【102】目覚めのチュー
これはっ!
【307】号室へ入った俺は絶句した。
何に驚いたかって? そりゃ当然レインの姿にだ。
スズネちゃんの言う通り、スケスケピンクのネグリジェ姿のレインは、桃色の長い髪を寝癖でピンピン跳ね散らかしていた。
ただ文字通りスケスケだから、毛布からはみ出た上半身からあれやそれが見えたり見えなかったりのチラリズム。
とういうか丸見えである。
ネグリジェどころか、もはや半分脱いでいる。
こんな姿を、若い獣のような精神を持つ男子に見せて良いものだろうか?
そう思わなくもないのだが、レインを見てもちっともリビドーを掻き立てられないし、エロい気持ちにはならなかった。
というのも、レインの肌の色がおそろしく白かったからだ。
俺の視線は寧ろそっちに集中してしまい、レインのあられもない姿に欲情する暇がない。
朝が弱いとは言っていたが、これは低血圧過ぎるんじゃないだろうか?
一瞬、死んでんじゃね? なんてことも思わなくはなかったが、しっかりと胸が上下して浅い呼吸を繰り返しているから、ちゃんと生きてはいるみたい。
「あのさぁ、スズネちゃん」
「なんでしょう」
「起きるこれ?」
「起こしてみればわかるかと……」
あー、そういう感じだ。そりゃそうだよね。
ちゃんと従者がいるのに、寝坊するなんてよっぽどだよね。
つまり、スズネちゃんは匙を投げたんだね。
つか、忍者が匙を投げたことを俺がやってのけられるとも思えないんだけど……。
下手すりゃ、登校初日から遅刻まであり得るぞ?
俺が抗議するようにスズネちゃんへ視線を送ると、彼女は手を合わせてお願いしますと言ってきた。
まあ、そこまで言われちゃ、一応挑戦はしてみるけど……。
俺はレインに近付きベッドの傍らに立って、改めてレインの姿を見た。
うーむ、色は白いが寝ている姿はなかなかに可愛らしい。凄い格好だし、肌の色が健康そうなら大興奮なんだけどな。
まあ、そんなことより取り敢えず起こしてみるか。
「レイン、朝だよ。起きてー!」
ゆっさゆっさとレインを揺らしみるが、彼女はまるで起きる様子がない。
「レインお嬢様はこれでも頑丈です。もっと激しくても、ぶっても大丈夫です!」
スズネちゃんは従者だよね!? なんてこと言うの!
さすがに女の子をぶつとか俺的に無理なんだが……。
まあでも、もう少し強く揺すってみるか。
「レイン! 朝だよ!」
ゆっさゆっさ。
「ご飯がなくなっちゃうよ!」
ブンブン。
「おーきーろーー!」
カンカンカンカン!
…………だめだ。全然起きない。
こうなったら奥の手である。
眠れる姫は王子様のキスで目覚めるものである。
俺は王子様。姫の眠りを覚ます者。
ラッキースケベが起きないのならば、俺は合法スケベを目指していこうと思う。
いや、違った。これは姫の眠りを覚ます為に必要な儀式なのである。
ビバ合法!
「起きないとチューしちゃうよー」
俺は雛みたいに口をすぼめてレインに顔を近付けた。
正直側から見たら気持ち悪かったかもしれないが、そんなことは知らん。寝こけてる奴が悪いのだ。
俺が顔を近付けて行くと、微動だにしなかったレインがピクリと反応した。
お、これは?
続いて鼻をスンスン鳴らして匂いを確認すると、レインが薄っすらと目を開ける。
息がかかりそうなぐらい近付いたところで、レインはトロンと瞳を開けて首を傾げる。
そして、そのまま俺の首に腕を回して来た。
ちょ、あ、寝ぼけてるのか?
これはまずいって。
確かにチューしようとしたけど、あくまでフリだから、フリ! まじでしようとは思ってないんだって。
レインの行動に俺が動揺していると、レインはどんどん顔を近付けて来た。
そして、唇が触れるか触れないかというところで、俺は目を閉じた。
いや、だって初めてだし! なんか恥ずかしいし!
これは事故! 仕方ないことだったんだ!
自分に言い訳をしながら、期待に胸を膨らませていた俺だったが、一向にレインの唇が触れてくる様子はない。
あれ?
そう思った時だった。
ガプッ!
え?
なんだか首筋に鋭い痛みが走った。
チューチュー。
いや、あれ? 何この音。
首筋が徐々に熱くなり、俺の体から力が抜けていく。
ちょ、待って! 俺が期待したのはそのチューじゃない。
そういえば忘れていたけど、レインはヴァンパイアだった。
ヴァンパイアといえば、人の血を吸うのがお約束だ。
どうやら俺は、入学初日からヴァンパイアの朝食にされてしまったみたいであった。
お読みくださりありがとうございます。
10分考えたけど、書くことなかったわ。
いや厳密にはある。
あるんだが、これをこの場で言ってもいいものか……。
そう考えていたら10分経っていたんだ! 本当なんだ!




