【144】黒のウンエイ
私は夢を見ているのだろうか?
望まない婚姻を結ぼうとしている最中、諦めた私に待ったをかけるように現れた大型のモンスター。
まるで金属のように輝く黒塗りの鱗。太い足は車輪のようなものがいくつか付いていて、よくよく見ると馬車のようにも見えなくもない。
いや、こんな乗り物なんて見た事も聞いた事も無い。
むしろ前面には凶悪で大きな歯がギラリと光っている。
恐ろしい姿。けれど、私の瞳はそのモンスターから目が離せない。私だけじゃなくて、式に訪れた誰しもがそうだったと思う。
「モイガン様、それにミル様、お下がり下さい!」
私たちを守るように闘士たちが立ちはだかった。
バートル家が専属で雇っているAランクの闘士たち。その中には称号持ちも幾人かいるとか。
実力だけで言えば、Sランクにも引けを取らない者たちだと、モイガンが自慢気に話をしていたのを覚えている。
そんな彼らですら、強張った顔つきで、油断無くモンスターを警戒していた。
「アレス! あのモンスターを知っているか?」
「申し訳ありません。目撃するのは初めてです。しかし、最近パンナコッタ付近の街道で、幾度か目撃されているという話は聞いております」
「戦った事がある者は?」
「おりません。非常に素早い動きをするとかで、今まで接触できた者が居ないのです」
アレスという闘士の言葉に、モイガンは不愉快そうな顔付きになった。
「倒せるのだろうな?」
「お任せ下さい」
アレスの答えにモイガンは鼻を鳴らす。
と、その時。
モンスターに動きがあった。
硬そうな鱗を片方だけ、翼のように広げたのだ。
まさか、飛ぶの?
そう思ったけど、広げた翼の奥は空洞となっていた。
―――え?
見入ってしまっていた人々は一斉に我に返った。そして、更なる動揺を生む。
翼の奥からは人が出てきたからだ。
まさか! え? 馬車のようだとは思ったけど、本当に人が出てくるとは思わなかった。そうなると、モンスターだと思っていた物が、途端に金属の塊なのではないかと思えてくる。
異様な光景は続く。
中から出てきた人たちは全員、黒いバイザーで顔を隠し、黒いマントに身を包んでいたのだ。
出て来た人物は八人。
その人たちは、一人の男を中心に整列すると、小柄な少女が一歩前に出て声を上げた。
「……人々よ。我らを恐れ、求めるが良い! 我らの名は、黒の騎士団!」
静まり返った聖堂に響く堂々とした声。
私たちはその声に聞き入った。
「違うよツクヨミ。ウンエイだって!」
中央の男に指摘されて、少女はポンと手を打ってコクコク頷いている。
「我らは黒のウンエイ! 力ある者よ、我を恐れよ! 力なき者よ、我を求めよ! 世界は、我々黒いのウンエイが―――裁く!」
少女の言葉が終わると同時に、バーンと後ろから水の飛沫が上がってキラキラと輝いた。
よくわからないけど凄い。
それになんかカッコ良い。
「世界を裁いてどうするの! ちゃんと打ち合わせ通りにやってよ!」
「でも、ブル。やりたかった」
リーダーっぽい人が小柄な少女に注意をしてるけど、少女は得意気で凄く満足そうな表情をしていた。
―――って、え? 今、なんて言った? ブル? ブルって言わなかったあの子?
私の意識がリーダーっぽい男の人へ向けられる。
よく見れば、その人の背丈も、髪型も私の良く知っている人物と重なって見える。
そして、微かに聞こえてきた囁く声。
私の胸を高鳴らせるその声は、聞き違えるわけもない。
「お兄様!」
気が付けば私は声を上げていた。
一斉に私へ注目が集まった。
しまった。冷静じゃなかった。
顔を隠しているという事は、素顔を隠したい事情があるのだろう。なのに私は驚きのあまり、周知させるように声を上げてしまったのだ。
あー、私のバカバカ!
なんでこんなに考え無しなのよ!
それでも、私は目の前に立ちはだかる黒の一団から目が離せない。
リーダーっぽい男の人へ祈るように視線を送っていると、その人がフッと微笑み顔を隠していたバイザーを外した。
―――ああ、やっぱり。
見間違える事の無いその顔。優しい視線。
気が付けば、私の頰を涙が伝っていた。
今日は泣かないと決めていたのに……泣かないつもりだったのに。
でも、こんなのはずるい。
こんなに嬉しい事が起きて、溢れ出る涙を止められるわけもない。
「攫いに来たよ、ミル」
その言葉を聞いて、私の涙腺は完全に崩壊した。
読んでくださりありがとうございます。
後書きを褒められました。なので、後書きも頑張ろうと思いました。
うおおおおおお! 書くぜぇ、書くぜぇ、超書くぜぇええ。
うん、明日からにしよう。




