表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トンボ  作者: サワヤ
1/2

淡い光

 草木に囲まれた、小さな池のほとり。


 そこは森の生き物達にとってちょっとしたオアシスだった。木々の枝葉に阻まれてそこから青空を見ることはできないが、木漏れ日が降り注ぐオアシスは明るく輝いている。緑と光が池の水に反射して、まだ小さな体の僕と亜香里を包んでいた。


 擦りむいた僕の腕に大きな絆創膏を貼りながら、亜香里は僕を見て言った。


「キス、してみよっか」


「するか、バカ」


 僕は近くを悠々と飛んでいたオニヤンマが気になるふりをして、亜香里から目をそらす。


 オニヤンマはその大きくて小さな体の体重を、荻の穂にふわりと乗せた。けれども荻はその重さに耐えきれず、次第にぐぐぐと曲がっていく。

 彼の複眼は大きな木のすぐ横に座る僕と亜香里をじっと捉えて、そうしてまた飛び去った。


「キスは好きな人とするんだって。だから私は、まさとくんとしようと思ったの」


「おれはおまえのことを好きじゃないかもしれないだろ」


 亜香里はふふっと声を出して笑う。亜香里の笑顔は暖かくて、寂しくて、それでいてどうしようもなく可愛かった。


「そうだね、そうかもしれない」


「えっ、いや、おれは……」


「おれは、何?」


「なんでもない」


 僕の言葉を聞いて亜香里はまた笑った。おれ、だってさ。今までみたいに僕でいいのに。亜香里はそう言いたげでもあった。


「じゃあ、する?」


 そう言って亜香里は僕の顔を上目遣いで覗き込む。僕はまた目をそらしたくなったけれど、それはだめだよと亜香里の目が訴えていた。


「か、勝手にすればいいだろ……」


「やっぱり、しなーい」


 亜香里はざっ、と音を立てて立ち上がり、僕に背を向けて池へと向かって歩き出した。


「あか……じゃなくておまえ、また池に落ちるかもしれないぞ」


「聞こえないなあ」


「……あかりちゃん」


 亜香里はくるりと僕の方へと振り返って。


「うん!まさとくんの言うこと聞いてあげる!」


 僕はほっとして、すると眠気が近寄ってきていることを感じた。瞼が重くなり、池に差し込む木漏れ日がぼやけていく。

 亜香里は首を少し傾けて、ぽかんとした表情をしていて。けれどその亜香里の姿も次第に見えなくなっていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ