【140】何故ならお兄ちゃんだから
パリスの話を纏めると、ブルとミルは兄弟なのに相思相愛。ブルのことが好きなハクア。ハクアのことが大好きなパリス。ブルにムカついてるパリス。
こんな感じの人間関係らしい。
グズグズですね。
「で? 長馬の件が俺の妹とどう関係してくるわけ?」
とりあえず、妹たちとの関係はお腹いっぱいだから、続きを促してみた。
すると、パリスは再び真剣な顔つきになる。
「俺がお前を懲らしめくれとお願いした相手は、モイガン・バートル。二位階級の貴族で、お前の妹に求婚している男だ」
……なるほどね。わかりやすっ!
そのモイガンって奴は、要するにお兄ちゃん大好きなミルのことが好きで、ブルの存在が邪魔だったんだね。
だから懲らしめるに留まらずに、殺しちゃったと……。
つか、そんな事で人殺しなんてするか普通?
この世界でも、人なんて殺しちゃったらまずい事になるんじゃないの?
俺が首を傾げていると、何に疑問を抱いているのか察したパリスが捕捉を入れてくれた。
「相手は二位階級の貴族だ。多少の無茶は押し通せるだけの力がある。モイガンの気持ちを利用して、お前に差し向けたのは俺が浅はかだった。許してくれとは言わないが、すまなかった」
「いや、済んだ事は別に良いよ。それよりもそのモイガンって奴は、今でも俺の妹に求婚してるわけ?」
「求婚どころか、間も無く式を上げる予定になっている」
え! 展開早過ぎじゃね!?
ブルを排除したら、即結婚出来ちゃうわけ?
「元々階級無しのドッグ家では、バートル家の申し入れを断る事なんて出来なかったんだ。それでも話を先延ばしに出来ていたのは、ワイズマン家が間を取り持っていたのと、ミル自身が強く拒否していたからだ。
しかし、お前が俺の妹を振ってからウチとの関係も悪くなり、お前が死んだと聞いたミルは途端に反発しなくなった。
直接はみてないが、ミルは酷く無気力だったようだ」
……ブルの奴め、色々かき乱してたんだな。
絶妙なバランスで保ってたものを、全部ぶっ壊して死んじまうなんて……。
「まー、大体話はわかったよ。つまり、家の事情と恋愛感情が色々混じって混沌としちゃったわけだね」
「……随分と他人事だな」
ええまあ。
実際、他人事ですしおすし。
ただ、家の関係とか、恋愛感情とかはこの際どうでも良いんだけど。
俺の妹が不幸になるのは許せないね。
「パリスはなんでその話を俺にしたんだ?」
「……お前が生きているとわかった時に話すつもりだった。だが、お前が俺を無視するからカチンと来て……それで、決闘する事になっただけだ」
……その、なんかすまん。
割と真面目だったんだね。パリスくん。
うん。でもまあ、パリスも喧嘩腰だったし、お互い様って事で!
「妹の……ミルの結婚式はいつ?」
「五日後の週末だ」
「ちかっ! どこでやんの?」
「ザッハトルテで行う事になっている。今からではどうしようもないぞ。どうするつもりだ?」
「どうするって、当然邪魔しに行くんだけど?」
「何故だ? 記憶の無いお前が、妹にこだわる理由はないだろう」
パリスがそんな事を言うもんだから、思わずやれやれと溜め息が出た。
記憶? 理由? そんなものは必要無い。
お兄ちゃんは妹を守るもんなの!
「望まない結婚を強いられている妹がいる。そんな時、パリスならどうする?」
「当然、あらゆる手を使って守りに行くさ」
「それ以外は無いよね?」
「それ以外は無いな」
俺とパリスは笑い合った。
この世界に来て、他の誰かに俺の感情が初めて通じた気がした。
いや、パリスは自分ならそうするし、ブルもそうするだろうと考えていたからこそ、俺にこの事を教えに来てくれたのだ。
俺に記憶が無い、もとい全くの別人である事は想定してなかったと思うけど、それでも結果は変わらない。
だって、この体はーーーブル・ドッグは、ミル・ドッグのお兄ちゃんなのだから。
「俺が撒いた種でもある。お前がやる気なら、手を貸そう」
フッと口元を緩めて俺が席を立つと、パリスも俺に続いた。
さて、それではやるとしますか。
珍しくやる気になった俺は、清々しい気分だった。
清々しい気分過ぎて、色々忘れ去っていた。
そう、例えばお会計とか。
店を出ようとしたところで、メロディにお盆でぶっ叩かれた。
「ニャチュラルに食い逃げするにゃ!」
「痛いよメロディ。気分が盛り上がってちょっと忘れただけじゃないか。どうせまた来るんだから、ツケておいてくれれば良いのに」
「ウチはツケはやってないにゃ。ブレインといえども、払うもんは払うにゃ」
メロディは厳しくて、しっかり者のネコミミちゃんなのであった。
読んでくださりありがとうございます。
誤字脱字はちょいちょいあるけれど、前話でとんでもない誤字がありました。
妹と「結婚」するを妹と「結構」するって書いてた。
結構するって、結婚よりやべーんじゃないの?
……まあでも、どの道だめなやつだからどっちでもいっか。




