【061】事務所の中心でエディナは叫ぶ
朝食を済ませたあと、俺たちは委員会事務所へクエストを受けにやって来ていた。
昨日色々と考えたところ、エディナを魔王にする為にはカードを取り揃えないといけない。その為には一先ず金がいると思ったのだ。
全て【SSR】で取り揃えるとしたら、【白無垢】を買い漁っても最低二億はかかる。まあ、現在魔王の称号を持つ七人もデッキ全てが【SSR】ってわけじゃないみたいだけど、そこはなんというか育成するならレベルを最大まで上げたいゲーム脳が働いてしまうのだ。
そんなこんなで事務所へとやって来た俺たちだったが、事務所へ入るなりざわざわと騒がしくなった。
俺たちの姿を目にして、ある事ない事噂話をしているらしい。
たった一日で随分と有名になったものである。
エディナは若干気まずそうにしているけど、気にしても仕方ない。実際ウシドーンを倒したのは俺たちだし、呼び寄せたのも俺たち、というか俺だけど。
受付の前まで行くと、俺たちを目にした受付嬢が大慌てで後ろに引っ込んだ。
え? なんで?
逃げるのは酷くね?
なんて思ってたら、奥にいたマルマンことヒゲ紳士を呼びに行ってたらしい。
受付嬢はヒゲ紳士を連れて来るとそそくさと奥へ下がった。
やっぱ逃げてね?
「おはようございます。エディナさんに、ブルさん。それと……」
ヒゲ紳士が丁寧な口調で挨拶したあと口ごもった。どうやら、ツクヨミとセンの名前がわからなくて困っているらしい。
「おはようございます。ヒゲ……マルマンさん。この二人は闘士になる予定はないんで、気にしなくていいですよ。あと急にさん付けはやめてください。痒くなりますよ」
「これは失礼。では、今まで通りブル君と呼ばせていただきますね」
ヒゲ紳士は頷きにこやかに笑った。
「クエストを受けに来られたのでしょうが、奥の部屋へお越し頂いてもよろしいでしょうか?」
「昨日話した内容以上の事はもう何もありませんよ?」
「いえ、所長から直接お話があるとのことでして」
俺とエディナは顔を見合わせた。
困惑しながらも俺たちが頷くとマルマンは、俺たちを事務所の奥へと促し、とりあえず素直に従ってついて行くこととなった。
事務所の奥へ入って廊下を進むと、突き当りに部屋があった。
マルマンがノックをすると、中から声が返ってくる。
マルマンが扉を開け、中へ入ると俺たちもそれに続いた。
広めの室内。
その壁際の一面には、ファイルされた書類の束がびっしりと敷き詰められていた。
書類で埋め尽くされた大きな机には、この場に似つかわしくない小さな女の子が偉そうにふんぞり返っていた。
「うむ。よく来たな、ぺたんこエルフ。そしてクソ犬」
うわぁ、このロリ、口悪っ!
「しょ、所長! そんな言い方してはいけません!」
「うるさい、ヒゲ。お前はさっさと下がれ」
理不尽な物言いに苦笑いを浮かべるヒゲ紳士だったが、そう言われると頭を下げて俺たちに一言告げて退出していった。
「口は悪いですが、いい人なんですよ」
そんなことを言っていたが、まあ全く信用できないけどね。
ヒゲ紳士が退出すると、ロリ所長は不遜な態度で言った。
「自己紹介をしておこう。私がこの事務所の所長兼、委員会を取り纏めているアウナだ!」
俺は溜め息を吐いた。
この人、隠す気あるのかな?
この見た目で所長? 委員会を取り纏めてる?
ないない。絶対おかしいって。
というか、初対面で俺の事をクソ犬呼ばわりする相手なんて一人しかいない。ブル・ドッグのドッグは別に犬って意味じゃ無いしね。
「あのさぁ、ロリ様。神様のくせに何やってんの?」
「ロリって言うなっ! クソ犬! これはあくまでも人の世で活動する為の肉体だ!」
いや、だったらもっとグラマーな肉体にすれば良かったじゃん。名前もほぼそのまんまだし、何考えてんの?
勝手に色々察してる俺とは違い、エディナはキョトンとしていた。その様子に気が付いたのか、ロリ様はエディナに向かって言った。
「そこのぺたんこエルフはわかっていないようだな。では、改めて名乗ろう。我が名はアウナス。委員会の代表にしてカードの創造神。アウナスである」
「え? えええええええ!?」
エディナの驚く声が事務所内に響きわたった。
まあ、そりゃそうだよね。
読んで頂きありがとう御座います。
たまには真面目な話を一つ。
やる気が起きないことがよくある。
やる気さえ起こす方法がわかれば、もっと色々なことができるのに……。
そう思った自分は、無理矢理やる気を出す為の方法を探った。愛する者の為に。追い込まれた極限の状況。やる気を出す方法は多くある。しかし、そのどれもが突発的な感情によって、引き出されるやる気であり、任意で扱えるものではなかった。
そして、辿り着いた結論。それは、「嫌々行動を始める」であった。
嫌々でも、行動を開始すると何となくやり始めることが沢山ある。
それでもやりたくないことは、多分本質的に嫌っていることなのだろう。やる気を出すのは無理だ。
つまり、取り敢えず無理矢理にでも始めてみる。これが一番のやる気を出す方法なのだと思った。
ちゃんちゃん。




