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【163】商家の娘

 くっ、なんてことだ。


 今日は色々不愉快な事があった筈なのに、エルフ一人登場しただけで俺の心は浮足立っている。


 なんて単純な! なんて安いハートなんだ!


 いやいやいや。


 エルフに惑わされはいけない。エルフは魔性。エルフは悪魔。俺の心を弄び、甘い容姿で誘って最後にはポイする生き物なんだ。きっとそうなんだ。


 だから、見た目に鼻の下を伸ばしてるわけにはいかない!


 うーん、でも可愛い。ニヤニヤ。


 はっ! 俺は何を!


 ダメだ。エルフの魅力には敵わない。


 ……もういっそ殺して欲しい。


「あ、あの……」


 俺の百面相に困った顔を向けるエルフちゃん。


 心配そうに俺を見る目は蔑んで……ない、だと!


 切れ長の目から覗く瞳が、俺を心配するように揺らいでいる。


 ああ、まつ毛なげえ……ってそうじゃない。


 レインにペチンと頭を叩かれて、俺はようやく正気に戻った。


 あー、あー、マイクテストマイクテスト。


 モウダイジョウブ、ゼンゼン、モンダイナイ。


 戻れてませんでしたー。


「ブル様、先程も申し上げましたが、彼女は非常に有能です。是非とも話を聞いてやっていただきたいのです」


 マーガリは俺の様子なんて気にもしないで、エルフちゃんを紹介して来た。


 そして、マーガリに促されてエルフちゃんが自己紹介を始める。


「初めまして、私はルティル。ルティル・ドフォールと申します。この度は、私の我儘のために御足労頂く事となり、誠に申し訳ございません。また、マーガリの申し出に取り合ってくださいましたこと、深く感謝致します」


 ルティルと名乗ったエルフちゃんは、丁寧に挨拶をして来た。


 いやいや、そんなに畏まらなくても良いんだよ?


 相手は俺みたいな庶民なんだから。別に貴族相手でもあるまいし…………ってあれ?


 ……俺ってば貴族じゃん!


 家との関係も薄いし、あまり貴族らしい扱いされないからすっかり忘れてたけど、そういや俺ってば貴族だった。


 謎のクランを束ねる貴族。


 うーむ、確かにそれだけ聞いたら、下手な態度は取れないかも。今までの連中が随分舐め腐った態度だったから気が付かんかったわ。


「初めまして、俺はブル・ドッグ。一応貴族らしいけど、階級も無いしあんまり畏まらなくても良いよ」


「ありがとうございます、ブル・ドッグ様。あまり堅苦しい言葉使いは得意ではないので助かります」


「ブルで良いよ。俺もルティルって呼ばせてもらうし」


「はい、ではブルさんと呼ばせていただきます」


 ルティルが柔らかく微笑むと、つられて俺の頰が自然と緩む。


 でもって腿を隣のレインがつねる。


 いててて! ちょっと、何すんのさ!


「それで? 私たちに何の用があるのかしら?」


 俺に代わってレインがそう聞くと、ルティルは再度深々と頭を下げた。


「その前にご挨拶を、レイン・ゼノ・イーヴィル様」


 ルティルがレインに対しても頭を下げると、レインはギョッとした様子だった。ついでにルティルの隣のマーガリもギョッと目を剥いている。


 あれ? もしかしてマーガリさん、レインのこと気が付いてなかったの?


「イ、イーヴィルですと!? まさかあなた様は、三位階級の!」


 マーガリが突然跪き、レインに対して頭を下げた。


「構わないわ。今の私はイーヴィル家ではなく、【黒のウンエイ】として、ここへやって来ているのよ。余計な気遣いは不要よ」


 レインに言われて二人は頭を上げた。


「それよりも、ルティル。あなたは何故私のことを知っていたのかしら?」


「はい。私はザッハトルテの街で、【黒のウンエイ】のご活躍をこの目で見ておりました」


「あの式場に居たというわけね」


「はい、ドフォール商会は、バートル家とも懇意にしておりましたので、その……種族柄、式場に参加すれば映えると父にお願いされまして」


 あー、なるほどね。


 確かに綺麗なエルフがいると、見栄えが良いもんね。


「そう、それで? あの件を目撃していたあなたは何が目的なの?」


 レインが少し強めに言うと、ルティル暫し瞑目したあと思い切ったように言葉を告げた。


「あの! 私を黒のウンエイに加えてはくださいませんか!」


 …………採用!

読んでくださりありがとうございます!


雨の日に後ろからヒタヒタと足音が近づいて来た。


なんかいやだったんで、俺は速度を上げたんだけど、その足音が速くなる。


ヒタヒタヒタヒタ。


ひえー、って思って振り返ったら、俺の速度につられてスマホを見ながら歩くただの人でした。


歩きスマホはやめよう! 迷惑です!

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