【192】出すでぇす!
「ちょっと割振りは決めておいて」
「え、ブルさん!」
制止するルティルを押し切って、俺は馬鹿子のあとを追った。
まあ、朝から迷惑っちゃ迷惑だったんだけど、まじへこみした姿を見せられるとどうにも放っておけない。
別に悪い子ではないと思うんだよね。馬鹿だけど。
外に出ると店の入り口で、どよーんとした目を虚空に向けながら体育座りしている馬鹿子の姿があった。
あのさ、そこでそんな顔してたら普通に迷惑だと思うよ。
「あのさ、馬鹿子」
俺が声をかけると、馬鹿子はくわっと目を見開いた。
「馬鹿子って誰っすか! 私はカラドボルグ・バーチェンでぇす!」
あー、そうだったね。
なんかそんな感じの仰々しい名前だった。
「カラ……馬鹿子はさ、なんで俺に絡んでくるの?」
「なんで諦めたんすか! ちゃんと覚えておけでぇす。カラドボルグ・バーチェン。人の名前を覚えられないとかお前の方が馬鹿でぇす!」
え、いや、覚えてるよ。
でも長いし、呼ぶの面倒臭いじゃん。
「カラッポはさ」
「空っぽって誰っすか、あだ名を呼んでるフリして馬鹿にするなでぇす!」
「いや、悪かったよ。じゃあ、デェス子はさ」
「言ってるっすけども! 口癖でぇすけどもー!」
「やれやれ。なら、バーチェンさんは、どうして俺に絡んで来たの?」
「急に他人行儀! 距離感が広がったでぇす!」
どうしろってのさ。面倒臭いな。
「はいはい、ならカラドボルグはなんで……」
「馴れ馴れしいでぇす! ちゃんと『さん』を付けろでぇす!」
……くっそウゼェ。
内心が顔に出ていたのだろう。カラドボルグはフンッと鼻を鳴らすと顔を背けた。そして、ボソリと言った。
「さっきは会議の邪魔をして悪かったでぇす。けど、参加する前にリーダーの実力を試したかったでぇす」
「それは良いけど……参加? リーダー? まあ、確かにクランのリーダーは俺だけど、カラドボルグが何を試すの?」
「はぁ!? 自分が所属するクランのリーダーを試すのは当たり前でぇす! 頭沸いてるでぇすか!」
「所属って何処に?」
「ウンエイでぇす」
「誰が?」
「私に決まってるでぇす」
「は?」
「え?」
……何を言ってるんだ? この子は本当に馬鹿子なのか? なんで俺の知らない子がうちのクランに所属してる事になってんの?
うちのメンバーは全員……あ!
そこまで考えてふと思い出した。
確かクランを作る際にメンバーが足りないから、ロリさまが適当な感じで三人揃えたって言ってたな。
メンバーが揃ったら勝手に解雇しても良いとか言ってたけど、全く会う機会もなかったから忘れていた。
しかもこの子はちゃんとウンエイって言ってる。つまりそれは、ロリさまの気分で変更される前の名前を知っているということだ。
「あのさ、カラドボルグはいつからうちのメンバーだったの?」
「最初からに決まってるでぇす! って、え? もしかして、知らないでぇすか? 名前を覚えられないだけかと思ってたら、そもそも知らないでぇすか!?」
俺がスッと視線を逸らしたら、カラドボルグは信じられないといった様子でワナワナ震え始めた。
「あ、あ、あ、アウナス様のご命令で私はウンエイに入ったっすよ! 前のクランを抜けてまで! そ、それなのに知らないでぇすか!?」
えー、そこまでやったの?
つか、ロリさままじ鬼畜じゃね? クラン抜けさせるぐらい強制しといて、勝手に解雇して良いとか神じゃなくて悪魔だろ。
カラドボルグは、ショックのあまり地面に手をついて項垂れてしまった。
まあ、元気出せよ。
俺がポンポン肩を叩くと、ワナワナと震え出す。
そして、急にガバッと立ち上がった。
「しょ、勝負でぇす!」
「えー、面倒臭いんだけど」
「こんな扱いをされて黙ってられるかでぇす! いいから、【LG】を出すでぇす!」
まあ、色々納得出来ないのもわかるけどね。でも、勝負をする事になんの意味があるのだろうか?
まあ、いっか。
「セーン」
「はいはーい」
俺が呼ぶと店内にいた筈のセンが、にゅるっと空間から現れた。
「ばっ、違うでぇす。その獣人は反則でぇす!」
「え、そう? じゃあ、ワタツミ」
今度はワタツミが、俺の背後から姿を現す。
「ちがっ、その従者も反則でぇす! ちゃんとカードバトルするでぇす!」
「えー、でも【LG】出せって言うからさ」
「いや、【LG】ってそれはただの……え? そいつらが【LG】?」
俺がそうだよと頷くと、カラドボルグはガガーンと驚いてみせた。
「じゃあ、やる? カードバトル?」
【LG】を出して指示するだけの作業を、カードバトルと言って良いのか疑問だけどね。
センにぶっ飛ばされたのが相当堪えていたのか、カラドボルグはブルブルと震えて降参するのだった。
読んでくださりありがとうございます。
最近気が付いたけど、外出すると心が荒む。
家で引きこもっている時は穏やかな時を過ごせるというのに……。
なるほど。これが現代の闇か。




