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【186】見に行こう

「ワタツミ、俺を透明にしてくれ!」


 唐突に発した俺の言葉に反応して、ワタツミがスッと姿を現した。


 音も無く俺の背後に出現したワタツミを見て、店内にいた人々はギョッと目を剥く。だがそんな事は知らない。直ぐに隠れなきゃいけないのである。


「畏まりました。しかし、主君。意図がわかりかねますので、理由を伺っても?」


「あのね、ワタツミは俺の記憶を元に創ったんだから、わかるでしょ?」


「はい。彼女に会いたく無いお気持ちはお察しします。ですが申し訳ありません。彼女はまだこの街に到着してはいないのでは? すぐさま姿を眩ませる理由がわかりかねましたので」


 ……あ。そうですね。ルティルはやって来ると情報を教えてくれただけで、いつやって来るかまでは言ってなかった。


 珍しく動揺してしまって、おかしな事を言ってしまった。失敗失敗。


「で、ルティル。エディ……緑の魔王はいつこの街へ来るって?」


「もう到着してると思いますよ」


 もういるじゃねーか! 失敗してねーじゃねーか!


「も、申し訳ありません。差し出がましい発言を致しました」


 いや、その俺もごめん。


 ワタツミの考えの方が冷静だと思うよ。


 ルティルも来るみたいなんて言い方してたし、普通はまだ来て無いって思うよね。


「ごめんなさい。私が情報を得たのが到着するかしないかってタイミングだったんです。紛らわしかったですね」


「いや、いいんだ。俺がちょっと落ち着きを欠いていただけだから」


 ふぅ。ちょっと落ち着こう。


 冷静に考えれば、パンナコッタは広い。外を出歩かなければ、エディナにと出くわす事も無いだろう。


「なあ、ブルは緑の魔王の事知ってんのか?」


 ……フェリちゃん。それをブッ込んで来る? 容赦無いんだが。ほら見てごらん。ルティルなんて、私は察してたけど敢えて聞かなかったのに平然と聞いてやがるすげーよって顔してんじゃん。


「……えー、まあ、ちょっとだけね」


「ふーん、ブルが隠れようとする相手なんて、よっぽどスゲー奴なんだな」


「フェリナスさん、それは違うんじゃ……」


 ルティル! 察しの良すぎる子は嫌いだよ……いや、ごめん。察しが良過ぎても好きだったわ。


「取り敢えず見に行こうぜ」


 はい、かいさーん! 今日は満足したから解散しましょうね。


 俺が伝票を取ろうと手を出すと、フェリちゃんがサッと俺の手を掴んで来た。


 フェリちゃんの手ってやわらかーい!


 ってそうじゃない。いったいなんなの?


 俺がチラリとフェリちゃんへ視線を向けると、なんか目がキラキラしてる。


「な? 見に行こうぜ?」


 ……あのね。可愛い顔したってダメだよ。つか、俺が隠れようとしてるの知ってるよね?


「苦手は克服しねーとな」


 違っがーう! 苦手かもしれんけど、そういう問題じゃない。というか、手を離して、いやもうちょっと握ってて。あ、いややっぱ離して欲しい。あ、でも……。


「取り敢えず、ブルさんは姿を消して見に行けば良いのでは? 人集りになってると思いますし、遠巻きに眺めるだけなら問題無いと思いますよ」


 ……まあね。そうなんだけどね。


 でも、なんでだろう。いまいちその提案に乗る気が起きないんだよね。


「どっちにしてもフェリちゃんはお仕事中でしょ?」


「だから、ブルに言ってんじゃねえか。お前が連れ出すって言ってくれりゃあ、店長も直ぐにオッケー出すしな」


 だったら大人しく働いてなよ。ナンバーワンの道は険しいんだよ! ほんとにもう!


「なあ、ブル行こうぜ。女の我儘を聞くのは男の器量だぜ?」


 甘えるようにフェリちゃんが言って来た。


 ちょっと待って。どうしたの急に? フェリちゃんそんなキャラじゃなかったよね? いつからそんな女を武器にするようなテクニック覚えたの!?


 う。瞳を潤ませるフェリちゃんが可愛い。


 ……仕方ない。


 俺は小さく溜息を吐いた。


 フェリちゃんに懇願されてしまっては逆らえるはずもない。


「遠巻きに眺めるだけだからね」


 俺がそう言うと、フェリちゃんは嬉しそうに目を輝かしたのであった。

読んでくださりありがとうございます。



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