【104】本気出しちゃおっかなぁ〜
「それで? 異世界からやって来たあなたは、どうやってブル・ドッグになりすましたのかしら? あなたの容姿は寸分違わずブル・ドッグと同じなんだけど?」
おいおいおい、ちょっと待て!
当たり前のように話を進行しないで欲しい。
いつ誰が、異世界からやって来たって言った?
いや、言いました。犯人は俺です。
って、そうじゃなくて!
俺が本物のブル・ドッグじゃないなんて一言も言ってないんですけど!
つか、ブル・ドッグ見たことあんの?
「あのさぁ、俺がブル・ドッグ本人じゃないなんて言ってないんだけど?」
俺がそう言うと、レインは小さく溜め息を吐いた。
「……人の血はね。死に近付くほど旨味を増すのよ。何故そうなるかはわからないけど、死にかけた事のある人間ほどその生き血は、芳醇な香りと甘みが増す。あなたの血は、私がこれまで飲んだ血の中で一番美味しかったわ。これがどういう事かわかるかしら?」
いやー、なんだろう。心を読まれてるわけじゃないのに見透かされるって、なんだかとってもおっかないね。
「あなたは一度死んでいる。それは、あなたの血が明確に語っているわ。ならば、何故あなたは生きているのか? 答えは単純明解。死んだあなたに、別の誰かが入り込んだのよ。異世界からやって来たという、別の誰かがね」
正解! 大正解です!
つか怖っ! 一言漏らしただけで答えに辿り着いてるですやん!
ふっ、ドジっ子キャラかと思ってたのに……とんだ名探偵がいたもんだぜ。
刑事さん。俺はね、自分が悪い事をやったとは思ってないんですよ。
ブルさん!
くるなっ! 来たらこいつがどうなるか知らないぞ!
ブルくん! やめるんだ! これ以上罪を重ね―――いたたたた!
気が付いたらレインに頰をつねられていた。
なんだよ、ちょっと考えが在らぬ方に向かっただけじゃないか!
「私は真面目に話をしているんだけど?」
失礼な。俺だって真面目に考えている。どうやってこの場をやり過ごそうかってね。
うーむ、つか、今まで隠すのが普通だと思ってたけど、エディナにも振られちゃったし、どうでもいいっちゃいいんだよなぁ。
よし、やめた。
俺は隠すのをやめるぞぉおお! レイィィィン!
というわけで。
「助けてー、センー!」
俺がそう言った瞬間だった。
部屋の中に眩い光が、バリバリと音を立てて広がった。
「お嬢様!」
スズネちゃんが咄嗟にレインを下がらせる。
そして、稲妻の様な光りが収まると、そこにはモフモフ獣っ子センが立っていた。
「なっ! どうやって!」
レインとスズネちゃんが声を上げるが、センは二人のことなんて気にしていない。
「呼んだー?」
「うん、とりあえず動けるようにしてくれない?」
俺がそうお願いすると、センは俺に指先を向ける。
すると。
「あびゃびゃばばびゃ!」
俺は強烈な電流を流された。あと、変な声も出た。
「なんて事すんだよ!」
「えー、だって私、解呪とか出来ないし。ブルの中にある悪いモノを強制的に追い出すしかないでしょ?」
「そんな事情は知らんけども! もっと他にやりようはあるだろ!」
「動けるようになったんだからいいじゃない」
む、確かに!
気が付けば俺は立ち上がって、センに文句を言っていた。
おおぅ、なんだか元気になってる! これはあれか、センのバフか!
元気になった俺は、好き勝手やってくれたなとレインを睨み付けた。
キツく睨み付けて。そして、鼻血を噴いた。
ぶっは! なんつーカッコしてんだよ! エロ過ぎんだろ!
正常に戻った俺にとって、レインの格好は刺激が強過ぎたようだ。
血も吸われたし、まじで貧血になりそう。
「忍者のみならず、その獣人はなんなの!?」
ええい! 驚く前にまずは上着を羽織れい!
「レインお嬢様、お下がり下さい! その獣は危険です!」
「あ゛あ゛!? なんじゃと、クソ雑魚忍者! 誰が獣じゃと!」
「く、クソ雑魚!? 最強の忍と呼ばれた私がクソ雑魚!?」
「ははっ! チビじゃりに遊ばれてる時点でクソ雑魚ナメクジ以下じゃろう」
「言ってくれますね!」
あー、もう! 収集つかねえんだが!
レインは上着を着ないし、センは口悪いし、スズネちゃんは刀抜き始めたし、俺は鼻血噴いてるしで酷い状況だった。
仕方ないから俺が手を打って、その場を収めることにした。
「はいはい! スズネちゃんは刀を収める。レインは上着を着る! セン、お座り!」
「私、犬じゃないんだけど?」
「俺の飼い犬だけど?」
俺がカードをチラつかせると、センは素直にお座りをした。
「そんなっ! 嘘でしょ!? レジェンドカード!」
俺がチラつかせたカードを見て、レインとスズネちゃんは驚きで固まった。
いいからレインは上着を着てくれよ!
あと、お前ら目、良過ぎだからな!
お読みくださりありがとうございます。
明日からお休みだ!
行くぞ引きこもり! 食料の貯蔵は出来てるか?




