【006】クエンバード
「チッ!」
エルフちゃんが舌打ちをして狼男を睨みつけた。別に俺に対して舌打ちをしたわけではないだろう。俺が抱き着いた事と、鎧さんがやられた事とは何の因果関係もないからだ。
「あなたの所為で、私の切り札がやられちゃったじゃない!」
……大いに関係があったようである。というか鎧さんが、エルフちゃんの切り札だということは、熊さんから俺を助けてくれたのもエルフちゃんだったわけである。
つまり、現時点で迷惑しかかけていない俺。
なんかその。本当に申し訳ないです。
「あなた! 何か手札を持ってないの?」
手札? 俺は自分のポケットに手を突っ込んで何かないか探す。すると、ポケットの中に三枚のカードが入っていた。
そのカードは縁が白銀の色をしているだけで何も書かれていない。これがロリさまがくれると言っていた、【白無垢】のカードだろう。
しかし、俺にはこのカードの使い方も意味もわからない。
「……って、ウォウルベアから逃げてた時点で期待出来ないか」
「【白無垢】のカードが三枚あるんだが?」
「そんなもの、この状況で役に立つわけないでしょ! ていうか、そんなモノ人目につくように取り出さないで!」
うーむ、怒られてしまった。【白無垢】のカードは咄嗟に役立つ物ではないらしい。手札というからカードのことだと思ったのだが、違うのだろうか?
【白無垢】のカードは、何にでもなれるトランプでいうところの、ジョーカー的な何かかと思ったのだが違ったようだ。
エルフちゃんが懐から一枚のカードを取り出す。
「【火球】!」
カードを掲げてそう叫ぶと、エルフちゃんの持つカードが発光して、人の頭ぐらいの大きさをした火の球が飛び出した。
その火の球が狼男へと向かっていく。
「【障壁】!」
狼男の後ろの方から声が響き、目に見えない空気の壁が火の球を弾き、狼男を守る。
「くっ、召喚がないと厳しいか……」
そう呟いたエルフちゃんは、再びカードを取り出して叫んだ。
「【召喚】! クエンバード!」
エルフちゃんの手に持ったカードが発光すると、光が集まり生き物の形に変わる。そして、光が霧散するとそこには一匹の生物が現れた。
鳥である。
しかもやたらとデカイ鳥だ。おまけにデブい。
丸々と太っていて、実に美味そ、げふんっ! 重量感がある。
「クエンッ! クエンッ! モゥ! クエンッ!」
なんか変な鳴き声を上げ始めた。
……もう、食えん。
ああなるほど、だからこいつデブなのかな。でも、なんか可愛いかも。
俺がそんなことを考えていると、狼男が動き出しデブ鳥に向かって爪を向けた。
デブ鳥は重そうな身体を捻って、その攻撃を躱そうとするがいかんせんデブだから動きが遅い。
狼男の爪が容易くデブ鳥に突き立てられ、デブ鳥はなす術もなく倒れ伏した。
「……モゥ。ク、クェーン」
間抜けな声を上げると、デブ鳥は光の粒となって霧散する。
弱っ! デブ鳥よっわ!
ザシュリッ。
デブ鳥を瞬殺した狼男が、俺たちの前に歩を進めた。
あれ? これってピンチは終わってないってことか?
読んで頂きありがとう御座います。