【105】目的はパートナー
「つまりブルは、ウンエイという組織に属しているわけね」
うーむ、微妙に違うというかなんというか。
レインの言葉を曖昧に頷いた俺は、パンを手にとって噛り付いた。
焼きたてのパンは美味い。というか、普段食ってるパンよりも中が柔らかくて香りが良い気がした。
さすが高級宿の朝食。パン一つとっても、他とは違うみたい。
俺たちは朝食の席に着いていた。
収集が付かなくなったあの場をなんとか取りまとめると、取り敢えず朝食を食べながら話をしようという流れになったのだ。
食堂は各テーブルが仕切られているから、他のお客さんの目に付く事はない。
防音が優れているわけじゃないけど、センが居るから聞き耳を立てて居る人物がいれば直ぐにわかるので、大声を上げなければ誰かに話を聞かれる心配もないのである。
因みに朝食を食べてるのは、俺とレインだけだ。
スズネちゃんはレインの後ろに控え、センは俺の隣でお茶をすすっている。
食いしん坊のツクヨミがまだ寝てるらしいから、センとツクヨミは後で外へ食べに行ってもらうことになってる。
そして、色々隠す気もなくなってきた俺は、信じるかどうかは別としてレインにこれまでの事をざっくりと話したのであった。
異世界からやって来たら、血まみれのブル・ドッグになっていた事。ロリ様に貰った【白無垢】のカードでツクヨミとセンを【実装】したこと。二人の力があったお陰で、貯金がたくさんできた事を話してあげた。
運営の犬みたいな感じだねって説明したら、どうやら通じなかったらしく、よくわからない組織に属している事になってしまった。
まあ、ロリ様とも知り合いだし、ニュアンス的には間違ってないからいいけど。
因みに俺が【実装】を簡単に出来る事は話してない。【破壊】についても、エディナの事についても話してない。
隠し事はやめると言ったが、洗いざらい話す必要もないだろう。話もややこしくなるし。
「それで? 目的はなんなのよ?」
「目的? なんの話?」
「【LG】を持っているブルからすれば、学園に通う必要なんてないでしょう? それなのに、あなたは入学金を支払ってまで進んで通おうとしている。それは何故なの?」
「いや、別に特に深い意味はないかな? なんとなく楽しそうだなって思っただけだし」
「それだけ? 四年もの期間があるのよ? 【LG】を使って自由に生活することもできるのに」
「そうかもしれないけど、人生は一人で楽しめるもんじゃないでしょ? 学園での出会いとかは、人生を楽しむ為に必要なスパイスだと思うんだけど?」
「なかなか哲学的ね」
哲学だろうか? 結局は嫌な場所だったらやめるだけだし。要するに楽しめれば良いだけなんだよな。
「つまり、ブルは人生のパートナーを求めに、学園へやって来たというわけね」
うーん、極論を言ってしまえばそうなのかもしれない。けど、どちらかというとエディナの事を忘れたいだけなのかも……。
「なら、私がなってあげるわ! あなたのパートナーに!」
ガタンッと立ち上がり、レインが胸に手を当ててそう言った。
え? どうしたの突然?
まあ、レインも可愛いから、嫁になってくれるっていうなら嬉しいけど。
「うーん、いきなり結婚って言われてもね。ちょっと困っちゃうかな?」
あ、なんかあの時のエディナの気持ちがちょっとわかった気がするかも。まだ関係が定まってない状態でプロポーズされても、そりゃあ頷くに頷けない。
「なっ! け、結婚なんて言ってないわよ!」
「え? 結婚するから付き合うもんなんでしょ?」
「え、いや、そうだけども! その前の段階とか色々あるでしょ!?」
「エッチなことしたりとか?」
「違う! それこそ結婚した後でしょ!」
だから、結婚前の関係ってなんなのさ。俺の知ってる恋人関係って、もっとくんずほぐれつのいやらしい関係だと思ってたんだけど。
それがないなら、普通に友達で良い気がする。
「とりあえず、いきなり付き合うとか言われてもね」
「私の誘いを断るっていうの!?」
「え? あー、うん」
「なっ! 私を誰だと思っているのよ!」
「ヴァンパイア名探偵?」
「違う! 泣く子も黙るイーヴィル家の次期当主、レイン・ゼノ・イーヴィルとは私のことよ!」
へー、泣く子も黙っちゃうんだ。おっかないね。
「これは命令よ! 私のパートナーになりなさい!」
「ごめんなさい」
「はやっ!」
ぐぬぬと唸るレインと俺のやりとりは、暫くの間続いた。
いや、別にレインのことが嫌なわけじゃないんだよ。
けどさ、レインは俺のこと利用したいだけなんでしょ? 別に良いけど、俺はちゃんと恋愛したいんだよね。
お読みくださりありがとうございます。
ゴーデンウィーク初日はど寝坊から始まったのである!
先行きが不安なのである!




