【127】やっぱ、イカサマはダメ
シーンと静まり返った後、周囲がざわつき始めた。
「おいっ、どうやって【水】で【火槍】を防いだんだ?」
「わかんね。なんか一瞬水がうねったようにも見えたが……」
「数回使ったのか? でも、発声は一度だったし……」
「小声で発声したのかもしれないね。だけど、カードが反応出来るのかな?」
色々考察してくれてますけど、すんません。正解はワタツミが威力を増幅させたでした。
いや、ほら。俺って【LG】以外大したカード持ってないしさ。仕方ないんだよ。
周囲の反応と同じで、パリスも唇をわなわなさせて驚いている。
すまんの、勝負の世界は非情なのだよ。
「貴様! 何かイカサマをしているなっ!」
いや、イカサマなんてして……そう考えた時、俺はある事に気が付いた。
ワタツミを召喚したのは三日前で、試合開始後に俺は【召喚】を行なってない。つまり、見えないとはいえ、試合前から召喚したモンスターを持ち込んでいる事になる。
これは、一応ルール違反にあたるのだろうか? 普通は気付かれちゃうから、開始前に注意されると思うんだけど……。
うーむ。普通に考えたら……ダメだろうな。
わりい、俺ってばイカサマしてたわ。
取り敢えずテヘペロして誤魔化してみたけど、俺がやってもちっとも可愛くない。
逆にパリスは挑発と受け取ったのか、顔を赤くしてプルプルしている。
そんなに血圧上げると体に悪いよ。
「調子に乗りやがって! これは使わないで、おこうと思ったが良いだろう……驚け、俺の最強のカードだ!」
そう言ってパリスは一枚のカードを掲げた。
「【召喚】! 【ロードデーモン】!」
なん、だと!
ロードデーモンだ、と!
初めてまともなモンスターの名前キター!
思い返せば、この世界の召喚カードの名前は本当に酷い。
【タイガーウルフ】、【クエンバード】、【アイアムゴリラ】、【ユータートル】など、一見してまともそうな名前も必ず一癖ある。
まあ、ウシドーンなんて名前を考えるロリな神さまのセンスだし、仕方ないっちゃないんだけども。
パリスの召喚したモンスターは、黒い肌に筋肉質な肉体。二本の角を生やしたいかにもデーモンの親玉的な感じだ。ロードデーモン。うん、納得の容姿をしている。
「どうだ驚いたか! こいつは【SSR】だぞ! しかもこいつは場で使用された魔法カードの情報を読み取り、引き出す事が出来る特殊能力持ちだ!」
やめろ! どっかのデュエリストみたいに一々カードの説明をするんじゃない!
そんな事をされたら、俺が驚いてもいないのに「なにぃ!」とか反応しなきゃいけなくなるだろ!
しかも余計なのがモンスターの能力だ。
引き出すってローディングってことじゃん! ロード部分が途端に安くなるじゃん!
「はは、驚いて声もあげられないようだな!」
確かに驚いてるけども! 別の意味で!
色々と腑に落ちないが、【SSR】を出されたなら仕方ない。【破壊】を使ってもなんとかなるけど、召喚モンスターには召喚モンスターを出すのが礼儀だろう。
別にやっぱりイカサマはダメだよなとか、反省しているわけじゃない。
ないったらない。
俺はワタツミのカードを取り出して、声を上げた。
「【召喚】、【海神・ワタツミ】!」
発声すると、俺の周囲に水流が巻き起こった。
その水流が生き物のようにうねりながら、周囲へ霧散していくと、そこには青と白を基調とした鎧纏う、美麗なる戦士が立っていた。
長い髪が日の光を浴びてキラリと光り、切長の瞳を薄っすらと細めた彼女……ワタツミは、姿を現すと俺の前に跪く。
「参上致しました、我が主君。ご命令を」
「決闘に勝ちたいから、全部やっつけてくれる?」
「お任せを」
ワタツミが俺を守るように立ちはだかると、周囲にどよめきが走った。
「な、な、なんだそのモンスターは!」
そして、意外にも最初に大声を上げたのはパリスではなく、立会い人の教師であった。
読んでくださりありがとうございます。
人の行動は内面を映し出す鏡である。
けれど、己の内心を偽れていると錯覚している人間が物凄く多い。
選ぶ言葉一つとっても心の内を晒すのだから、隠したいのならば何もせず、一言も喋らなければいい……。
何故唐突にこんな事を語り始めるのか?
それはね。
喋る事がなかったんだよ!




