【148】思い出は積み上げればいい
ブロロロロ。
エンジン全開只今爆走中!
モイガンの罪を暴いた後、俺たちは直ぐにブルドーザーへ乗り込んで帰路に着いた。
何人かに引き留められたけど全部無視。
目的を達したら、あそこにもう用は無いからである。
父親? そんなものは知らん。強く生きろ。
パリスの妹? 面識無いんでごめんなさい。
細かい事はあの場の人たちに丸投げ。
バートル家が今後どうなるかも、知った事じゃ無い。
みんなから責め立てられるも良し。言いくるめてあの場限りの出来事にするも良し。俺たちの周りに問題が残らなければ何でもいい。
レインが上手くやってくれたから、そこんとこは大丈夫だろう。
ただ一つ、それとは別に問題が発生していた。
ミルが俺から離れてくれないのだ。
狭い操縦席に寄り添うように腰掛ける俺とミル。
ミルはウェディングドレスを皺くちゃにして、俺に引っ付いていた。
膝の上にはツクヨミが乗ってるし、それはもう幸福な状況ではあるんだけど。
俺はそもそもミルとも初対面だから、懐かれ過ぎても困ってしまう。
まあ、お兄ちゃんだからと言って、勢いよく行動した俺も俺なんだけど……。
「うーん、お兄さま〜」
猫なで声で甘えてくるミルは可愛い。
これが妹じゃなかったら、俺はもう一コマ即落ちだっただろう。
前のブルが度を越したシスコンになってしまうのも、頷けるというもの。
だが、ミルはあくまでも可愛い妹である。
神聖な妹に対して、穢れた目を向けるなんて俺にはできない。
「好き〜」
……俺にはできない、たぶん。
俺は顔が緩みそうになるのを堪えて、頭を振って理性を保つ。
そもそもだが、俺は以前のブル・ドッグではない。攫いに行ったとはいえ、ミルとは初対面で、思い出の一つも残っていないのである。
この辺りをなあなあにしておくと、後々自分の首を絞めることになる。俺は知っているのだ。こんな展開があったかは知らんが、ラノベの主人公は問題を先送りにして苦労する。
だから、この問題も早々に解決しておく必要がある。
悪いフラグはへし折るべきだ。
「な、なあミル。話しておかなくちゃいけない事があるんだ」
真剣な顔を向けて話しかけると、ミルは頰を染めて上目遣いで俺を見てくる。
う、可愛い。
いや、違う!
俺は再び頭を振って、沸き立つよくわからない感情に蓋をした。
「ミル、実はね。俺には以前の記憶が無いんだ」
俺の言葉にミルは首を傾げる。
「長馬の事故で、それ以前の記憶を無くしてしまったんだよ」
「でも、お兄様は私を攫いに来てくれました」
「再会したパリスから状況を聞いたんだ」
「状況を聞いて記憶に無い妹の為に、あのような大胆な事をされたのですか?」
「いや、まあ。お兄ちゃんだったらそのくらいするでしょ」
ガバッとミルが俺の胸に顔を埋める。
「やっぱりお兄様です。お兄様はいつでも私のヒーローでした。記憶を無くされたとしても、お兄様はお兄様のままです」
ええー、自分で言っといてなんだけど、普通のお兄ちゃんはそこまでやんないでしょ。以前のブルがどういう人物だったのか、更にわからなくなって来た。
「で、でもミルとの事も、家の事もなんにも覚えて無いんだよ」
「大丈夫です。いつか思い出してくれると信じています。それに、私とお兄様の思い出は、これから積み上げていく方が多くなるんですから、何も問題ありません」
花のような笑顔を向けられて、俺はそうだねとしか言えなかった。
家から連れ出してしまった事だし、今後ミルの面倒は俺がみる事になる。
兄弟として面白おかしい思い出は、今後増えていくだろう。
その蓄積があれば、昔の思い出なんて些末な問題だ。
……そういう意味だよね?
満面の笑みを浮かべるミルを見て、可愛いと思う反面、なんとも不安な気持ちになる俺なのであった。
読んでくださりありがとうございます。
本日もギリギリで書き終わった。
休めば良いじゃんって思うかもしれない。
俺もそう思う。




