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赤い小人  作者: 加水
8/8

赤い小人(8)

 あれから、約一ヶ月。

 だんだんと記憶が薄れて、過去の夢であったと思うようになっていた。

 ただ、心のどこかでまだ忘れたくないと言っている自分がいるのも確かで。

 だから、毎日あかに教わったクッキーを作る。今日も皿に盛り付け、椅子に腰を下ろし

た。

 窓から見える青い空をぼーっとしながら眺めながらあの日をかえりみる。

 あの後、ももがいなくなって一人になった俺は、自然に涙が溢れでて……止まらなかっ

たっけ。今思うと恥ずかしいが。

 でも、泣いた後はすっきりして頭もよく動いたっけ。今更最後の願い事なんて考えても

な。と思いつつ思ったことを口にしてた。


『神様との約束なら、神様とやらの記憶をなくせば……』


 なんて。もう一ヶ月も経つのか……。

 天気がいいな。


「ゆうと! 美味くなったじゃん!」


 ふと、過去から現実に戻ると、いきなり空耳が聞こえた。お菓子の方から懐かしい声が

したと思った。

 少しびっくりしたが、なるべく期待せずに菓子に目をやった。

 視界に入ってきたのは、赤とピンクの帽子。菓子はなくなっていた。

 胸はいけないと思っても小踊りをしだす。


「……俺、頭おかしくなったか?」


 自分の状況をぽつり。

 幻まで見えるなんて。そうとう頭がいかれてるに違いない。


「ち、違うよ。ゆうとさん! あかが生き返ったの!」


「ゆうとのおかげだ。ありがとう。」


 ももとあかが口々に言った。嬉しそうな満面の笑み。思わずつられそうになった。

 だが、はっきりと思ったことを言おう。


「何でだ?」


 ちなみに両方に聞いている。

 結局最後の願いは叶わなかったはずだし、俺はあかを助けることができなかったんだ。

 それがなぜ今更になって……幻覚以外に思えるわけがない。

 あかとももは目を見開いて俺を見る。


「だって、ももから聞いたよ?あんたが、ももに神様の記憶を消せって願ったんだろ?」


「はっ?」


 あかの台詞につい聞き返してしまった。

 ちょっと待てよ。それを言ったのは、ももが消えて、ひっそり一人で泣いた後。冷えた

頭で考えた時。

 ももを横目で見た。俺の視線を感じたのか、慌ててそっぽを向き口笛を吹く。


「……もも。お前、あの場にずっと居やがったな!!?」


 ガタンと机を拳で叩いた。あかとももが反動で小さく飛び上がった。

 この野郎っ。人が誰もいないと思ったから泣いてた時にっ!!


「や、やだな。ゆうとさんの泣き顔なんて見てないよ!」


「やっぱり居やがったな!!」


「どうどう」


 ももの言葉に熱くなる俺を、あかが両手を上げて落ち着かせようとする。

 だが、どうどうなんて、俺は牛じゃねぇ!!

 ……怒っていても仕方ない。なんで、ももが願い事を叶えたか。ってことだ。


「はぁ。まあいい。それよりもも、お前あの時言ったよな?自分が消える前なら願い事を叶えるって。それがどうして消えた後に言ったことを叶えたんだ?」


「それは、小人が人間への手伝いをするから」


 ももはそう言ってウィンク一つ。誤魔化してるのがバレバレだっつーの。

 じと目でしばらく見てみる。ももは乾いた笑いをした。


「あは、やっぱり駄目?……実はね、あの姿が消えるまでっていうのも神様との約束で。要するに、あかの名前を呼んだ記憶と一緒に消しちゃえば大丈夫かな〜なんて」


 あははと尚も笑うももに、あかさえもじと目で凝視していた。


「無茶するなよ。もも」


「大丈夫。神様忘れた。何も危険なし」


 あかの言葉に答えたのは別の声。よく見ると、あかの後ろに白い小人がいた。

 台詞からすると、この小人が記憶を消す魔法を持っているのだろう。

 と、すれば。


「そうか。ありがとう、しろ」


「をい、あか。お前が来たのは、自分が生き返ったのを知らせに。ってわけじゃないな?」


 記憶を消すのがいるってことは、そういうことだ。

 最初の約束。三つ願いを叶えさせてくれ。そしたらあんたの記憶を消すことができる。

 あかは頷き、神妙な顔付きで俺に言った。


「あぁ。わかってるとは思うけど、ゆうと。あんたの三つの願いは全て叶えた。」


「わかってる。今度は俺の記憶を消すんだろ?」


 俺はあかに笑いかけた。

 あかは、額に皺を寄せ、俺に視線を返す。


「本当にいいのか?」


 そんなすねた顔で、すねたこと言うなよ。躊躇っちまうだろ。


「いいさ。今なら後悔もない。全てが終わった今の、晴れ晴れとした気持ちのまま忘れられるなら、悪くねぇ」


 本当は、また一緒に遊びたい。

 こんな良い思い出、忘れたくなんかない。


 けど、約束だ。

 あかが頷いて、しろに指示を出した。

 俺は自然に目を閉じる。

 今度目を開けた時、俺は全て忘れているだろう。



 それでいいんだ。



 俺はうっすらと目を開けた。目の前にはさっきと同じ風景……。


「をい。なんで俺はまだ覚えてるんだ?」


 記憶はなくなってなんかいない。あかやももとの出会いからはっきりと覚えている。

 問いに、あかがにんまりと笑って答えた。


「そりゃそうさ。違う魔法をかけたんだから。言っただろ?願い事を叶えたら一回だけその人間に魔法を使うことができる。って。それは、記憶を消す魔法じゃなくてもいいのさ。しろがゆうとにかけた魔法は」


 そこで止めると、あかとももは顔を見合わせた。

 笑顔がさらに明るくなり、俺に戻ってくる。


 あかとももは、口を揃えてこう言った。






「僕(私)達を決して忘れない魔法。」





 決して忘れない。

 忘れなければ、名前なんか呼ばないだろ?

 あかの口調は笑っていた。


 俺も、笑った。

 あか達が、俺と同じ気持ちだとわかったら、


 嬉しかったから。









 だから、ずっと一緒にいよう。











 小人。彼等の名前は諸刃の剣。

 知られてしまえば死ぬことにも成り得るが、それを乗り越えたなら……。

 小人は幸せを、手に入れられるのだ。










中篇です。

この話はとりあえずメルヘンちっくだったな。なんて。

当初はあかと主人公以外出てこなかった予定だったんですが、いつの間にか増えてましたね(笑)

しかも、三つの願いというのも実は全然違う目的で使おうと思ってたり。

まぁ、最初とはだいぶちがくなりましたが、今回はこのストーリーが一番だと思ってます。

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