つまり、不戦敗をした場合、それだけで登録したデッキの中から一枚カードを指定されて、奪われてしまう可能性がある。
通常であれば、戦ってもいない相手のカードを知る術はない。故に当てずっぽうでカードを指定しても、そのカードを相手がデッキ登録していなければ権利がなくなってしまう為、無効となるのであまり意味はない。
けれど、あの男は知っているのだろう。
エディナが登録しているカードの内容を。
【SSR】【偶然】。これがあの男の狙い。
その情報をどうやって仕入れたのか?
個人の情報網があるのか、はたまたロリ様が何かしたのか。正直そこはわからない。
だが、今はそれを考えても仕方のないことである。
「エディナ、一先ずカードを【実装】しよう」
「ここで?」
「うん。【実装】は俺がやる。ロリ様はきっとそれも見越して【白無垢】のカードをエディナに渡したんだ」
「……でも」
「エディナ。戦う為のカードは俺が作る。けど、実際に決闘をして魔王にならなくちゃいけないのはエディナ自身だ。俺が余計なことを口走った責任もある。だから、【実装】は任せてくれ」
エディナは躊躇いながらも頷いて、俺に【白無垢】のカードを手渡してくれた。
さあ、エディナの今後を担う、重要なカードだ。失敗は許されない。俺の記憶を元に創造すれば、失敗することなんてあり得ないけど。
だから、エディナに相応しい最強のカードを創り上げてやる。
美しき森人エルフに相応しいカードは、既に決まっている。
俺は一発目から銀の【白無垢】を手にして想像を膨らませた。
数多の創作に流用され、そのイメージは容易に出来るほど確立された存在。
美麗なる妖精の女王。麗しき神秘の化身。
その名も。
「こいっ! 【ティターニア】!」
俺が手にした銀の【白無垢】から、雪の様な光が溢れ出る。
そして、そこに現れたのは、七色に輝く羽を持つ妖精。金色の長い髪に海の様に青い瞳。雪の様に白い肌は、神秘そのものだった。
「……きれい」
その姿を目にして、エディナは声を漏らす。
俺も思わず目を奪われたが、それよりもと手元のカードに目を落とす。
こそには。
【LG】【ティターニア】。
美麗な絵と共にそう描かれたカードが手に握られていた。
読んで頂きありがとう御座います。
昨日休んでおいてあれですが、明日もお休みします。
明日、厳密に言えば今日はどう計算しても書く時間が取れない模様。
この作品は書き溜めないので、作者の都合により書けない日がちょくちょく出てくるらしい。
最近気が付いたんだけど!




