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赤い小人  作者: 加水
4/8

赤い小人(4)

「うわっ!?」


「きゃっ!」


 思わぬ行動に悲鳴をあげたあかともも。まあ、いきなり捕まれて肩に乗っけられてるんだから当たり前か。

 二人はきょとんとした目で俺を見つめた。わけがわからない。そう言ってるようだ。


「クッキー作るんだろ?」


 口の端をあげてやると、ももの目が涙目とは違った輝きをともす。

 そして、元気良く頷いた。


「うん!」


「……ふぅ」


 ももの機嫌が直ったことに、安堵の溜め息をつくあかだった。それを見ると、どうも笑いが込み上げて来てしかたがない。

 とりあえずはキッチンに移動。そんな広いキッチンではないが、まあ俺と小人が動く分には十分だ。


「って、本当に作るんじゃなくて魔法でぱっと出す。のか?」


 そういや魔法使えるわけだから、よく考えればそうだよな。

 あかが俺の台詞に目をキラリと光らせた。


「魔法より、作った方が美味しいよ。だいたい小人は魔法より作る方が得意なんだ」


 胸を張って言い放つ様は自信満々。これは多少期待してもいいかもしれない。

 あかは、軽々と俺の肩から飛び降りるとキッチンの上へと着地した。


「さーて、小麦粉、卵にバター。んでもって少量の牛乳!」


 歌うかのように陽気に材料の名前を出し、指を指して行く。

 するとどうだろう、何もなかった場所に、次々と言った材料が出てきたじゃないか。

 袋ごと出てきた小麦粉を筆頭に、ボールの中に入った数個の卵、皿に置いてあるバターに、カップに入った牛乳。更に、菓子作りに欠かせない泡立て器や皿も出てきた。


「さーて、作るぞ〜。もも、運ぶの手伝って」


「うん!」


 腕捲りをし、舌で唇を濡らす様は楽しそう。そんなあかが、勢いよく小麦粉に手をかけた。

 反対側にはももがスタンバイ。


ズシャ


 勢い良く持ち上げたかと思ったら、小麦粉があっさり崩れる。袋の中からドサドサと白い粉が飛び出てきた。

 それと、プチ。そんな潰れるような音もおそらく出ただろう。

 『せーの』という掛け声と共に、あかは袋の影に。いうなれば下敷になったのだ。

 重かったのか、反対側にいたももの力が強かったのか、はたまた転んだのか。理由はわからないが、間抜けな光景だ。

 しばらくどうなるかと様子を伺ってみる。しかし、ももが慌てるだけで他は何も変わらない。

 ももが、なんとか袋を持ち上げようと試みる。しかし、粉が出るだけで袋を動かせそうにない。諦めたのか、しまいにはおろおろしながら俺を見上げる始末。


「はぁ」


 ため息一つ。片手で倒れている袋を持ち上げて立たす。その際今までより多くの粉が溢れたが気にしない。例えそれで、あかが赤と呼べない白い色になったとしても、気にしない。

 あかは案の定、蛙のごとく倒れていた。しかし、直ぐ様起き上がり身を震わせた。


「魔法でも使って運べばいいだろ?」


 あかが礼の言葉をいいながら服を叩いているのを横目で見、文句を突き付けた。

 その言葉にあかは困ったように苦笑い。


「小人は魔法が苦手。更に言うなら、自分の得意とする魔法以外はからっきし駄目なんだ」


「あかは物を出す魔法しか使えないの。重い物を運ぶのはきーの役目なの。きーっていうのは黄色の色の小人よ」


 あかとももは説明しながら小麦粉を見上げた。運ぶ方法を考えているようだ。


「なら、その黄色に頼めば?」


「駄目。本来の仕事の方に皆行ってるから。あか、ボールを側に持ってきて、袋を倒してみようよ」


 質問にあっさりと否定の意を示すのはもも。

 あかはももに言われた通り卵が入ったボールをえっちらおっちら押している。

 ……亀の歩みのごとき鈍さ。これじゃあ、いつまでかかるかわかったもんじゃない。

 仕方なしに小麦粉を片手に持ち、もう一方の手でボールを近くまで寄せた。


「なんだよ、ゆうと」


 押すものが突如なくなり、すっころんだあかが、顔を押さえながら不思議そうに問いかけてくる。


「手伝ってやるから指示よこしな」


「……あ、ありがと」 


 驚きの表情が、あかの顔に貼りついている。

 わからんでもない。俺だって正直な話、内心驚いている。生意気で非現実的、できれば関わりたくないと思ってた連中に、あっさりと手を貸している今の状況に。

 別に仲良くしようなんて今でさえ思っていないわけで……ただ、手を貸すくらいなら良いかと思っただけで。いや、こいつらに任せてたら日が暮れると思ったから手伝うんだ。あぁ、絶対にそうだ。

 悩んだすえ、答えを出している俺を知るよしもなく、あかは作り方を指示していく。

 できたのは丁度三時のおやつの時間。

 昼前から作り出し、できた数はかなり多い。大皿に溢れんばかりに収納されている。しかもそれが一つ、二つ、三つ、四つ……。

 短時間でこんなにたくさん出来上がったのは、焼く時間がほとんどかからなかったせいだ。それはなぜか。ももが言うには時間を短縮できる魔法を持った仲間が助けに来たらしい。

 あいにく、あかは作るのに一生懸命で、その仲間と話たりしなかった。だから、俺にはその仲間が見えなかったわけで。

 クッキーが、すぐに焼き上がるのが見えただけ……。ちょっと気味が悪かったが、小人が普段は見えないということがよくわかった。

 ちなみに、今も透明人間がごとく、その小人が食べているクッキーが何もない空間に消えていっているように見える。


「あぁ、ゆうとは僕の見える人なんだ」


 あかが何かに答えを返す。すると、今まで見えなかった小人が姿を表した。

 黒色で帽子を深く被っており、目が見えない。


「へぇ。じゃあ、これがあかの……」


 目を出すことなく俺を見上げる黒いの。見えてるんだろうか……。


「んー! 美味しい!!」


「うん。まずまずの合格点だ」


 ばくばくと、次から次へ頬張っていたももの声があがった。

 それにつられてかあかも感想を述べる。可愛くない物言いで。


「あのな、お前に言われた通りやっただろ?」


「多分、力加減の頃合いのせい。」


 俺があかの口にクッキーを多量に押し込むのを無視し、黒いのがぽつり。


「もがむ!」


 黒いのの言葉に気を取られたら、あかが俺の口の中にクッキーを敷き詰める。魔法だろうな。誰かに目配せしたのが見えた。

 出来立ては熱い。マジで。もちろん俺はむかついたので、あかをクッキーの山に押し込める。


「ぷ、あははは。あかとゆうとさん、何やってるの?ふふ。」


 ももは笑って、黒いのはもくもくと食べ、俺とあかは火花を散らしてファイティング。

 賑やかで煩いが、つまらなくはない。気持をぶつける相手がいるのは案外……。

 まっ、たまにはこんなおやつ時間を過ごすのも悪くはないかもしれない。なんて、柄にもなく思ったりする。




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