【045】屋台を食い尽くせ!
委員会事務所を出るとエディナが溜め息を吐いた。
「どうしたの? 疲れちゃった?」
「まあ、疲れたわね。主に精神的に」
「何で? デッキが出来上がったらFランクにしてもらえる事になったし、換金も出来たし良かったじゃん」
「それが疲れたの。急にランクが上がり過ぎてるわ」
「でも、ランクを上げないと魔王になれないらしいし、上げられるだけ上げちゃえば?」
「ランクが上がっても私の実力がついていかないわ」
ん? 実力? カードを使用するのに実力なんていらないと思うけど? 別に魔力とかそんな感じの力が必要なわけでもないし、レベルとかがあるわけでもない。
要するに、強いカードを持っていた方が勝つんじゃないのか?
「実力って何?」
「何って、カードの扱いが上手くなることよ」
んんん?
俺が疑問符を浮かべると、エディナは説明してくれる。
「召喚モンスターには相性があるの。地形や罠、魔法のカードを組みわせて実力以上の力を引き出す。それが闘士の腕の見せ所なんだから。種類も揃えない内からランクを上げちゃうと、特性も良く分かってないから、決闘で勝てないのよ」
「ああ、定石のことを言ってるの? でもそれって覚えればいいだけでしょ?」
「定石? そんなの学園にでも通わないと誰も教えてくれないわ。自分で戦って自分で覚えていくものでしょう?」
まあ確かに、攻略サイトがないこの世界だとどんなカードがあるかもわからないし、店先に並んでるものだけじゃ細かい効果とかわからないから言ってることはわかる。
しかも【白無垢】なんてカードがあるから、世界で一枚のオリジナルなんてざらにあるのだろう。
そんな状況で定石を覚えるなんて不可能なのかもしれない。
求められるのは対応力ってことかな?
「だったらさ。全部オリジナルカードだったら、相手はこっちの手を読めないよね?」
そう。それもこの世界の発想に無い程のオリジナル。そして、コンボ。
「そんなに簡単にオリジナルカードなんて揃わな……まさか、全部作る気?」
「うん。取り敢えずお金を貯めて、銅の【白無垢】を買い漁れば、全部【SSR】のデッキが出来るんじゃないかな?」
「そんなの前代未聞よ!」
「まあ確かに、金額が厳しいかもね。【5000000】イェンが四十枚。二億はキツイね」
「……そういうことじゃなくて」
「でも安心して。俺が絶対エディナを魔王にしてみせるから!」
「だから話を聞きなさい!」
エディナが大きくな声を上げると、ワッという歓声に掻き消された。
目を向けるとなんだか人集りが出来ている。
なんだろう? と思い俺たちは近付いて行くと、なんだか屋台の前で忍装束を着た女の子が両手に十本の串焼きを持ってモグモグしていた。
「すげえっ! もう三百本だってよ!」
「でも、流石に資金がやばそうだな」
「いや、ここまできたら屋台の串焼き全部いって欲しいな! 俺カンパしてくるわ!」
なんだか知らないが異様な盛り上がりを見せている。
人集りの中央で機械的にモグモグやってるのは、言わずもがなツクヨミである。
へえー、もう三百本も食べたのかあ。屋台に貼り出されている値段を見ると、一本【120】イェンと書かれていた。
いや待てぇい! 俺がツクヨミに渡した金額は金貨三枚。【30000】イェンである。三百本も食べたら完全に予算オーバーなんですけど!
それでもモグモグ続けているツクヨミ。
まじ何やっとるん?
「こらっ、ツクヨミ! 予算内で収めろって言ったよな?」
俺はツクヨミの前まで行くと、声を上げた。たまにはちゃんと叱らなきゃいけない。
「ひゃんと、おさはってふ」
食べるか、喋るかどっちかにしなさい。いや、そう言うと食べるを選択されそうだから、喋りなさい。
「兄さん、大丈夫だぜ! 回りの連中がカンパしてくれてるし、俺からもサービスしてるから問題ねえ!」
屋台のおっちゃんが、生き生きした顔でせっせと串焼きを焼きながら言った。
「いやー、こんな食べっぷり初めてみたぜ! 職人泣かせだねえ!」
嬉しそうに言わないで欲しいんですが……。
つか、そういうことか。
一気に【30000】イェン分の串焼きを買ったんだね。それで盛り上がってこんなことになっちゃてるのね。
……まあ、幸せそうだから別にいいけど。
読んで頂きありがとう御座います。
後書きどうしようかなって思ってたら一時間経過していた。
どういうことでしょうか。
悩んでたわけじゃないのに。よだれ垂れてるし。
取り敢えず眠いのでまた明日ノシ